1. シングルセルCRISPRスクリーニングのデータ解析パイプラインMUSIC開発
[出典] "Model-based understanding of single-cell CRISPR screening" Duan B [..]  Wang P, Sun S & Liu Q. Nat Commun 2019-05-20
  • 近年、プール型CRISPRスクリーニングとscRNA-seqを組み合わせることで、Perturb-Seq*, CRISP-seq*あるいはCROP-seq*といったシングルセルCRISPRスクリーニング (以下、scCRISPRスクリーン)技術が開発されてきた (* CRISPR関連文献メモ_2016/12/19:Perturb-Seq; CRISP-seq; CROP-seq)。
  • プール型CRISPRノックアウト・スクリーニングは、そのノックアウトの影響が細胞死あるいは抗体や蛍光レポータで直接判定可能な表現型の変化となって明確に現れる遺伝子の機能同定には強力なツールであるが、そのノックアウトが表現型に与える影響が微妙な遺伝子の機能同定には向いていない。また、scCRISPRスクリーンのデータ解析は、scRNA-seqのデータがスパースでノイズが多く、プール型CRISPRスクリーニングのデータもノイズが多く、Cas9-sgRNAがオフターゲット編集を伴い、細胞集団に不均一性が内在するといったデータの特性に最適化する必要がある。
  • 同済大学を始めとする中国の研究グループは今回、トピックモデル (topic model)に基づいて、ノイズや不均一性を克服して各遺伝子のノックアウトまたはノックダウン (perturbation/摂動)が表現型に及ぼす影響 (摂動効果)を定量化し、遺伝子機能の同定を可能とするscCRISPRスクリーンのデータ解析パイプラインMUSIC (Model-based Understanding of SIngle-cell CRISPR screening)を開発し、公開されている14件のscCRISPRスクリーンのデータセット (Perturb-Seq, CRISP-seqおよびCROP-seqからのデータセットを含む)を解析し、その性能を実証した。
  • 原論文Fig. 1から引用した下図はMUSICのワークフローの概要図であり、第1ステップがデータの前処理、第2ステップが第2ステップがトピックモデル構築、第3ステップが摂動効果の重み付け (総体的、機能トピック特異的および摂動間の相関)にあたる。Topic model
2. 抗癌剤感受性スクリーニングとCRISPR-Cas9スクリーニングにより、癌細胞治療標的となり得る融合遺伝子を同定
[出典] "Functional linkage of gene fusions to cancer cell fitness assessed by pharmacological and CRISPR-Cas9 screening" Picco G, Chen ED [..] Garnett MJ. Nat Commun 2019-05-16.
  • Wellcome Sanger Instituteを中心とする英米独の研究グループは今回、Genomic of Drug Sensitivity in Cancer (GDSC)プロジェクトに関連して、ヒト癌細胞株1,011種類において8,354種類の融合遺伝子を同定し (原論文Fig. 1引用下図参照)、ヒト癌細胞株のRNA-seqデータ、350種類を超える抗癌剤に対する感受性データ、およびCRISPR-Cas9機能喪失実験データのMUSIC解析から、融合遺伝子の多くが癌細胞のフィットネスにはなんら寄与しないことを見出した。Fusion gene
  • 一方で、表題にあるように、治療標的となるRAF1BRD4およびROS1を含む一連の融合遺伝子を同定し、また、複数の癌細胞株に見られるYAP1-MAML2融合遺伝子がHippoシグナル伝達パスウェイの活性化因子であることも見出した。
3. 好熱性アーケアAciduliprofundum booneiiのcasposasedが認識する配列モチーフ
[出典] "Sequence motifs recognized by the casposon integrase of Aciduliprofundum boonei"
Béguin P [..]  Krupovic M. NAR 2019-05-22.
