1. GEMINI: 変分法的ベイズ推定法に基づいて、プール型CRISPRコンビナトリアル・スクリーンから遺伝子間相互作用を再構成するアルゴリズム
[出典] "GEMINI: a variational Bayesian approach to identify genetic interactions from combinatorial CRISPR screens" Zamanighomi M, Jain SS, Ito T, Pal D, Daley TP, Sellers WR. Genome Biol 2019-07-12.
  • CRISPR-Cas9技術の登場によって、ヒト細胞において多重遺伝子を同時に編集するコンビナトリアル・スクリーンが可能になった。Broad InstituteとStanford Uの研究グループはは今回、2種類の遺伝子を標的とするsgRNAを組み合わせたライブラリーによるペアワイズ・ノックアウトスクリーンから、gRNAsやプロモータ強度の変動や、ライブラリー設計の如何に左右されずに遺伝子間ネットワークの再構成を可能とし、ひいては合成致死ペアの同定も可能とする、スケーラブルなアルゴリグムGEMINIを開発し、Rパッケージとして公開した。
  • GEMINI Rパッケージ入手先:https://github.com/sellerslab/gemini
2. Bindel-PCR: CRISPR/Cas9を介した両アレルノックアウト細胞を同定する新手法を、Thermus aquaticusDNAポリメラーゼを利用するPCRを介して実現
[出典] "Bindel-PCR: a novel and convenient method for identifying CRISPR/Cas9-induced biallelic mutants through modified PCR using Thermus aquaticus DNA polymerase" Sakurai T et alSci Rep2019--07-09.
  • Bindel-PCRは、biallelic KO mutants harbouring indels using PCRに因んだ命名 (原論文 Figure 1参照 ):マウスのEt1TyrRamp1Ramp3およびRosa26遺伝子で実証
3. レンチウイルス・カプシドに基づくバイオ・ナノ粒子でCas9/sgRNA RNPを送達することで、効率的な‘hit-and-run’ ゲノム編集を実現
[出典] "Delivering Cas9/sgRNA ribonucleoprotein (RNP) by lentiviral capsid-based bionanoparticles for efficient ‘hit-and-run’ genome editing" Lyu P, Javidi-Parsijani P, Atala A, Lu B. Nucleic Acids Res 2019-07-12.
  • CRISPR/Cas9システムの発現を一時的にすることでオフターゲット作用と免疫応答のリスクを低減可能である。
  • SaCas9 mRNAを100コピーまでパッケージ可能なレンチウイルス様バイオ・ナノ粒子 (lentivirus-like bionanoparticle, LVLP)を開発した[*]Wake Forest University Health Sciencesの研究グループは今回、LVLPによるSaCas9/sgRNA RNPの送達を実現し、Cas9 mRNA LVLPsと同等以上のindels生成効率を発揮することを確認した (原論文Figure 1引用下図参照)。Packaging sgRNA in LVLPs
  • [*] CRISPRメモ_2019/02/28-1 [第2項] SaCas9 mRNAをレンチウイルス様バイオ・ナノ粒子で送達することでmRNAによる一時的かつ効率的ゲノム編集を実現
4. [レビュー] CRISPR/Cas9を介した突然変異誘発と優性突然変異トランスジーンによる病原性線虫の機能ゲノミクス
[出典] REVIEW "CRISPR/Cas9 mutagenesis and expression of dominant mutant transgenes as functional genomic approaches in parasitic nematodes" Lok JB (U Pennsylvania). Front Genet 2019-07-16.
  • C. elegansで実証されたCRISPR/Cas9技術のStrongyloides属とParastrongyloides属の機能ゲノミクスの成果と課題*および将来の展開をレビュー。特に、Strongyloides stercoralisの多機能調節因子Ss-DAF-16は、単なるノックアウト実験では、解析するにはあまりに複雑な表現型が生成され、そしてまたは、対象線虫が宿主感染能を失ってしまうことから、その機能解析を実現できない。この限界を超えるドミナントネガティブ作用をおよぼす遺伝子編集技術をとりあげた。
  • 下図は原レビューのFigure 1とFigure 2からそれぞれ引用した病原性線虫への核酸送達戦略の図と優性突然変異導入による機能ゲノミクスのワークフローNematodes 1 Nematodes 2
5. [プロトコル] CRISPR-Cas9を介した酵母染色体融合
[出典] "Creating functional chromosome fusions in yeast with CRISPR–Cas9" Shao Y, Lu N, Xue X, Qin Z. Nat Protoc 2019-07-12.
6. 非モデル昆虫ホシカメムシへのCRISPR/Cas9ゲノム編集の展開と最適化
[出典] "CRISPR/Cas9 Genome Editing Introduction and Optimization in the Non-model Insect Pyrrhocoris apterus" Kotwica-Rolinska J [..] Dolezel D. Front Physiol 2019-07-15.
  • CRISPR/Cas9の非モデル生物への展開は、経験豊富な研究者にとっても、簡単では無い。特に、変異誘導効率が上がらないことが課題である。Biology Centre Czech Academy of Sciencesの研究グループは今回、ホシカメムシへの最適化に必要な条件を同定し(胚注入時期、ヘテロ二本鎖移動度分析による表現型に依存しない変異スクリーニング、sgRNAの効率のin vivo検証、G0世代モザイクスクリーニングなど)、他の昆虫にも、胚注入時期を除いて、展開可能とした (ワークフローの全貌について原論文Figure 5引用下図参照)。Pyrrhocoris apterus
7. [特許公開] CRISPR/Cas9システムをアデノウイルスベクターで送達する肺疾患の遺伝子治療
  • 公開日 2019-07-04. 発明者 Curiel D. 権利者 Washington University (Saint Louis)
8. [特許公開] 核酸の5'リン酸に共有結合するCRISPRタンパク変異体の作出とタギングへの利用
  • 公開日 2019-07-04. 発明者 Davis GD, Talglicht D, Chen F. 権利者 Sigma-Aldrich. 
9. [特許公開] BCL11Aex vivo/in vivo遺伝子編集を介した異常ヘモグロビン症治療
  • 公開日 2019-07-04. 発明者 Cowan CA et al. 権利者 CRISPR Therapeutics AG

