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                    anything crisp and wonderful* (* "something wonderful" 2001: A Space Odyssey)

1. CRISPEY:超並列精密ゲノム編集による機能ゲノミクス
[出典] "Functional Genetic Variants Revealed by Massively Parallel Precise Genome Editing" Sharon E,  Chen  SAA, Khosla NM, Smith JD, Pritchard JK, Fraser HB. Cell. 2018 Sep 20.
  • シーケンシング技術の進歩によりゲノム変異を同定することは容易になったが、病因変異など遺伝変異と表現変異の因果関係を同定することは、QTLやGWASによる解析の分解能が低いこともあり、未だ困難である。
  • スタンフォード大学の研究チームは今回、CRISPR/Cas9を介した相同組換えに基づきながらも高効率、高精度な大規模並列ゲノム編集を実現するCRISPEY (Cas9 Retron precISe Parallel Editing via homologY)を開発し、酵母の機能ゲノミクスでその有用性を実証した。
  • CRISPEYの鍵を握るレトロン (retorn)は、バクテリアで発見された逆転写酵素(RT)とmulticopy single-stranded DNA (msDNA)と呼ばれる独特のssDNA/RNAハイブリッドをコードしているDNAエレメントである (下図:レトロン・エレメントから生成されるmsDNAの前駆体であるrektorn msr RNA)。Retron msr RNA
  • 研究チームは、E. coli Ec86レトロンのバクテリアレトロン配列を100-ntの長さに相同組換えドナーと相同アームの配列に置換し、3'末端にsgRNAを結合することで、核内で相同組換え用ドナーとなるssDNAsを大量に生成するCRIPEYを実現した。
  • 研究チームは、2種類の酵母株 (よく利用されている実験室株BYとブドウ園からの分離株RM)を対象として、16,006種類のSNPsと短いindelsを標的とする32,000組のsgRNA/ドナーのRTコンストラクトのプール型ライブラリーを介してRMアレルをそれぞれBY株に導入し、2%のグルコースを含む最小培地に対する適応度を判定した。
  • その結果、適応度に有意な違いが見られる572種類の遺伝変異を同定した。これらの遺伝変異は、プロモーター (特に、転写因子結合部位)にエンリッチされており、タンパク質コーディング領域(アミノ酸配列)に影響を与える遺伝変異は19.2%にすぎなかった。また、互いに50-bpの範囲に位置する遺伝変異が、適応度を同じ方向へ変化させることも見出した。
2. [プロトコル] 抗体を安定発現するハイブリドーマを作出するプラットフォームをCRISPR-Cas9技術で構築
[出典] Protocol "Genome Engineering of Hybridomas to Generate Stable Cell Lines for Antibody Expression" Parola C, Mason DM, Zingg A, Neumeier D, Reddy ST. In: Hacker D. (eds) Recombinant Protein Expression in Mammalian Cells. Methods in Molecular Biology. 2018 Sep 22.
  • 関連論文:"Immunogenomic engineering of a plug-and-(dis)play hybridoma platform" Pogson M, Parola C, Kelton WJ, Heuberger P, Reddy ST. Nat Commun. 2016 Aug 17.
  • Plug-and-(dis)play (PnP) バイブリドーマプラットフォーム;免疫グロブリン遺伝子座を標的とするCRISPR-Cas9技術により、HDRを介して内在VHを蛍光レポータータンパク質 (mRuby)で置換し、続いて、再編成されたVLを削除(関連論文Figure1引用下図上参照)
Hybridoma
  • CRISPR技術により、HDRを介してmRubyを合成抗体遺伝子 (sAb; VL+Cκ+自己開裂2Aペプチド+
    VH)で置換したPnP細胞は細胞表面で全長IgKとIgHを発現 (関連論文 Figure /2から引用上図下参照)
  • FACSを利用してsAbを発現する細胞を選別し、その培養上清から目的とする抗体を採取
3. 多系統萎縮症 (MSA)患者由来iPSCから誘導したニューロンにおけるコエンザイムQ10の病因
[出典] "The pathogenesis linked to coenzyme Q10 insufficiency in iPSC-derived neurons from patients with multiple-system atrophy" Nakamoto FK, Okamoto S, Mitsui J, Sone T, Ishikawa M, Yamamoto Y, Kanegae Y, Nakatake Y, Imaizumi K, Ishiura H, Tsuji S, Okano H. Sci Rep. 2018 Sep 21.
  • 慶応大、東大、慈恵医大の研究チームは、先行研究で、Q10の生合成経路の必須酵素COQ2の機能喪失変異がMSA (Multiple-system atrophy)と相関することを見出していたが、今回、患者由来の神経細胞の細胞死亢進を、Q10によって抑制可能なことを見出した。
  • 研究チームは、COQ2複合ヘテロ接合体変異を帯びたMSA患者由来のiPS細胞から誘導した神経細胞において、ミトコンドリア呼吸と抗酸化システムの機能不全を見出した。
  • さらに、COQ2遺伝子変異をCRISPR/Cas9を介して修復することで、機能回復が可能なことを示した。
4. EGFRを阻害することで抗PD-1免疫療法が強化される
[出典] "A high-throughput immune-oncology screen identifies EGFR inhibitors as potent enhancers of antigen-specific cytotoxic T-lymphocyte tumor cell killing" Lizotte PH [..] Janne PA. Cancer Immunol Res. 2018 Sep 21.
  • 卵白アルブミン (OVA)を発現させたマウス卵巣癌細胞株ID8とCD8陽性T細胞を共培養し、T細胞の細胞障害性に及ぼす低分子をスクリーニングし、EGFR阻害剤 (エロチニブ)がT細胞の細胞障害性を最も亢進することを同定
  • また、Cas9を恒常的に発現させたID8細胞を対象とするプール型CRISPRスクリーニングからも、EGFRを標的とするsgRNAが、T細胞に対する感受性を高めることを同定

