1.常染色体優性網膜色素変性症のゲノム手術 (Genome Surgery*)
  • [出典] "Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats-Based Genome Surgery for the Treatment of Autosomal Dominant Retinitis Pigmentosa" Tsai YT [..] Tsang SH. Ophthalmology. 2018 May 5.
  • 網膜色素変性症は、様々な遺伝子の変異から発症する。また、ロドプシン (RHO)遺伝子の150種類の変異のうち一種類の変異からも発症する。コーネル大学の研究チームは今回、この網膜色素変性症における遺伝的異質性 (genetic heterogeneity)を克服する"ablate-and-replace"遺伝子治療をマウスモデルで実現した。
  • ヒトRHO変異をノックインしたマウスモデル (RhoP23H/P23H 23匹;  RhoP23H/+ 43匹; 

    RhoD190N/+ 31匹)を対象とする実験

  • RHO遺伝子を標的とする二重sgRNAを伴うCRISPR/Cas9により単一sgRNAよりも高い効率90%で変異アレルを帯びたRHO遺伝子を90%の効率で破壊し、網膜下注射を介してAAVで正常なRHO遺伝子 cRNAを送達することで、成体マウスの非分裂細胞におけるRHO遺伝子修復を実現
  • RHO遺伝子修復の結果を、外顆粒層の厚さや網膜電図写真で精密に判定
 *) "Genome Suergery"関連文献
2.ERAD-UPS系の基質タンパク質認識機構と分岐型/混合型ユビキチン鎖の関与
  • [出典] "Parallel genome-wide CRISPR analysis identifies a role for heterotypic ubiquitin chains in ER-associated degradation" Leto DE, Morgens DW, Zhang L, Walczak CP, Elias JE, Bassik MC, Kopito RR. bioRxiv 2018 June 17.
  • フォールディング異常に至ったタンパク質を分解する小胞体関連分解 (ERAD: 下図参照)
    過程において、E3ユビキチンリガーゼが基質タンパク質の認識、輸送および細胞質の26Sプロテアソームによる分解を制御する。ERAD
  • ERADには、HRD1依存で内腔 (luminal)ドメインのフォールディングのチェックを介したERAD-L、GP78依存で膜貫通ドメインのフォールディングのチェックを介したERAD-Mおよび、細胞質ドメインのフォールディングのチェックを介したERAD-Cの3種類のパスウエイが知られている。
  • これら3種類のERADパスウエイの基質タンパク質レポータ (以下、レポータ)を用意し、K562細胞をプラットフォームとする1遺伝子あたり10sgRNAsを使用するCRISPR/Cas9ゲノムワイド・ノックアウト・スクリーンで、レポータ分解に関与する遺伝子を同定した。
  • UPSの阻害または26Sプロテアソームのサブユニットや分子シャペロン VCP/p97とその補因子を標的とするCas9-sgRNAsによって、全てのレポータがUPSを免れ安定であった。
  • レポータ分解の必須遺伝子セットは、ユビキチン・プロテアソーム・システム (UPS)遺伝子の一つであるUBE2G2を除いて、レポータ (ERADパスウエイ)特異的であった。
  • 分岐型または混合型ユビキチン鎖についてこれまで想定されていなかった新規機能を同定した。
3.ゲノムワイドでのCRISPR転写活性化 (CRISPRa)により、マウスBV2細胞またはHeLa細胞においてマウスノロウイルス (MNoV)の複製を阻害する宿主遺伝子を同定
  • [出典] "Identification of anti-norovirus genes in mouse and human cells using genome-wide CRISPR activation screening" Orchard R, Sullender ME, Dunlap BF, Balce DR, Doench JG, Virgin HW. bioRxiv 2018 June 18.
  • 過剰発現によりMNoV感染を阻害する宿主遺伝子57種類を同定した。その中にインターフェロンおよび免疫調節のシグナル伝達ネットワークに位置する遺伝子が含まれていたが、驚くべきことに、57遺伝子の多くに自然免疫、獲得免疫あるいは抗ウイルス活性との相関が見られなかった
  • 8遺伝子について詳細な解析を加え、TRIM7がMNoVの観戦後の複製を阻害することを見出し、さらに抗ウイルス性を示すアイソフォームを特定した。
  • CRISPRaの構成など (原論文 Figure 1)CRISPRa

4.CRISPR-Cas9 RNPによるイネいもち病菌Magnaporthe oryzaeの2遺伝子座同時編集とカウンターセレクション
  • [出典] "CRISPR-Cas9 ribonucleoprotein-mediated co-editing and counterselection in the rice blast fungus" Foster AJ, Martin-Urdiroz M, Yan X, Wright S, Soanes DM, Talbot NJ. bioRxiv 2018 June 17.
  • 英国エクセター大学 の研究チームは、既報と異なりプラスミドからのCas9発現がM. oryzaeに致死であることを見出し、Cas9-sgRNA RNPによるM. oryzaeの遺伝子編集を試みた。
  • 機能解析の対象とする遺伝子を標的とするRNPとドナーDNAのセットと同時に、別の遺伝子座を標的とするRNPとドナーDNAのセットを併用することで選択用マーカとなる薬剤耐性をもたらす"gene co-editing"の手法を開発し、1塩基の編集、遺伝子の置換、および、多重遺伝子の編集を受けた変異体を短期間で作出した。さらに、二種類の防カビ剤に対する負の交差耐性を利用したカウンターセレクションを実現した。