1. CRISPRiの性能向上
  • [出典]"An enhanced CRISPR repressor for targeted mammalian gene regulation" Yeo NC, Chavez A [..] Kiani S, Church GM. Nat Methods 2018 Jul 16.
  • 2013年にStanley Qiらは不活性化したCas9 (dCas9)に基づく転写抑制システムCRISPRiを発表した*。CRISPRiは、dCas9をsgRNAで転写開始点(TSS)に誘導・結合させて物理的に転写を阻害(下図左参照)することから始まり、dCas9に転写抑制因子を融合する工夫が加えられ、現在は、dCas9-KRABがゴールドスタンダード(下図右参照)となっている。
dCas9 dCas9-KRAB
  • G. M. Church、S. Kiani、A Chavezらの研究チームは今回、KRABをKRAB-MeCP2に替えることで、dCas9-KRABが抱えていた非効率的なノックダウンの課題を解決した。
  • 初めに20種類以上の調節因子のエフェクタドメインをdCas9のC末端に融合しその転写抑制活性を評価した。次に、最も高評価な6種類のエフェクタドメインをdCas-KRABに融合した系の転写抑制活性を評価し、HEK293T細胞の4種類の遺伝子に対して最も高い転写抑制活性を示したdCas9-KRAB-MeCP2を以後の実験に使用した。なお、このシステムに第3のエフェクタードメインを融合しても、さらなる性能向上は見られなかった。
  • dCas-KRAB-MeCp2は、コーディングとノンコーディングを問わず検証したほとんどの遺伝子についてdCas9-KRABに優る転写抑制と選択性を示し、単一/二重gRNAライブラリースクリーン、加えて、新たな遺伝子回路合成においても、dCas9-KRABより優れた性能を示した。
  • *) "Repurposing CRISPR as an RNA-Guided Platform for Sequence-Specific Control of Gene Expression" Qi LS, Larson MH, Gilbert LA, Doudna JA, Weissman JS, Arkin AP, Lim WA. Cell 2013 Feb 28;152(5):1173-83.
2. 神経細胞に最適化したCRISPRaにより、特異的で安定した遺伝子調節を実現
  • [出典]"A neuron-optimized CRISPR/dCas9 activation system for robust and specific gene regulation" Savell KE, Bach SV [..] Day JJ. bioRxiv 2018 Jul 17
  • CRISPR-Cas9のコンポーネントであるsgRNA(mCherryで標識)とdCas9-VPR(FLAG-tagで標識)を2つのレンチウイルスベクターでそれぞれ送達し、神経細胞特異的プロモーターSYNで発現させる神経細胞最適化CRISPRaを開発
  • ラットの皮質、海馬および線条体由来の初代神経培養細胞において効率的転写活性化を実現
  • 多重sgRNAsを利用することで、単一遺伝子の相乗的転写活性化や多重遺伝子の転写活性化を実現
  • 神経細胞最適化CRISPRaの標的選択性を、複雑な転写調節を受け多様な作用を示す脳由来神経栄養因子(Brain-derived neurotrophic factor: Bfnf)をモデルとして評価;9種類のノンコーディング・エクソンそれぞれに特有なプロモーターを標的とするCRISPRaの結果、オフターゲット編集を伴わず、Bdnf転写物を高精度で選択的に調節可能なことを確認
  • 成体ラット脳in vivo (前頭前皮質、海馬、側坐核)での転写活性化を実現
  • 関連crisp_bio記事:2018-01-21 CRISPRメモ_新規dCas9転写活性化プラットフォームによる神経科学
3. CRISPR-Cas12a (Cpf1)のDNA標的探索とDNA切断を直接観察
  • [出典]"Direct observation of DNA target searching and cleavage by CRISPR-Cas12a" Jeon Y [..] Jeong C, Lee S, Bae S. Nat Commun 2018 Jul 17.
  • 一分子FRET(smFRET)法により(下図左参照)、Acidaminococcus sp.由来Cas12a (AsCas12a) RNPが、伸長したDNA分子に沿った1次元拡散で標的サイトを探索し、非標的鎖次いで標的鎖を切断するまでの動態を観察(下図右参照);AsCas12aのPAMがCas9 PAMと対照的に、R-ループ形成時のDNA巻き戻しへの関与が限定的であり、DNA切断過程への関与は無視できる程度であることを見出した。
AsCas12a-1 AsCas12a-6
4. 極めて効率の良いウサギのRNA誘導塩基編集(BE3, BE4-Gam; ABE)
  • [出典]"Highly efficient RNA-guided base editing in rabbit" Liu Z, Chen M, Chen S, Deng J, Song Y, Lai L, Li Z. Nat Commun 2018 Jul 13.