1. gRNAsに対する末梢血単核細胞(PBMC) のI型インターフェロン応答を、化学修飾によって抑制
[出典] "Chemical Modification of CRISPR gRNAs Eliminate type I Interferon Responses in Human Peripheral Blood Mononuclear Cells" Schubert MS, Cedrone E, Neun B, Behlke MA, Dobrovolskaia MA. J Cytokine Biol. 2018 Jan 29.
  • 化学合成gRNAに対するIFN応答は、2’OMe RNA改変により抑止可能;IVT (in vitro転写) gRNAに対するIFN応答は、5'-三リン酸の除去によりPBMCで抑制され、HEK293細胞でIFN応答が阻止される
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2. [プレビュー] ウイルスの抗CR位SPR戦術:犠牲無くして成功なし
[出典] Preview "Viral Anti-CRISPR Tactics: No Success without Sacrifice" van Gent M, Gack MU. Immunity. 2018 Sep 18.
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* )crisp_bio記事
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3. [ビデオプロトコル]ゼブラフィッシュの効率的なCRISPR/Cas9遺伝子ノックアウトと同定
[出典] "Efficient Production and Identification of CRISPR/Cas9-generated Gene Knockouts in the Model System Danio rerio" Sorlien EL,  Witucki MA,  Ogas J. J Vis Exp. 2018 Aug 2.

4. 関連遺伝子を標的とするCRISPRiによるE. coliのATPレベルを最適化し、ピノセムブリン収量を向上
[出典] "Regulation of ATP levels in Escherichia coli using CRISPR interference for enhanced pinocembrin production" Tao S, Qian Y, Wang X, Cao W, Ma W, Chen K, Ouyang P. Microb Cell Fact. 2018 Sep 18.

5. 作物の遺伝子編集:  既存のGMO規制をバイパスすべきか適用すべきか?
[出典] "Crop Gene-Editing: Should We Bypass or Apply Existing GMO Policy?" Ishii T. Trends Plant Sci. 2018 Sep 18
  • 各国のGMO規制を概観し、現行GMOの定義外であり規制の対象外とすることも、単に現行GMOの規制の対象とするのでもなく、科学的かつ社会的議論のもとでGMO規制を改変することが重要
6. シロイヌナズナをモデルとして、各種CRISPR-Casヌクレアーゼの植物における遺伝子編集の効率と精度を評価
[出典] "Comparison of efficiency and specificity of CRISPR-associated (Cas) nucleases in plants: An expanded toolkit for precision genome engineering" Raitskin O,  Schudoma C, West A,  Patron NJ. bioRxiv. 2018 Sep 21.
  • 比較対象:SaCas9, SpCas9, Lb Cas12a, As Cas12a;SpCas9-h (ヒトコドン最適化), xCas9 3.7, eCas9 10, eCas9 1.1
  • 効率は、コドンとsgRNA構造の最適化にはほとんど依存せず、スペーサのGC含量と相関
  • SaCas9が最も効率的;'high fidelity' Cas9はオフターゲット編集減少の効用あり

