[出典] "Neutralizing antibody responses to SARS-CoV-2 in a COVID-19 recovered patient cohort and their implications" Wu F [..] Huang J. medRxiv 2020-04-06

 復旦大学の上海公衆衛生クリニカルセンター・分子ウイルス医学国家重点研究室 (Shanghai Public Health Clinical Center and Key Laboratory of Medical Molecular Virology)が、軽症 (mild symptoms)のCOVID-19から回復した175名からの血漿を分析した結果をmedRxiv (査読なし)に投稿した。なお、
JAMA論文 (2020-02-24)によると、感染者の81%が軽症であり、14%が重症、5 % (特に、60代以上または基礎疾患を帯びている感染者)が危篤に至り、3.4%が呼吸器不全または多臓器不全で死亡する

 著者らは、レンチウイルスを基にしたシュードタイプウイルスを利用して 、抗体の中和活性を安全かつ感度良くアッセイした。
  • スパイク(S)タンパク質に結合する抗体の、SARS-CoV-2のSタンパク質の受容体結合ドメイン (RBD)、S1サブユニットおよびS2サブユニットへの結合性をELISAで決定した。また、SARS-CoV-2に特異的な中和抗体 [以下、NAbs (neutralizing antibodies)]およびSタンパク質に結合する抗体のレベルとタイムコースを測定した。
  • NAbsは、SARS-CoV (2003年)とは交差しなかった。
  • NAbsは、COVID-19の症状が顕れてから10-15日経過してから検出された。
  • NAbsの抗体価は、S1, RBDおよびS2を標的としてSタンパク質に結合する抗体と相関し、患者ごとに異なった。
  • 老年と中年 (40~85歳)のNAb抗体価が、若年者 (15-39歳)のそれよりも顕著に高かった。
  • NAbs検出限界未満 (IC50: <40)の患者が10名存在した一方で、2名の患者が極めた高い抗体価を示した (ID50: 15989と21567)。
  • 血漿のC反応性タンパク質 (CRP http://www.jrcla.or.jp/kensanohanashi/img/h24_09.pdf)のレベルと正に相関し、リンパ球数とは負に相関し、液性免疫応答と細胞性免疫応答との相関が示唆された。
 今回得られた結果から、効果的なワクチン開発のために、抗体価と年齢、リンパ球数および血中CRPレベルとの相関関係について解析を深める必要がある。また、回復期血漿療法を進めるにあたり、抗体価の測定が必須であることが、改めて、明確になった。

[SARS-CoV-2抗体関連crisp_bio記事]
  • 2020-03-20 新型コロナウイルス:ELISAによるSARS-CoV-2に対する抗体検出を実現: "A serological assay to detect SARS-CoV-2 seroconversion in human" Amanat F [..] Krammer F. medRxiv 2020-03-18.
  • 2020-03-14 新型コロナウイルス:SARS-CoV-2の感染を阻害し中和するヒト・モノクローナル抗体を作出: "A human monoclonal antibody blocking SARS-CoV-2 infection" Wang C, Li W, Drabek D [..] Grosveld F, Bosch BJ. bioRxiv 2020-03-12.
  • 2020-03-14 新型コロナウイルス:血清療法で凌ぎつつ、抗体とワクチンを待つ: "The convalescent sera option for containing COVID-19" Casadevall A, Pirofski L. J Clin Invest 2020-03-13
[SARS-CoV-2抗体関連bioRxiv投稿]

2020-04-10 新型コロナに「安価ですぐ始められる」古典的な治療法を評価へ - カナダが回復期血漿を投与する世界最大規模の臨床試験を開始. 日経バイオテク 2020.04.10米国FDA、"invesigatinal"回復期血漿輸血を推奨するガイダンスを発表 "Recommendations for Investigational COVID-19 Convalescent Plasma" FDA 2020-04-08
2020-04-05 「回復者の血しょう投与試験もスタート」国立国際医療研究センター忽那賢志医師へのインタビュー記事. 岩永直子. BuzzFeed 2020-04-04 10:16
2020-04-01 crisp_bio記事参照: 回復した患者由来の血漿を移植することで重篤な感染者5名と10名の集団の症状改善
2020-03-26 血清療法に関するNature New 2020-03-23はこちら "How blood from coronavirus survivors might save lives": ニューヨークの研究者は、集中治療室から重篤な感染者を、回復期または回復した感染者からの抗体リッチな血漿によって救い出せるようになることを期待している。
2020-03-20 2020-03-19のmedRxiv投稿の書誌情報を、crisp_bio 2020-03-20記事へのリンクへ改訂
2020-03-19 medRxiv投稿"A serological assay to detect SARS-CoV-2 seroconversion in humans"の書誌情報など[参考]として[引用資料]の前に挿入; 2020-03-19 12:48に書誌情報の誤りを修正
2020-03-14 初稿

[出典] "The convalescent sera option for containing COVID-19" Casadevall A, Pirofski L. J Clin Invest 2020-03-13

