[出典] "Extensive adaptive immune response of AAVs and Cas proteins in non-human primates" Xiao P, Bai R, Zhang T [..] Chen Y. bioRxiv. 2019-03-25.

 CRISPR-Casシステムはその利便性と効率の良さから遺伝子編集に広く利用され、遺伝子治療の標的細胞への送達には安全性と効率の良さからAAVsが最も有力とされてきた。しかし、ヒト血清にSpCas9とSaCas9に対する液性免疫と細胞性免疫が内在していることが見出され、in vivo CRISPR遺伝子編集に対する新たな懸念が生じてきた。

 また、遺伝子治療のためのCRISPR-Casシステムの送達手段として、遺伝子治療用ベクターとして実績があるAAVsが有力であるが、ヒトと非ヒト霊長類 (non-human primates, NHPs)に内在するAAVsに対する中和抗体によって形質転換効率が影響を受け、さらに、AAVsのカプシド・タンパク質がT細胞に認識されることから、CRISPR-Casによる遺伝子治療には、AAVsに対する細胞性免疫も懸案事項である。

 昆明理工大学Yongchang Chenら中国研究グループは今回、ヒトに最も近いモデル動物であるマカクサル (アカゲザルとカニクイザル)に加えてイヌならびにSPFマウスの、SaCas9、SpCas9、AsCas12aならびにLbCas12aに対する液性免疫応答を測定した。また、マカクサルについては、AAV8とAAV9に対する中和抗体を測定した。
  • ELISAにより、1~12歳のマカクサルの血清において、AAV8とAAV9に対する中和抗体を検出した (抗体価は年齢依存:原投稿 Fig 1引用下図参照)。スクリーンショット AAV
  • サル、イヌおよびマウスの血清全てについて、合成・精製したSaCas9、SpCas9、AsCas12aおよびLbCas12aの全てについて検出した (原投稿Table 1引用下図参照)。Table
  • SpCas9に対する抗体については定量的比較も行い、ELISAおよびウエスタン・ブロッティングのいずれの結果も、SPFマウスでの抗体価がサルとイヌよりも顕著に低いことを見出した (原投稿Fig. 2引用下図 b/f 参照)。Cas
    また、野生型サル、CRISPR/Cas9編集を加えたサルおよびTALEN編集を加えたサルの間では、SpCas9に対する抗体レベルに有意差がなかった (原投稿Fig. 2引用上図右 c/d/e 参照)。
  • (*) 研究グループは、ヒトとサルに内在していることが示されたCRISPR-Casに対する適応免疫応答 (Pre-existing Adaptive Immune Responses against CRISPR-Cas nuclease)をPAIR-Cと表記
PAIR-C関連crisp_bio記事
  • CRISPRメモ_2018/01/07 [第2項] ヒトはSpCas9とSaCas9に対する抗体を帯びている
  • CRISPRメモ_2018/04/06 [第1項] ヒト細胞はSpCas9に対して特異的なエフェクターT細胞と制御性T細胞を生成する
  • CRISPRメモ_2018/06/20-1 [第5項] 米国コホート由来血清中に、Cas9導入に先んじて内在している抗Cas9抗体は、先行報告*よりも少量

[crisp_bio注] 2019-03-26 8:30am: 項目8の出典の誤りを修正しました
1. 大規模な機能スクリーニングを実現する化合物誘導性CRISPR-Cas9システムを開発
[出典] "Development of drug-inducible CRISPR-Cas9 systems for large-scale functional screening" Sun N [..] Chung N. BMC Genomics. 2019-03-19
  • AbbVie Incからの報告。活性を恒常的に維持しているCRISPR-Cas9と同等の編集効率を帯び、Cas9の活性を誘導する化合物が存在しない条件における活性 (バックグラウンド活性)がミニマルであるTet誘導性ならびにIPTG誘導性CRISPR-Cas9システムを構築・検証 (原論文Fig. 1引用下図参照)DRUG INDUCIBLE
  • EGFPをレポータとして、11種類のヒトとマウスの細胞株にてin vitro遺伝子ノックアウト、ならびに、造血機能再構築モデルマウスにおけるin vivo遺伝子ノックアウト
  • 次いで、化合物誘導性のCRISPR-Cas9システムと恒常的に活性なCRISPR-Cas9を対象とするゲノムワイド機能喪失スクリーンの比較解析
  • さらに、PD-L1発現を正あるいは負に調節する因子を IFNγで処理したマウス結腸癌由来MC-38細胞を対象とするプール型CRISPRスクリーンにより同定
2. LION: CRISPR遺伝子編集用のsgRNAsを5時間で作成する手法
[出典] "LION: a simple and rapid method to achieve CRISPR gene editing" Xiang X [..] Luo Y, Lin L. Cell Mol Life Sci. 2019-03-18.
