• 医学生物学研究資源の代表である遺伝子・ゲノムデータについては, DDBJ, NCBIおよびEMBL-EBIが共同で構築・提供しているINSDC(International Nucleotide Sequence Database Collaboration)に蓄積され広く利用される制度そして研究文化が確立しています。
  • 微生物学の世界では古くから、命名の根拠となった標準株をはじめとして研究開発に利用された菌株を微生物系統保存機関 (culture collections: CC)に寄託し、研究社会で共有する制度と文化が醸成されていました。そのルーツは、1890年(*crisp_bio注: 2018/7/15日に'1980年代'から修正)のチェコスロバキアにまでたどることができ、米国ATCC、オランダCBS、英国IMIもそれぞれ1911年、1903年、1920年にはすでにその前身が設立されていました。
  • いずれの国においても研究基盤事業であるCCsには紆余曲折がありましたが、現在では、World Data Center for Microorganisms (WDCM)のディレクトリーに75カ国から755 CCsが登録されるに至っています。
  • WDCMは、オーストラリアの微生物分類学者V. B. D. Skermanが1966年に、当時の国際的研究コミュニティーやUNESCOなどの支援のもとに設立し、1986年から理化学研究所、その後、国立遺伝学研究所を経て、2010年から中国科学院微生物学研究所 (Institute of Microbiology, Chinese Academy of Science : IM-CAS)で運営されているデータセンターです(下図 WDCMホームページ参照)。
WDCM
  • WDCMは2010年以後 (参考文献1)、ディレクトリーに加えて、46カ国120 CCsで維持されているのべ40万株を超えるカタログの統合データベースGlobal Catalogue of Microorganisms(GCM, 下図左Webページ参照)、菌株ごとの研究論文および特許における引用・利用分析データベースAnalyzer of Bio-resource Citations (ABC, 下図右Webページ参照)を開発・提供してきました。
GCM ABC
  • WDCMではデータベース中に菌株に関連する配列データへのリンクを付していましたが、2017年にバクテリア・アーケアを中心に菌類も対象とする当初5年計画の「標準株10K (1万)株全ゲノムシーケンシング (WGS)プロジェクト」を企画し、中国および国際的な事前評価を経て、2018年からGCM2.0として始動しました (参考文献 2, 3)。
  • GCM2.0は、米国JGIのGEBAプロジェクトおよびFungal 1000ゲノムプロジェクトを始めとして、国際的なマイクロバイオームプロジェクトや、Global Genome Biodiversity Network (GGBN)、Earth BioGenome Projectと協調しながら進めて行こうとしています。
  • GCM2.0の目標株数である10K株は、既知の標準株のうちJGIなどによるWGSが公開あるいは着手予定のない株数と、今後5年間の間IJSEM誌上でで公式な命名として認められるであろう新規標準株の数から算定したものです。
  • 今回、15カ国24CCsから菌株または抽出DNAの提供を得られる見込みがついたことから、2018年6月25日から26日にかけて北京にてGCM 2.0 SIGs (Special Interests Groups)会合開催に至りました。今回の会合はGCM2.0に連携するCC、ジャーナル、データベース、プロジェクトなどの関係者が集まったクローズドな会合でしたが、今後、折に触れて公開ワークショップやシンポジウムが開催される見込みです。GCM2.0の成果であるWGSおよびアノテーションは、国際的かつ広く一般に公開されます
  • GCM2.0の動向をフォローしたい、特定の標準株のWGSを推奨したい、GCM2.0にSIGを提案したいなど、さまざまなご関心をお持ちの場合は、どうぞコメントをお寄せください。GCM2.0用コミュニーケションツール検討の参考にもさせていただきます。
 参考文献
  1. "World data centre for microorganisms: an information infrastructure to explore and utilize preserved microbial strains worldwide" Wu L. et al. Nucleic Acids Res. 2017 Jan 4;45(D1):D611-D618.
  2. "The Global Catalogue of Microorganisms 10K type strain sequencing project: closing the genomic gaps for the validly published prokaryotic and fungi species" Wu L. et al. Gigascience. 2018 May 1;7(5).
  3. "New effort to sequence microbes" Science (in News at a glance)  30 Mar 2018:Vol. 359, Issue 6383, pp. 1444-1446
(文責 crisp_bio/GCM2.0関係者)