概要
  • 開発が急がれているが、SARS-CoV-2に対するワクチンも、モノクローナル抗体 (mAbs)も、製剤も存在していない。
  • Johns Hopkins School of Public HealthとAlbert Einstein College of Medicineの研究者らは今回、1890年代からの血清療法 [1]の歴史的事例に基づいて、COVID-19から回復し免疫グロビンを帯びた血清を提供できる集団が存在すれば、この緊急時には、血清療法が有用であるとした。
受動的免疫療法
  • ワクチンを投与する能動的免疫療法は効果まで時を要し、その効用に個人差があるが、抗体を投与するなどの受動的免疫療法には、リスクを帯びた人々への即効性がある。
  • 受動的免疫療法の歴史は1890年代にまで遡り、抗生物質が登場する1940年代まで、感染症に対する唯一の療法であった。また、近年のSARS-CoV-1のようなコロナウイルスのアウトブレイクの際にも、回復期の患者に由来する中和抗体による受動的免疫療法が有効であった。
  • SARS-CoV-2に対する受動的免疫療法の作用機序として、ウイルスの中和の他に、抗体依存性細胞傷害作用 (ADCC)そしてまたは食作用 (phagocytosis)を想定できる。SARS-CoV-2の抗体はさまざまな手段で開発可能であるが、今すぐに利用できる抗体は、回復期の患者の血清に含まれる抗体でる。
  • 受動的免疫療法は、一般的に、治療より予防に有効であり、治療に利用する際には、症状があらわれてから短時間のうちに処方する必要があり、肺炎球菌性肺炎の場合は、3日以内と言われている。
  • 免疫グロブリンによる予防は、抗体のレベルと組成によるが、数週間から数ヶ月間継続、と言われている。
歴史的先例
  • 回復期血清療法は20世紀にはいって、さまざまな感染症に応用されてきたが、1918年のH1N1インフルエンザウイルスのパンデミックの際に、患者1,703名のコホートで血清療法によって死亡率が低下することが確認された。
  • 2009-2010年の重篤なH1N1インフルエンザウイルスのパンデミックの際には、回復期血清の抗体を介して、呼吸器系でのウイルス量とサイトカイン応答および死亡率が抑制された。
  • 2013年の西アフリカでのエボラ・エピデミックでは、回復期血清全体の投与が延命効果を示した。鳥インフルエンザウイルスのH5N1とH7N9の際も、少数例であるが、回復期血清を投与された患者が生存した。
  • ただし、歴史的先例は、多くの場合、抗体のレベルやウイルスの血清型のデータがないまま投与され、また、ランダム化またはブラインディングが行われていなかったため、近代的臨床試験の条件を満たしていなかった。
  • 21世紀に入って、2003年のSARS1 (重症急性呼吸器症候群), 2012年のMERS (中東呼吸器症候群)と、2回のコロナウイル・エピデミックが発生した。韓国でのMERSのアウトブレイクも含めて、いずれも少数例であるが、回復期血清の投与が効果を示したが、一方で、回復期血清に含まれる抗体のレベルと組成に効果が依存することを示唆する結果も見られた。COVID-19についても、詳細は不明であるが、中国での実施例が報道されている (245名に投与し、91名に改善の兆しあり) [2]。
受動的免疫療法の特長とリスク
  • 回復期血清の投与は、基礎疾患を抱えている者、医療従事者、COVID-19感染者との濃厚接触者などのハイリスクな人々を対象とする予防に有用である。
  • 受動的免疫予防は既に、B型肝炎ウイルスや狂犬病ウイルス暴露に対するそれぞれのヒト免疫グロブリン投与として臨床応用され、また、RSウイルスについても高リスクの幼児に施されている。
  • リスクは3種類である: (1)血清に含まれる望ましくない要素 (標的以外の病原体など)と血清構成要素に対する免疫応答 (血清病)の影響、および、肺疾患を伴うCOVID-19感染者における輸血関連急性肺障害が; (2) 抗体依存性感染増強 (antibody-dependent enhancement of infection:ADE); (3) 免疫応答の低下に伴う、コロナウイルスへの再感染や他のウイルス・病原菌への感染。
 著者らは、続いて、回復期血清による予防と治療を進める前提条件を論じた後、COVID-19パンデミックにおいては、各機関で回復期血清の緊急利用を進めるべきとした。