  • BGI-Shenzhenをはじめとする中国研究グループが、ゴールデンゲートアッセンブリー4時間とDNA精製1時間の2段階、計5時間で形質転換可能なCRISPRプラスミドを生成するLION (LIgation of double-stranded gRNA oligos into CRISPR vector by GGA followed by nucleic acid purifcatiON)を開発しその性能を実証
3. [プロトコル] E. coliにおける指向性進化法に基づく高精度なCas9作出を実現したSniper-screen
[出典] "Using Sniper-Cas9 to Minimize Off-target Effects of CRISPR-Cas9 Without the Loss of On-target Activity Via Directed Evolution" Lee J, Jung MH, Jeong E, Lee JK. J Vis Exp. 2019-02-26.
  • オリジナル論文:"Directed evolution of CRISPR-Cas9 to increase its specificity" Lee JK [..] Kim JS. Nat Commun. 2018 Aug 6;9(1):3048
  • 関連crisp_cas記事:2018-08-08ランダム変異導入から高精度・高活性なCas9変異体を開発 [第2項] 指向性進化法 (directed evolution)によりCRISPR-Cas9の精度を高めた"Sniper-Cas9"を開発 
4. BE3を放線菌ゲノム編集に最適化
[出典] "CRISPR-BEST: a highly efficient DSB-free base editor for filamentous actinomycetes" Tong Y [..] Weber T, Lee SY. bioRxiv. 2019-03-20.
  • Technical University of DenmarkとKAIST (兼務)の研究グループが、BE3 (rAPOBEC1-Cas9n (D10A)-UGI)をストレプトマイセス属にコドン最適化し、CRISPR-BEST (CRISPR-Base Editing SysTem)と命名
5.  ストレプトマイセス属において、マルチコピー遺伝子の中の1コピーの特異的編集を実現
[出典] "Design of a generic CRISPR-Cas9 approach using the same sgRNA to perform gene editing at distinct loci" Najah S, Saulnier C, Pernodet JL, Bury-Moné S. BMC Biotechnol. 2019-03-20.
  • Université Paris-Saclayの研究チームは下図 (原論文Fig. 1から引用)にあるように、第1段階で標的の遺伝子コピーの近位に相同組み換えを介して後のCRISPR/Cas9による切断対象となる'bait'遺伝子を挿入し、第2段階で'bait'遺伝子を標的とするCRISPR/Cas9で、野生型ゲノムにおける遺伝子コピーの逆位を誘導または削除を実現する。generic CRISPR-Cas9
  • この手法で、Streptomyces ambofaciensにおいて、外来遺伝子の発現を抑制するサイレンサーlsr2のパラログ2種類を対象とする編集を試み、どちらか一方のコピーが必須であることを同定
6. セルラーゼ生産糸状菌Trichoderma reeseiよるセルラーゼ以外の高純度タンパク質生産を実現 
[出典] "Novel genetic tools that enable highly pure protein production in Trichoderma reesei" Rantasalo A [..]  Mojzita D. Sci Rep. 2019-03-22.
  • Trichoderma reeseiは、セルロース系バイオマスの利用に有用なセルラーゼを大量に生産・分泌する宿主細胞として利用されている。しかし、効率的なゲノム編集の技術と安定な遺伝子発現システムが存在しないことから、セルラーゼ以外のタンパク質生産には限界があった。
  • VTT Technical Research Centre of Finlandの研究チームは今回、研究チームが先行研究で開発していたsynthetic expression system  (SES)に多重化CRISPR/Cas9技術を組み合わせることで、グルコースを炭素源として産業上有用なCandida antarctica由来リパーゼB (calB)を大量に 生産する株を確立した。このT. reesei改変株は、セルラーゼ生産を抑制する培養条件で、不要な酵素を除去しつつ、高純度なcalBを4 g/Lのレベルで生産
7. プラスミドを新たに設計し、E. coliのssDNAリコンビアリングとCRISPR-Cas9により必須遺伝子dnaGの変異体を作出
[出典] "Coupling ssDNA recombineering with CRISPR-Cas9 for Escherichia coli DnaG mutations" Li J, Sun J, Gao X, Wu Z, Shang G. Appl Microbiol Biotechnol. 2019-03-16.
