1.[技術展望]多能性幹細胞からの細胞系譜解析のルネサンス
  • [出典] Technology Feature "Stem cells: lineage tracing lets single cells talk about their past" Marx V. Nat Methods. 2018 May 31.
  • 受精卵から成体に至るまでの細胞の系譜を解明する技術は、ジョン・サルストンが顕微鏡観察による線虫の全細胞系譜の解明 (fate mapping)以後、酵素の利用、蛍光タンパク質タグの遺伝的導入、細胞のバーコンディングなどの技術によって発展してきたが、近年、ルネサンスが進行しつつある。細胞系譜を追跡する上で目印となるゲノム変化を、CRISPR-Cas9やCre-loxP部位特異的組換えによって生成し、一細胞RNA/DNAシーケンシングによって、各細胞の広範かつ多様な目印を読み分けることで、1回の実験で多数の細胞系譜を追跡することが可能になった。
  • 2018年4月12日のcrisp_bio記事「細胞バーコーディングとscRNA-seqを一体化して、細胞型の同定と細胞系譜再構築の一石二鳥を実現」で紹介した、LINNAEUS (LINeage tracing by Nuclease-Activated Editing of Ubiquitous Sequences)、ScarTrace (CRISPR-Cas9によるDSB修復のscar'傷跡'を利用)そしてscGESTALT (Single-Cell RNA sequencing & Genome Editing of Synthetic Target Arrest for Lineage Tracing) に続き、COLBERT* (COntrol of Lineages by Barcode-Enabled Recombinant Transcription)、CellTagiing**、homing CRISPR system***が取り上げられている。
  • また、10種類のloxPサイトを9種類のシロイヌナズナ遺伝子由来のユニークな178塩基長配列で繋げたカセットをRosa26遺伝子座に組み込んだ人工DNA組換えサイトPolylox****によるマウスの造血幹細胞の系譜解析の事例も取り上げられている。
  参考文献
  • * COLBERT:"Control of lineage-specific gene expression by functionalized gRNA barcodes" Al'Khafaji A, Brock A. bioRxiv 2017 Aug 21.
  • ** CellTagging:"Single-cell analysis of clonal dynamics in direct lineage reprogramming: a combinatorial indexing method for lineage tracing" Biddy BA, Waye SE, Sun T, Morris SA. bioRxiv 2017 Apr 28.
  • *** homing CRISPR system:"Rapidly evolving homing CRISPR barcodes" Kalhor R, Mali P, Church GM. Nat Methods. 2017 Feb;14(2):195-200.
  • **** Polylox:"Polylox barcoding reveals haematopoietic stem cell fates realized in vivo" Pei W, Feyerabend TB [..] Höfer T, Rodewald HR. Nature. 2017 Aug 24;548(7668):456-460.
2.プール型CRISPRiによるバクテリアのゲノムワイド機能ゲノミクス
  • [出典] "Pooled CRISPR interference screening enables genome-scale functional genomics study in bacteria with superior performance" Wang T, Guan C, Guo J, Liu B, Wu Y, Xie Z, Zhang C, Xing XH. Nature Commun. 2018 June 26.
  • 精華大学とSyngenTechの研究チームは今回、プール型CRISPRi を利用して、各遺伝子の転写抑制が細胞の表現型に与える作用を測定することで、バクテリアの遺伝子と表現型の相関をゲノムワイドで同定するためのハイスループットスクリーニング実験のプラットフォームを開発し (原論文Fig.1を引用した下図参照)、E. coliの機能ゲノミクスで検証した。
CRISPRi pooled screening
  • 研究チームは始めに、タイリング・スクリーニングによって、原核生物ゲノム独特の構造に適合したgRNAライブラリーを設計するルールを同定し、E. coliゲノム全域を標的可能なgRNAライブラリー (~60,000メンバ)を構築し、E. coliの機能ゲノミクスを進めた。
  • プール型CRISPRiは、ライブラリーのサイズが同程度または遺伝子の長さが短い場合は、微生物機能ゲノミクスの標準的手法とされているトランスポゾン・シーケンシング (transposon sequencing : Tn-seq)に優ることを示した。
  • プール型CRISPRiによって、遺伝子の必須性、表現型のノン・コーディングRNAs (ncRNAs)へのマッピング、代謝経路解析、化学毒性耐性遺伝子の同定を実現。
3.E. coliに最適なCRISPRaを開発し、バクテリアの転写をリプログラミング
  • [出典] "Synthetic CRISPR-Cas gene activators for transcriptional reprogramming in bacteria" Dong C, Fontana J, Patel A, Carothers JM, Zalatan JG. Nat Commun 2018 June 27.
  • ワシントン大学シアトルの研究チームは今回、E. coliにおいて、CRISPR-dCas9システムを介して遺伝子の発現を最も活性化するタンパク質SoxSを同定することで、E. coliでも有効なCRISPRaシステムを構築した(原論文 Fig.1 を引用した下図参照)。
CRISPRa for E.coli
  • SoxSはRNAポリメラーゼにおいて保存性が高い部位と相互作用することから、今回E. coliで高性能を実証したCRISPRaは他の微生物へ展開可能である。
  • このCRISPRaはCRISPRiと併用可能であり、すなわち、特定の遺伝子の発現活性化とそれと異なる遺伝子の発現抑制を同時に実現可能なことを示した。さらに、このCRISPRaによって、異種エタノール生合成パスウエイからの生産量向上を実現した。
  • 今回、E. coliの遺伝子発現活性化が、gRNAの標的サイトの位置に極めて高い感受性を示すことも見出した。
  • [2018-10-18追記] Author Correction: Synthetic CRISPR-Cas gene activators for transcriptional reprogramming in bacteria.  "Supplementary Information file associated with this Article, the sequence ‘1x MS2 scRNA.b2’ was incorrectly given ......" Nat Commun. 2018 Oct 15
4.CRISPR-goldによりRNPを脆弱X症候群マウスモデルの頭蓋内へ注入することで、マウスモデルの異常な反復行動を抑制
  • [出典] "Nanoparticle delivery of CRISPR into the brain rescues a mouse model of fragile X syndrome from exaggerated repetitive behaviours" Lee B, Lee K, Panda S, Gonzales-Rojas R, Chong A, Bugay V, Park HM, Brenner R, Murthy N,  Lee HY.  Nat Biomed Eng. 2018 June 25.
  • UT Health Science Center、UC BerkeleyおよびGenEditの研究チームは、金のナノ粒子によってCas9またはCpf1とsgRNAのRNPを脆弱X症候群マウスモデルの脳内へ注入し、神経細胞、アストロサイトおよびミクログリアを含む主要な細胞型において遺伝子編集が可能であり、かつ、実験で使用した用量内では細胞毒性が見られないことを示した。
  • CRISPR-goldは、金ナノ粒子の表面を大量のDNAオリゴヌクレオチド鎖で覆い、続いて、Cas9またはCpf1とgRNAのRNPで修飾した粒子をポリマーで被覆したものである。
  • また、代謝型グルタミン酸受容体5 (mGluR5)を標的とするCRISPR-goldによって線条体に注入すると、mGluR5のレベルが線条体局所的に低下し、脆弱X症候群マウスモデルに見られる自閉スペクトラム障害の典型的行動の一種である過剰な反復行動を30%〜70%低減した。
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