参考資料
  • crisp_bio 2020-02-30 新型コロナウイルス:ELISAによるSARS-CoV-2に対する抗体検出を実現
引用資料
  1. "血清療法の確立 - 救いたい命がある。救える方法は、まだない" TERUMOテルモ株式会社 ウェブサイト「医療の挑戦者たち 31」.
  2. "China puts 245 COVID-19 patients on convalescent plasma therapy" News release. Xinhua. February 28, 2020
関連crisp_bio記事
  • crisp_bio 2020-02-22「新型コロナウイルスのスパイク糖タンパク質 (S)の構造、機能および抗原性」... さらに、SARS-CoV-2 S-MLVで免疫したマウスの血清が、 SARS-CoV S-MLVのVeroE6細胞への感染を完全に阻害し、SARS-CoV-2-MLVの感染をコントロールの~10%まで抑制することを見出した。
  • crisp_bio 2020-02-26 米国、新型コロナウイルスに対するmRNAワクチン第1相試験へ
  • crisp_bio 2020-03-02 新型コロナウイルスのメインプロテアーゼに対してIC50 0.48μMの阻害活性を示す低分子を治験薬から発見
  • crisp_bio 2020-03-07「新型コロナウイルスの感染は、ヒト細胞のACE2とTMPRSS2に依存し、慢性膵炎治療薬で阻害される」... 回復期のSARS患者は、SARS-CoVのスパイクに対する中和抗体を帯びている。SARS回復期の患者3名に由来する血清が、in vitroで、SARS-CoVの細胞侵入を阻害し、また、SARS-CoV-2の細胞侵入も、効率は低いが、阻害することを見出した。SARS-CoVのスパイクのサブユニットS1で免疫したウサギの血清も、SARS-CoVとSARS-CoV-2の細胞侵入を阻害した。
  • crisp_bio 2020-03-11「SARS-CoVのスパイク(S)のサブユニットS2に対するモノクローナル抗体が、SARS-CoV-2と交差反応した」
  • crisp_bio 2020-03-14 新型コロナウイルス:SARS-CoV-2の感染を阻害し中和するヒト・モノクローナル抗体を作出
血清療法の模式図 (Eric Topolのツイートから引用)

1. プール型誘導性CRISPRiスクリーニングにより、Synechocystis sp PCC 6803をカーボンニュートラルな細胞工場たらしめるに有用な、細胞成長、L-乳酸に耐性と産生に関与する一連の遺伝子を同定 (ワークフローについてFig. 1引用下図参照)
Synechocystis
[出典] "Pooled CRISPRi screening of the cyanobacterium Synechocystis sp PCC 6803 for enhanced industrial phenotypes" Yao L, Shabestary K [..] Hudson EP. Nat Commun 2020-04-03

2. 合成gRNAsの活性は、in silico予測に拠らず、in vivoでアッセイすべき:  合成gRNAsの活性をRFLP解析を介してin vivoスクリーンし、1遺伝子あたり少数 (2種類)のgRNAsでのゼブラフィッシュ機能ゲノミクスを実現; 脊髄再生に関与する30種類のマクロファージ関連遺伝子から軸索再生に必要な遺伝子10種類を同定; 安定な変異体4種類を詳細に解析し、gfb1aが炎症を制御し脊髄再生を亢進することを同定
[出典] "Phenotypic screening using synthetic CRISPR gRNAs reveals pro-regenerative genes in spinal cord injury" Keatinge M, Tsarouchas TM [..]  Becker CG, Lyons DA, Becker T. bioRxiv 2020-04-04

3. CRISPR/Cas9による内在性ウイルス様配列 (EVE)削除実験からネッタイシマカにおけるEVEの機能を同定:ネッタイシマカのEVEの一種である非レトロウイルス性のcell-fusion agent virus (CFAV)をモデルとして、EVEに由来するpiRNAが外来ウイルスの増幅を抑制することを同定
[出典] "Non-retroviral endogenous viral element limits cognate virus replication in Aedes aegypti ovaries" Suzuki Y, Baidaliuk A [..]  Lambrechts L, Saleh MC. bioRxiv 2020-03-30

4. SHERLOCKアッセイにより、プラスモジウム属 (マラリア原虫)の安定した高感度な検出、種の同定、および、薬剤耐性をもたらす1塩基変異の同定が可能になった; コンゴ、ウガンダおよびタイからの123種類の臨床検体ならびにタイ由来のハマダラカ、および、スルファドキシン/ピリメタミン耐性をもたらすA581Gにて、実証
[出典] "A novel CRISPR-based malaria diagnostic capable of Plasmodium detection, speciation, and drug-resistance genotyping" Cunningham CH [..] Juliano JJ, Parr JB. bioRxiv 2020-04-02

5. DNAメチルトランスフェラーゼの標的DNAへの結合を、dCas9-gRANにより物理的に阻害する手法を開発し、ヒト細胞内で、標的サイトでの脱メチル化と遺伝発現との因果関係の解明が可能なことを、実証した; 
[出典] "Unraveling the functional role of DNA methylation using targeted DNA demethylation by steric blockage of DNA methyltransferase with CRISPR/dCas9" Sapozhnikov DM, Szyf M (McGill U).
bioRxiv 2020-03-30. 

6. CRISPR/Cas9 HDRはオンターゲット部位に望ましくない変異を誘導する: ヒト幹細胞への病因変異導入を試みたところ、編集されたクローンの40%で単一アレルの大規模な削除とヘテロ接合性の喪失が発生していた; この現象は通常の品質管理で捉えられないことから、新たに、定量的ジェノタイピングを可能とする簡便で低コストのPCR法 (qgPCR)およびシーケンシングに基づく手法を開発した。
[出典] "Detection of deleterious on-target effects after HDR-mediated CRISPR editing" Weisheit I [..]  Paquet D. bioRixv 2020-03-29

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