  • 南京師範大学の研究チームは今回、クロラムフェニコール耐性遺伝子p15Aレプリコンに基づいて、IPTG誘導性RedオペロンとL-アラビノース誘導性cas9の双方を帯びたプラスミド pLS3535を設計・作出し、pLS3535による遺伝子編集後に、カナマイシン耐性遺伝子p15Aレプリコン系のプラスミドpLS3550によってpLS3535を除去;編集効率100%を達成し、目的としたリコンビニアリング効率の向上をもたらすDnaG変異を実現
8.   到穂日数と相関する一連のイネ遺伝子を対象とする同一遺伝的背景での機能比較を実現
[出典] "Assessment of the effect of ten heading time genes on reproductive transition and yield components in rice using a CRISPR/Cas9 system" Cui Y, Zhu M, Xu Z, Xu Q. Theor Appl Genet. 2019-03-19.
  • 瀋陽農業大学の研究チームが、野生型ササニシキを対象とするCRISPR/Cas9により、10種類の到穂日数相関遺伝子の変異体を作出し、同一遺伝的背景にて各遺伝子の作用が異なることを示した。

1. CRISPR-Cas9とギブソン・アセンブリを組み合わせて制限酵素不要の精密DNAクローニング法を開発し、非標準PAMを認識するABE作出で実証
[出典] "Construction of non-canonical PAM-targeting adenosine base editors by restriction enzyme-free DNA cloning using CRISPR-Cas9" Jeong YK, Yu J, Bae S. Sci Rep. 2019-03-20.
  • 漢陽大学校の研究チームは、制限酵素に替えてCRISPR-Cas9でプラスミドバックボーン2箇所を切断し、続いて、ギブソン・アッセンブリーで必要なDNA断片を挿入する手法を開発し、はじめに、薬剤耐性マーカの置換で検証 (原論文Figure 1引用下図左参照;下図右はNG-ABEの項の参考図)。
DNA cloning 1 DNA cloning 2
  • 続いて、野生型nCas9をコードするABE (7.10)ベクタープラスミドをバックボーンプラスミドとし、Cas9変異体VQRまたはVRERをコードするドナープラスミドとし、今回開発した手法で、VQR-ABEとVRER-ABEを作出し、HEK292T細胞でそれぞれが期待通り'NGA' PAMと'NGCG' PAMを認識し標的遺伝子座を編集することを確認。
  • NG-ABE:ABEmaxバックボーンプラスミドをもとに野生型SpCas9をSpCas9-NGに置換したNG-ABEを作出し、'NG' PAMを認識し塩基置換を実現することを確認 (原論文Figure 4引用上図右参照)。
2. 高効率の一塩基置換を、RNPでのCas9-sgRNAの送達とssODNsの最適化により実現
[出典] "Highly efficient genome editing for single-base substitutions using optimized ssODNs with Cas9-RNPs" Okamoto S, Amaishi Y, Maki I, Enoki T, Mineno J. Sci Rep. 2019-03-18.
  • 精密な遺伝子編集を実現するHDRの効率は極めて低い。HDRを介した長い配列のノックインは選択マーカを介した濃縮によって目的とするノックインが生じた細胞の濃縮が可能であるが、この濃縮は1塩基置換の場合には展開できない。
  • HDRの効率を向上する手法がこれまで多々試みられてきたが、タカラバイオ研究チームは今回、標的サイト切断の繰り返しをブロックする変異を導入する手法に注目した。
  • INDELsのノックアウト効率とHDRを介した一塩基置換とを判別可能なレポータシステムを新たに開発し、ブロック変異の効用とssODNの相同アームの影響がHDRを介した一塩基置換の効率に与える影響を、HEK293T細胞とヒトiPS細胞で分析した。
  • その結果、PAMへの変異導入とssODNの最適化、RNPによるCas9とsgRNAの送達、および、標的塩基の近位サイトを標的とするsgRNAを選択することで、一塩基編集効率を顕著に向上させることが可能なことを示した。
3. バイオ医薬品生産の宿主細胞として利用されているCHO細胞のアポトーシスを最適化CRISPRiで低減する
[出典] "Reduced Apoptosis in Chinese Hamster Ovary Cells via Optimized CRISPR Interference" Xiong K [..] Lewis NE, Kildegaard HF. Biotechnol Bioeng. 2019-03-18.