出典
  • Preview "Human Diseases from Gain-of-Function Mutations in Disordered Protein Regions" Li XH, Babu MM. Cell. 2018 Sep 20
  • Article "Mutations in Disordered Regions Can Cause Disease by Creating Dileucine Motifs" Meyer K, Kirchner M, Uyar B [..] Diecke S, Pascual JM, Selbach M. Cell. 2018 Sep 20. Online 2018-09-06. (bioRxiv 2017 May 24)
背景
  • 疾患変異の殆どが三次元構造をとっているタンパク質の機能ドメインに位置しているが、疾患変異の~20%は天然変性領域 (intrinsically disordered regions, IDRs)に位置している。
  • IDRsは、安定な三次元構造へと折りたたまれないポリペプチドセグメントであるが、~2-10アミノ酸の長さの短鎖モチーフ (short linear motifs, SLiMs)を介してタンパク質相互作用ネットワークのハブとして機能することや、SLiMsへの翻訳後修飾 (post-translational modifications, PTMs)により調節を受けることが知られている。したがって、IDRsに位置する変異は、SLiMsやPTM部位の消失、改変または新生を介して、疾患の病因となることが想定される。
概要
  • Max Delbrück Center for Molecular Medicine in the Helmholtz Associationを中心とする研究グループは今回、IDRsにおける変異によって新生したSLiMsにもとづいてタンパク質が獲得した機能が、疾患の原因となる事象を同定した。
実験
  • UniProtのHumsavarデータベース から抽出した26,649種類の解析候補ミスセンス変異から、IDRs予測法IUPredによるIDRsにより1,878種類を選択し、さらに、Human Phenotype Ontologyを利用して神経疾患関連に絞り込んだ上で、最終的にマニュアルで128種類を実験対象に選んだ。
  • 128種類のIDRs変異について野生型と変異型の合成ペプチド (長さ15アミノ酸)のアレイをセルロース膜上で構築し、結合するタンパク質をプルダウンし、定量的ショットガンプロテオミクスで分析し、IDRs変異がタンパク質間相互作用に与える影響を判定した。
  • プルダウンにあたっては、ラベルフリー定量法 (label-free quantification)と、SILAC (Stable Isotope Labeling by Amino acids in Cell culture) 法を併用した。また、コントロールとして、SH3ドメインを介してタンパク質間相互作用をするバインダーが知られているSOS1のIDRsペプチドを採用した。
結果
  • 検出した101,765種類の相互作用の中で618種類が特異的相互作用であり、IDRsの野生型と変異型の間で有意な差異が見られた180種類からは、スプライシング因子またはクラスリン被覆小胞に関連するタンパク質間相互作用ネットワーク (PPI)を含むPPI群が広がっていた。
  • スプライシング因子関連PPIは、RNA結合タンパク質FUSをハブとするPPIであり、FUSのC末端領域に位置するIDR (512-526)におけるR521C変異は、筋萎縮性側索硬化症 (ALS)の病因とされている。
  • クラスリン被覆小胞関連相互作用ネットワークに関しては今回、3種類の膜タンパク質 (グルコーストランスポーターCLUT1(SLC2A1); IP3受容体ITPR1; 電位依存性カルシウムチャネルCACNA1H)のサイトゾルのIDRsの変異が、ジロイシンモチーフ (dileucine motif; LL)を新生し、その結果、クラスリン結合性が亢進することを見出した。
  • GLUT1についてはさらに実験を進めた。GLUT1は膜タンパク質としてグルコースの輸送を担っているが、IDRsの変異が誘導するクラスリン結合亢進、ひいては、クラスリン依存性エンドサイトーシスを介して、然るべき部位である細胞膜から細胞内へと移動し、このため、細胞膜におけるGLUT1量の減少およびグルコース輸送の抑制を引き起こしていた。
  • In vitro実験で、変異GLUT1はアダプタータンパク質 (AP)と相互作用し、AP-2のノックダウンがGLUT1を細胞膜に留めグルコース輸送が回復することも、同定した。
  • さらに、データベース検索から、サイトゾルのIDRsに疾患の病因となるジロイシンモチーフを帯びた膜貫通タンパク質 5種類(RET; CFTR; KCNQ1; L1CAM; RHBDF2)を同定し、“dileucineopathies”を提唱

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