  • NCBIのE. V. Kooninらが同定・命名したcasposon*は、バクテリアとアーケアのDNAトランスポゾンであり、CRISPR-Casシステムにおいて新たなスペーサのCRISPR遺伝子座への取り込み (インテグレーション)を担うCas1と相同なインテグラーゼcasposaseをコードしている。Institut PasteurとSorbonne Uの研究グループは今回、casposaseの取り込み活性に必須な配列モチーフを同定した。
  • (*) CRISPR関連文献メモ_2015/11/22 [第3項目] Aciduliprofundum boonei 由来のcasposon Cas1タンパク質は、標的サイトに重複を生成するDNAインテグラーゼであった。

1. SpyCas9のオフスイッチに、ファージ・コートタンパク質G8Pのペリプラズム・ドメイン (G8PPD)加わる
[出典] "Precision Genome Editing Using Bacteriophage-derived Peptides" Cui Y,  Wang S [..] Ma P, Liu J. bioRxiv 2019-05-20
  • 上海科技大学を主とする中国研究グループは、in vitroで、M13バクテリオファージおよびその
    G8PPDが、SpyCas9の活性を阻害することを見出した (投稿Figure 1引用左下図参照)。
G8P-1 G8P-2
  • 続いて、ヒト細胞株において、G8PPDを適時送達することで、SpyCas9のオンターゲット編集活性を損なうことなくオフターゲット編集を抑制することが可能であることを示した (投稿Figure 6-D参照)。
  • G8PPDは、Acrs (anti-CRISPR proteins)や低分子に優るSpyCas9のオフスイッチとして有用である。
2. CRISPR/Cas9による血友病A (HA)患者由来iPSCにおける血液凝固第VIII因子修復
[出典] "Universal Correction of Blood Coagulation Factor VIII in Patient-Derived Induced Pluripotent Stem Cells Using CRISPR/Cas9" Park CY [..] Kim DW. Stem Cell Reports 2019-05-16.
  • HAはX連鎖血液凝固第VIII因子 (FVIII遺伝子)に見られる欠失、挿入、逆位、点変異など2,000種類を超える変異が病因とされている。延世大学校医科大学の研究グループは今回、個々の変異の修復に替えて、CRISPR/Cas9によってヒトのセーフハーバー部位であるH11遺伝子座にFVIII遺伝子をノックインすることで、FVIII mRNAの発現をHA患者由来iPSCs集団の~60%で実現し、さらに、修復iPSCsから分化した内皮細胞において機能性血液凝固第VIII因子が分泌されることを確認した。オフターゲット変異は見られなかった。
3. Cas9/eCas9/Cas9-HF1/HypaCas9/Sniper-Cas9に、標準/伸長/短縮 gRNAとの組み合わせについて、DNA切断のチェックポイントと位置付けられているDNA巻き戻しの効率を、smFRETで評価
[出典] "Single molecule analysis of effects of non-canonical guide RNAs and specificity-enhancing mutations on Cas9-induced DNA unwinding" Okafor IC, Singh D, Wang Y [..] Ha T. bioRxiv 2019-05-20.
リツイート済み
  • 標準gRNA (X20)と組み合わせた場合、高精度化を目指したCas9変異体は、いずれも野生型Cas9よりも高い標的選択性 (less promiscuous )を示した。その中で、Cas9-HF1とeCas9は高い選択性とオンターゲットでの活性のバランスが取れていた。
  • 標準gRNAにグアニンを付加したgX20またはggX20と組み合わせた場合 は、Sniper1-Cas9が最も高い選択性とオンターゲットでの高い活性を示した。標準から短縮したgRNA (X18/X17)と組み合わせた場合は、一般に巻き戻しが縮減した。
 参考crisp_bio記事
  • [Cas9-HF1] 2017-06-15 SpCas9-HF1:ゲノム編集の精度をさらに向上させるハイファイ (high-fidelity)CRISPR/Cas9
  • [eCas9] 2017-06-14 CRISPR関連文献メモ_2015/12/02 [第1項] eSpCas9: Cas9/sgRBA/標的DNA三者複合体の構造に基づいて、オフターゲット編集を検出限界以下まで抑制するCas9変異体を作出
  • [Sniper-Cas9] 2018-08-08 ランダム変異導入から高精度・高活性なCas9変異体を開発 [第2項] 指向性進化法 (directed evolution)によりCRISPR-Cas9の精度を高めた"Sniper-Cas9"を開発
  • [HypaCas9] CRISPRメモ_2018/06/08 [第1項目] レポータCas9変異体 (HypaCas9)とその利用法
  • 2019-05-09 高精度Cas9を高精度たらしめる分子機構
4. CRISPR技術によるCFTR修復をブタ細胞で検証
[出典] "In vitro validation of a CRISPR-mediated CFTR correction strategy for preclinical translation in pigs" Zhou ZP [..] Hu J. Hum Gene Ther 2019-05-17.