[出典] "Mosaic APP Gene Recombination in Alzheimer’s Disease—What’s Next?" Lee MH, Chun J. J Exp Neurosci 2019-05-16

 #オリジナル論文の筆頭著者と責任著者による解説
  • 脳は、DNAが互いに変異した体細胞のモザイク (somatic genomic mosaicism: SGM)であることが2001年に報告された (Proc Natl Acad Sci U S A. 2001)。SGMは脳に先立って獲得免疫応答システムにおいて、"V(D)J組換え"と呼ばれる体細胞遺伝子組換え (somatic gene recombination: SGR)を介して天文学的な免疫グロブリンとT細胞受容体を生成する現象に見られていた。そこで、1960年代から脳におけるSGRの存在の証拠探しが続いていたところ、著者らが2018年11月にNature誌にて、アルツハイマー病 (AD)に関連する遺伝子アミロイドβ前駆体タンパク質APP遺伝子を含むSGRが発生することを報告した [*]
  • APP SGRが発生する分子機序として、APP 遺伝子 - (転写) - APP  mRNA -(逆転写) - APP cDNA - (ゲノム組み込み/“retro-insertion”) - APP  gencDNAsのプロセスを想定し、さらに、このプロセスが繰り返されることで、一旦ゲノムに書き込まれたAPP gencDNAsのコピーがゲノム上に増殖していくとした。このプロセスの間に、エクソン間の結合組換え (intra-exonic junctions: IEJs)、SNVsおよびindels変異が誘発される。
  • APP  gencDNAsは、健常者にも孤発性AD (SAD)患者にも前頭前野皮質ニューロンにおいて見られた。注目すべきことに、SAD患者には健常人に比べてより大量でより多様な変異APP gencDNAsが存在し、SAD患者ではSGRが調節不全に陥っていることが示唆された。変異APP gencDNAsのうち家族性AD (FAD)の病因変異と同一なSNVs変異が11種類存在したが、これらがSADニューロンではモザイク状に存在したのに対して、健常人のニューロンには存在しないことが、APP  gencDNAsがSADの病因機構であることを示唆した。
  • APP  gencDNA生成には前述したAPP遺伝子の転写と逆転写酵素の活性に加えて"retro-insertion”過程でのDNA二本鎖切断が必須とされたが、詳細な分子機構の解明はこれからである。特に、APP gencDNAsがADの発症と進行に関与する分子機構の解明が待たれる。
  • APP  gencDNAsの発見は、HIVとB型ウイルス肝炎の治療法としてFDAに承認された逆転写酵素の阻害のAD療法への期待をもたらした。
  • [*] 参考記事:2018-11-26 アルツハイマー病患者と健常者の神経細胞の双方に、体細胞組み換えに由来するAPP遺伝子変異を見た

[出典] "Programmable RNA editing by recruiting endogenous ADAR using engineered RNAs" Qu L, Yi Z, Zhu S, Wang C, Cao Z, Zhou Z, Yuan P [..] Wei W. Nat Biotechnol 2019-07-15.

