1. Cas9によるDNA領域の欠失・挿入・逆位を読み解く
[出典]"Precise and Predictable CRISPR Chromosomal Rearrangements Reveal Principles of Cas9-Mediated Nucleotide Insertion" Shou J, Li J, Liu Y, Wu Q. Mol Cell 2018 Jul 19.;bioRxiv 2017-05-09 Precise And Predictable DNA Fragment Editing Reveals Principles Of Cas9-Mediated Nucleotide Insertion. の改訂版に相当

 Cas9とsgRNAsペアによる2ヶ所のDSBからのdsDNA修復の様相
  • Cas9の切断活性は、Cas9の2ヶ所の触媒活性ドメインHNHとRuvCの間のアロステリックなコンフォメーション変化を伴うR-ループ形成を介して、発揮され、HNHとRuvCを結合する2ヶ所のリンカーは天然変性(disordered)またはヘリックス状である。
  • sgRNAsペア(sgRNA1とsgRNA2と表記)で誘起される2ヶ所のDSB(4つのDNA末端をsgRNA1の標的位置のEnd-Ⅰ、-ⅡとsgRNA2の標的位置の-Ⅲ、-Ⅳと表記)は、非相同末端結合(NHEJ)および相同組換え(HR)のパスウエイによって二本鎖DNAへと修復・結合される。NHEJには典型的/古典的NHEJ(cNHEJ)の他に、代替NHEJ (alt-NHEJ)または5〜25塩基対のマイクロホモロジー媒介末端結合(MMEJ)が知られている。
  • DSB修復には多様な因子が関与するが、CtIP(C-terminal binding protein [CTBP]-interacting protein)はFANCD2と一体となって、直接またはDNA鎖のリセクションを介してalt-NHEJとHRに関与する。
  • 互いに競合する複数のDNA修復パスウエイを介した2ヶ所のDSBの末端結合の結果、大規模なDNA断片の欠失、重複、逆位が生じる。CRISPR-Cas9ゲノム編集によるこうした染色体再編は、ゲノム3次元構造における発生遺伝子の調節やヒト遺伝子疾患の研究に利用されている。
  • 参考:Cas9のdsDNA切断動態関連crisp_bio記事"Cas9ムービー - 原子力間顕微鏡(AFM)観察"
 上海交通大學醫學院の研究チームが示したCRISPR染色体再編の特徴
  • 参照:原論文グラフィカルアブストラクト
  • HRだけでなくcNHEJによる修復もエラーフリーである:CtIPまたはFANCD2の欠損が、SpCas9によるDNA断片の削除の精密化をもたらす;cNHEJの因子であるXRCC4またはDNAリガーゼのⅣ欠損は、精密な削除を大きく減ずる。
  • Cas9は付着末端(non-blunted/staggered end)を生成する:Cas9のHNHドメインはgRNAの相補鎖を正確にPAMの上流-3の位置で切断する。一方で、Cas9のRuvCドメインは非相補鎖を、in vivoでもin vitroでも、PAMから-3の位置に限らずさらに上流の位置でも切断する。したがって、Cas9によって平滑な末端(blunted ends)に限らず、5末端がオーバーハングした付着末端も発生する。
  • オーバーハングの切断プロファイルは、HNHドメインとRuvCドメインの間の2ヶ所のリンカー部位に触媒活性を維持したまま変異を導入したCas9変異体の種類、sgRNAsおよび標的配列の組み合わせによって変化する(Pcdhとβグロビン遺伝子座の述べ5ヶ所のDNA領域を標的とする実験結果)。
  • 欠失/重複/逆位の結合領域へのヌクレオチド挿入は予測可能である:sgRNA1とsgRNA2が誘導するEnd-Ⅰと-ⅡならびにEnd-Ⅲと-ⅣのDNA修復にあたり発生するヌクレオチド挿入は無秩序な現象ではなく、cNHEJまたはHRによる修復過程を介したオーバハングのPAM上流からの穴埋めとライゲーションに依存し、したがってPAMの組み合わせから予測可能である。この現象には未知のDNAポリメラーゼが関与すると思われる。
2. Cas9標的部位に発生する非ランダムな変異を読み解く
[出典]"Decoding non-random mutational signatures at Cas9 targeted sites" Taheri-Ghahfarokhi A [..] Maresca M. Nucleic Acids Res 2018 Jul 19.
  • 標的部位におけるCas9の変異プロファイルは、哺乳類細胞におけるヌクレアーゼの活性と修復機構に関する情報を含んでいる。これまでそれを読み解く手法が存在しなかったところ、アストラゼネカの研究チームは今回、ハイスループットNGSデータから出発して、Cas9が誘導する遺伝変異 (特に、InDels変異)の詳細かつ網羅的な解析に加えて細胞内におけるDNA修復過程の選択機構の研究を可能とするin silicoプラットフォーム'Rational InDel Meta-Analysis(RIMA)'を開発した(下図説明:A)DSB修復パスウエイ;B)InDels同定実験手法;C)RIMAの解析フローチャート(配列上でsgRNAsとPAMをそれぞれ紫色と黄色で表示))。
RIMA
  • RIMAは、上図A)の下段右に表記されている'classical microhomology-mediated end joining(c-MMEJ)'パスウエイによる変異生成も対象とした。ここで、c-MMEJは、少なくとも2ヌクレオチド以上のマイクロホモロジー配列に起因する欠失をもたらすalt-NHEJのサブ・パスウエイを意味する(すなわち、二次構造形成配列における限定的なDNA合成に由来するマイクロホモロジーに起因するalt-NHEJのサブパスウエイであるSD-MMEJは対象外)。
  • RIMAによって、ヒト肺胞基底上皮腺癌A549細胞の野生型とPOLQノックアウト細胞において、15ヶ所の標的部位における変異シグナチャーを比較し、c-MMEJにおけるDNAポリメラーゼθの役割を明らかにした。
  • また、Cas9標的部位における1塩基挿入が直前塩基の重複であり、Cas9によるDSBが、平滑(blunt)末端に加えて付着(staggered)末端を生成することが示唆された。
  • PAMの上流3番目と4番目の塩基がInDels発生に大きく影響する:例えば4番目の塩基がチミンの場合、グアニンに対して、2倍の一塩基InDelsを誘起する。
  • RIMAは、Cas9を介したゲノム編集の結果を予測することが可能にし、また、Cas9オーソログさらには改変ヌクレアーゼの機能解析も可能にする。

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