  • Hospital For Sick ChildrenとUniversity of Torontoのカナダ研究グループが、CRISPR/Cas9によるCFTRを標的とする嚢胞性線維症 (CF)遺伝子治療の可能性をブタモデルで検証した。はじめに、CRISPR/Cas9とドナー・テンプレート (6 kb Laczまた8.7 kbヒトCFTRを発現するカセット)をブタ培養細胞へ送達するヘルパー依存型アデノウイルスベクター (HD-Ad)を作出した。
  • HD-Adを利用し、HDR過程を介して、LaczまたはCFTRをセーフハーバー部位GGTA1にノックインし、それらの発現が継続することを確認した。また、CFTR欠失細胞株を作出し、その修復 (hCFTR mRNAとタンパク質の発現)を実現した。
5. CRISPRiによるカイコ内在遺伝子の転写抑制効率を評価
[出典] "Transcriptional repression of endogenous genes in BmE cells using CRISPRi system" Wang X [..] Xia Q. Insect Biochem Mol Biol 2019-05-16.
  • 西南大学の研究チームが、dCas9に転写抑制因子 (KRAB, Hairy, SID, SRDXまたはERD)を融合したCRISPRiが効果的に転写を抑制し、その効率が、転写開始点 (TSS)とsgRNAの間隔と、dCas9:sgRNAの比率に依存することを報告。

[出典] Circularly permuted and PAM-modified Cas9 variants broaden the targeting scope of base editors" Huang TP, Zhao KT [..] Liu DR. Nat Biotechnol 2019-05-20.

概要
  • SpCas9ヌクレアーゼによるDSBを介さずにC•GをT•Aへ変換するCBEsとA•TをG•Cに変換するABEsは、ヒト病原点変異の~63%を修正できる可能性を秘めている。CBEとABEはまた、終止コドン生成を介した遺伝子ノックアウトや、スプライス部位の消去なども可能にする。
  • 一方で、CBEとABEによる置換は、SpCas9が認識するPAM (塩基配列NGG)から~15± 2 ntに位置し、かつプロトスペーサ上の狭いウインドウ内 (通常~4-5 ntの幅)に位置する塩基に限定されてしまうことから、~63%全てを修正するには至っていない。
  • David R. Liuが率いるBroad InstituteとUC Berkeleyの研究グループは今回、NGG以外のPAMを認識するSpCas9変異体と、循環置換 (circularly permutation, Wikipedia引用下図参照) を導入したSpCas9変異体 (CP-Cas9)を介して、ABEmaxのPAMの拡張と、CBEmax (旧 BE4max)とABEmaxの塩基対変換ウィンドウの改変を実現した。CP
SpCas9変異体を活用したPAMの拡張
  • SpCas9 (NGG:PAM)に替えて、VRQR-SpCas9 (PAM: NGA)とVRER-SpCas9 (PAM: NGCG)を組み込んだVRQR-ABEmaxとVRER-ABEmaxを作出し、HEK293T細胞において、それぞれ6種類のサイトを標的とする塩基置換をABEmaxと比較評価した。
  • NGA PAMに対しては、VRQR-ABEmaxが平均効率35 ± 4.6%とABEmaxから3.2倍への向上を見せ、また、xCas9とSpCas9-NGを組み入れたABEmaxよりも優れた性能を示した。
  • NGCG PAMに対しては、VRER-ABEmaxが平均効率40 ± 3.6%とABEmaxからの7倍への向上を見せた。さらに、VRERとG1218R変異を共有するVRQRを帯びたVRQR-ABEmaxが平均効率50 ± 3.6%を示し、また、NG-ABEmaxが51 ± 5.9%を示した。 いずれもindel生成は小規模であり、ウインドウのシフトも見られなかった。
  • NCCC PAMおよびGAT PAMに対する変換効率も評価し、xABEmaxまたはCas9-NGも交えて、ABEmaxをNGG以外のPAMへ拡張可能なことを実証した。