背景
  • 2017年にdCas13bにアデニンデアミナーゼADAR2の触媒ドメインを融合しgRNAを設計することでRNA上でA-to-I置換を実現するREPAIRが開発されたが [*1] 、同時に、AD-gRNAsadRNAsを設計することで、内在ADAR1またはADAR2を活かすRNA A-to-I変換ツールの研究開発も進んでおり、2019年1月には入ってから、複雑な化学修飾を施した化学合成アンチセンス・オリゴヌクレオチドをガイドとするツールRESTORE[*2]が発表されている。
概要
  • 北京大学の研究グループは今回、細胞に内在するADAR1またはADAR2を標的RNAにガイドするgRNAを新たに設計することで、免疫原性のリスクを伴わず、高効率・高精度で、RESTOREよりはフレキシブルなRNA A-to-I置換ツールLEAPERを開発した。
LEAPERの誕生
  • 予備実験において、高活性なADAR1変異体のデアミナーゼドメインをdCas13aに融合した複合体を40-ntの長さのcrRNAでガイドする実験と、dCas13bを利用するREPAIRの再現実験 (70-ntのcrRNA)を行い、いずれの場合もcrRNA単独でも、内在ADARの活性に基づくA-to-I置換が生じることを見出した。
  • さらに、70-ntのcrRNA単独でHEK293T細胞にて~13%の編集効率を示した一方で標的RNAの発現を阻害しないことを確認した。
  • さらに、ADAR欠損細胞での実験も行った結果、crRNAが標的RNAとdsRNAを形成するとともに内在ADARをリクルートすることで、ADARを介したRNA編集が進行するとし、ADARをルクリートする(ガイドする)RNAをarRNAと命名し、arRNAと内在ADARに基づくRNA A-to-I置換ツールをleveraging endogenous ADAR for programmable editing of RNAに因んでLEAPERと命名した。
LEAPERの組み立てと細胞株における活性
  • HT29、A549、HepG2、RD、SF268、SW13およびHeLaの各ヒト細胞でのADAR1/2/3の発現を測定し、ADAR1だけが全ての細胞で発現していることを確認し、ADAR1と再設計した71-ntの長さのarRNAと組み合わせたLEAPERにより、編集効率は一様ではないが、全ての細胞においてRNA編集が可能なことを実証した。LEAPERはまた、マウスのNIH3T3細胞と胚性線維芽細胞およびB16細胞でも活性を示した。
  • 次に、PPIBKRASおよびSMAD4の各遺伝子の転写物のUAGモチーフと、FANCC遺伝子の転写物のUACモチーフを標的とする長さを変えた (51-/71-/111-/151-nt)のarRNAの効果を比較し、いずれの場合もA-to-I置換が誘導されることを確認した。また、2種類のarRNAsを併用することでTARDBPFANCCの転写物の多重編集にも成功した。
  • LEAPERによるRNAiは見られなかったが、オフターゲット編集は発生した。特にKRASの場合は、111-ntのarRNAがカバーする30ヶ所のAのうち11ヶ所のAが I に変換されたが、標的配列とarRNAとの間のミスマッチを調節することで抑制に成功した。また、arRNAがカバーする以外の領域におけるオフターゲット編集は見られず、最適化したarRNAに基づくLEAPERはトランスクリプトーム・ワイドでオフターゲット変換を誘導しないことが明らかになった。
病因点変異の修復
  • HEK293T細胞においてarRNAと相補的DNAペアを共発現させる系において、G-to-Aの病因変異が発生するCOL3A1, BMPR2, AHI1, FANCC, MYBPC3およびIL2RGの全ての遺伝子について、A-to-Gへの修復に成功した。A-to-G変異は、ヒト疾患の病因点変異の50%近くを占めている。
  • ヒト肺線維芽初代細胞、ヒト気管支上皮初代細胞ならびにヒト初代T細胞において151-nt arRNAを介してPPIBに対する変換効率それぞれ>40、>80、ならびに30%を達成した。
  • arRNAの細胞への導入には、プラスミドの送達、レンチウルスベクターをキャリアとする送達に加えて合成オリゴヌクレオチドのエレクトロポレーションでも可能であり、T細胞へ導入した111-ntのPPIBオリゴは~20%の変換効率を示し、LEAPERがオリゴヌクレオチド治療薬として有望なことが示唆された。
  • さらに、HEK293T (TP53ノックアウト)細胞での実験によりTP53に発生する未成熟終止コドンの修復を実現した。
  • 遺伝性ムコ多糖代謝異常症の一種であるハーラー症候群患者に由来する初代線維芽細胞におけるα-L-イズロニダーゼ  (IDUA)の欠損を、自然免疫応答を引き起こすことなく、修復した。
参考記事・論文

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