  • 二成分の転写発現抑制因子 (KRAB-MeCP2)を組み込んだCRISPRi によりアポトーシス遺伝子 (Bak, BaxおよびCasp3)の発現を抑制することで、タンパク質生産時の細胞ストレスに起因するCHO細胞のアポトーシスを低減し、ミトコンドリア膜の完全性を改善し、カスパーゼ活性を抑制した。
4. [プロトコル] CRISPRa技術によるlncRNAの過剰発現
[出典] "Overexpressing Long Noncoding RNAs Using Gene-activating CRISPR" Rankin CR, Treger J, Faure-Kumar E, Benhammou J, Anisman-Posner D, Bollinger A E, Pothoulakis C, Padua DM. J Vis Exp. 2019-03-01.
  • ほとんどの疾患で変異していることが明らかになってきたlncRNAの機能解析を実現する遺伝子発現活性化のプロトコル;Jurkat T細胞モデルにおいて、炎症性腸疾患と相関するlncRNAのInterferon Gamma Antisense 1 (IFNG-AS1)発現を上方制御
5. [レビュー] CRISPR/Cas9は、進化を続けるがん生物学と腫瘍学の生物学的ツールキットである
[出典] REVIEW "CRISPR/Cas9 – An evolving biological tool kit for cancer biology and oncology" Tian X, Gu T, PatelS, Bode AM, Lee MH, Dong Z. npj Precis Oncol. 2019-03-18.
  • 基礎研究;[がん研究応用] がんモデル構築、多重遺伝子の相乗作用解析、CRISPR/Cas9による遺伝子機能スクリーン、がん治療標的の評価、遺伝子診断; [抗腫瘍臨床試験] 原レビューTable 3引用下図参照;anticancer application
    将来展望として、がん原性の融合遺伝子を、融合遺伝子の遺伝子座を標的とするsgRNAと融合遺伝子のbreakpointを標的とするsgRNAにより、がん細胞特異的にDSBを誘導し、アポトーシスを誘導する自殺遺伝子 (単純ヘルペスウイルス1型のチミジンキナーゼ: HSV1-tk)を挿入する手法 (Nat Biotechnol, 2017) を紹介し、また、個別化がん療法への展開を期待。
6. 多重sgRNAsによるCRISPR/Cas9遺伝子編集システムによる高脂質血症モデルウサギ作出
[出典] "Generation of hyperlipidemic rabbit models using multiple sgRNAs targeted CRISPR/Cas9 gene editing system" Yuan T, Zhong Y, Wang Y [..] Liang J, Fan J, Cheng Y. Lipids Health Dis. 2019-03-18.
  • LDL受容体 (LDLR)とアポリポタンパク質apoEを標的とするsgRNAsにもとづいて、4匹のLDLR KOウサギと2匹のLDLR/apoEのダブルKOウサギを作出し、顕著な高脂質血症の特徴を示し、総コレステロール値が野生型の10倍に達することを確認
7. 先天性難聴の病因スプライシング変異のCRISPR/Cas9ゲノム編集
[出典] "CRISPR/Cas9-mediated genome editing of splicing mutation causing congenital hearing loss" Ryu N, Kim MA [..] Lee KY,  Kim UK. Gene. 2019-03-18.
  • Slc26a4遺伝子のエクソン7で発生するc.919-2Aに起因するスプライシング変異は、先天性難聴患者に高頻度で見られる変異の一つである。慶北大学校の研究グループは今回この変異を標的とする遺伝子治療の可能性を示した。
  • SaCas9と組み合わせる一連のsgRNAsを設計し、マウス神経芽細胞腫由来Neuro2a細胞にてindels導入を効率14-25%で実現、Slc26a4遺伝子座内のc.919-2A変異の編集を14-25%の効率で実現、また、Neuro2a細胞とマウス胚性初代線維芽細胞において一対のsgRNAsを組み合わせることで遺伝子座の大規模断片の欠失を実現、さらに、SaCas9とsgRNAsおよびドナーテンプレートをrAAVで送達することで、マウス初代線維芽細胞にてc.919-2A領域へのex vivoでのサイレント変異導入を実現 (オフターゲット編集は非検出)

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