  • 研究グループはまた、NNGRRT PAMを認識する野生型SaCas9と、NNNRRT PAMsを認識する変異型SaCas9 (SaKKH)を組み込んだABEmaxの効率をそれぞれ6遺伝子座で評価し、平均効率22 ± 2.3%と26 ± 5.7%を得たが、SaCas9がCBEsに与えた効果には及ばなかった。
ウインドウの改変 (位置と幅)
  • ウインドウ幅の拡張の試みはこれまでCBEsにおけるデアミナーゼの多量体化($1)やABEsにおけるsgRNA伸長($2)が試みられたが、今回、前項のSaABEmaxとSaKKH-ABEmaxが、塩基置換が活性なウインドウをプロトスペーサ上の座標で4-14 (PAMは21-26)へと拡大する特徴も示した。
  • 研究グループは、SpCas9への循環置換導入の先行研究から、循環置換導入によってCBEsとABEsのデアミナーゼ・ドメインをCas9結合で誘導されるssDNAループ (R-loop)に近接させることが可能として、一連のCP-Cas9を開発した。その中から、DNA結合活性とR-loopへの近接を指標として5種類のCP-Cas9 (CP1012, CP1028, CP1041, CP1249およびCP1300; 数字は循環置換で新たに生成したN末端の循環置換前のアミノ酸配列上の座標)を選択し、それぞれを組み入れたCP-CBEmax変異体5種類とCP-ABEmax変異体5種類を作出し、HEK293T細胞内の5ヶ所のサイトで評価した。
  • CP-CBEmaxの変換は変異体により多様であったが、ウインドウを4-8から4-11へと改変する変異体が存在した。中にはプロトスペーサの上流-13に至る領域で変換活性を示す変異体を見出し、また、CP-CBEmaxがCBEmaxでは見られる副産物 (C-to-T置換以外の置換)を2.1-19分の1に抑制する効果を示すことを同定し、それぞれの構造基盤について考察を加えた。
  • CP-ABEmaxもCP-CBEmaxと同様にウインドウの拡大を見せた (例えば、4-7から4-12への改変)。
  • CP-CBEmaxとCP-ABEmaxによって、ヒトの遺伝子変異と疾患を集積したClinVarデータベスに登録されている病原性SNPsのうち修正が可能な割合が、CBEmaxとABEmaxのそれぞれ27%と31%から、いずれも51%へと向上するとした。
CBE/ABE参考crisp_bio記事
  • 2019-05-10  ABEによる細胞内RNA編集の検証と抑制
  • 2018-11-16 D. R. Liuによる塩基編集技術 (BE)のレビューと最新論文 [第2項目] マウス胚において、シトシンBE(CBE)とアデニンBE (ABE)の高精度編集を検証
  • CRISPRメモ_2018/05/30-3 [第1項目] 塩基エディターBE4とABEを、BE4max/ AncBE4max /ABEmaxへと強化
SpCas9への循環置換誘導関連crisp_bio記事
  • 2019-01-11 タンパク質工学によるCas9のブラッシュアップ - プロテアーゼによる活性化:トランスポゾンを利用して、5-20 aaのペプチド・リンカーをもとに循環置換を加え、活性評価を経てCas9-CPsライブラリーを構築
ウインドウ幅拡大参考論文・crisp_bio記事
  • ($1) 2018-06-06 BE-PLUS: a new base editing tool with broadened editing window and enhanced fidelity. Jiang W [..] Chen J, Huang X. Cell Res. 2018 Aug;28(8):855-861:BE-PLUS (base editor for programming larger C to U (T) scope);GCN4ペプチドをnCas9 (D10A)に10コピー結合し、scFv-APOBEC-UGI-GB1を標的サイトにリクルートすることでウインドウ幅を拡張
  • ($2) 2018-04-28 マウス胚とデュシェンヌ型筋ジストロフィーの成体マウスモデルにおけるアデニン塩基置換:sgRNAの5'末端伸長によりウインドウ幅を14-17 (4-nt幅)から14-18/19 (5/6-nt幅)へと拡大

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