  • Cas9nにシチジンデアミナーゼあるいはアデニンデアミナーゼを融合した1塩基編集法CBEsとABEsをウサギ塩基編集に展開
  • 胚盤胞とファウンダー(F0)において、BE3とABE7.10により*、それぞれ53-88%と44-100%の塩基置換を実現
  • BEによりヒトの病理をウサギで再現可能にするRNAのミススプライシングと共に、ナンセンス変異やミスセンス変異の誘導が可能
  • BE4-Gam**がBE3に較べて、胚盤胞におけるindelsを低減し、プロダクトの純度が高めることも確認
  • *) 2018-05-30 CRISPRメモ_2018/05/30 - 3. 1. 塩基エディターBE4とABEを、BE4max/AncBE4max/ABEmaxへと強化;**) CRISPRメモ_2018/07/07 2. BE (Base Editors)をさらに強化
5. バクテリオファージがバクテリアのCRISPR-Cas9および制限酵素から身を守る戦略
  • [出典]"A nucleus-like compartment shields bacteriophage DNA from CRISPR-Cas and restriction nucleases" Mendoza SD, Berry JD, Nieweglowska ES, Leon LM, Agard D, Bondy-Denomy J. bioRxiv 2018 Jul 17. > "A bacteriophage nucleus-like compartment shields DNA from CRISPR nucleases" Mendoza SD,  Nieweglowska ES [..] Bondy-Denomy J. Nature 2019-12-09 [crisp_bio 2019-12-10追記]. 
  • UCSFの研究チームは今回、Pseudomonas aeruginosanaに感染するジャンボファージΦKZが、宿主の多様な免疫系、CRISPR Cas3(Type I-C), Cas9(Type II-A), Cas12(Cpf1, Type V-A) およびType I制限修飾系(R-M)システムに耐性を示すことを明らかにし、核様のシェル(nucleus-like shell)を形成することで自らのDNAを保護する機構を提唱した(左下図内のDを参照)。
Phage 3 
  • ΦKZは、Cas9によってin vitroでは切断されるが、in vivoでは切断されない。Cas9は、ファージが宿主に感染する際に形成されるシェルによって物理的にファージDNAから保護されることを同定(上図のAの中央列のDAPI染色像とDの中央から右を参照)。ただし、シェルの外側でその翻訳が進行するmRNAがCas13a(C2c2)の標的になることがΦKZの弱点である(上図のDの左側参照)。
  • なお、先行論文 (van Belkum et al. 2015) にあるP. aeruginosaの非冗長スペーサ (Type I-C/I-E/I-Fシステム) ~4,000種類の中には、ΦKZまたはその類縁のジャンボファージ (ΦPA3, PaBG, KTN4およびPA7)に対するスペーサが存在しなかった (Table 1引用下図参照)。bioRxiv Table 1
  • 関連crisp_bio記事:2019-12-11 ジャンボファージは殻にこもることでCRISPR-Casシステムから身を守るがタイプIII-Aには捕捉される (2報)
6. Inscripta社CRISPR-MADzymesの特許成立
  • [出典]"Inscripta Granted Patents for CRISPR Gene-Editing Systems - New data shows Inscripta’s MADzymes edit in mammalian cells" INSCRIPTA News 2018 Jul 12.
  • Inscripta社は7月12日に、同社のMADzymes(MAD7とMAD2)が微生物、植物および哺乳類細胞のゲノム編集ツールとし米国特許として認定されたと発表した。MAD7とMAD2はInscriptaが研究開発を進めている新奇なRNA誘導ヌクレアーゼのMadagascarファミリー由来である。Inscripta社は同時に、Horizon Discovery社が、MAD7とsgRNAsのシステムによって哺乳類細胞で複数遺伝子の編集が可能なことが実証された、と発表し、Webサイト には、ヒトHEK293T細胞において合成したsgRNAsと組み合わせることで複数遺伝子の編集が可能であったと、記載されている。また、MAD7の配列はWebサイトからダウンロード可能であり、MAD7の研究開発への利用は'royalty-free'としている。
7. ナフィールド生命倫理審議会は、次世代に影響を及ぼすヒト胚、精子または卵子のDNAの編集'heritable genome editing interventions'を許容する、と結論
  • [出典]"(NEWS) Heritable genome editing: action needed to secure responsible way forward" Nuffield Council on Bioethics. 2018 Jul 17.;"(レポート) Genome editing and human reproduction:social and ethical issues" Nuffield Council on Bioethics. 2018 Jul 17.
  • 2つの原理原則:次世代の'welfare'の保証し、また、次世代の'welfare'と整合すること;社会の不公平、差別あるいは分裂を増大させてはならない
  • 'heritable genome editing interventions'が許容される前提条件:その利用と意味するところについて、開かれた議論に十分な機会が設けられること;臨床的安全性の標準設定を可能とする研究が行われること;個人、集団および社会全般に対するリスクが適切に評価され、モニターとレビューする仕組みが整えられること
  • 'heritable genome editing interventions'が許可される前提条件:規制に従う(英国ではHFEAによる規制);個人および集団に対する作用の長期的モニタリングを組み込んだ臨床研究に限る;ケースバイケースで判断
  • 'heritable genome editing interventions'とそれに関連する科学・医学研究開発について広く開かれた議論を促進する独立の機関設立を勧告
  • ナフィールド生命倫理審議会関連crisp_bio記事:2017-05-02 CRISPRニュース:ゲノム編集をめぐって生命倫理の観点から急ぎ議論すべき2つの応用分野