[出典]"Target-Based Discovery of an Inhibitor of the Regulatory Phosphatase PPP1R15B" Krzyzosiak A, Sigurdardottir A, Luh L, Carrara M, Das I, Schneider K, Bertolotti A. Cell 2018 Jul 26.

背景
  • タンパク質の可逆的リン酸化は、リン酸基を着脱するリン酸化酵素(キナーゼ)と脱リン酸化酵素(ホスファターゼ)とによって可逆的に調節され、広汎な生命現象を担うことから、キナーゼとホスファターゼの不全は重篤な疾患を引き起こす。
  • 多様なキナーゼ群を標的とする薬剤の研究開発は進んできたが、活性部位の保存性が高いホスファターゼ群は、各ホスファターゼに選択的に作用する低分子の同定が極めて困難であることなどから、これまでアンドラッガブル(undruggable)とされてきた (Stanford & Bottini, 2017*)。
  • MRC分子生物学研究所の研究チームは先行研究で、リン酸化を受けてタンパク質合成を調節する翻訳開始因子eIF2αのヘテロ二量体ホロホスファターゼの機能アッセイを行い、そのプロテインホスファターゼ1(PP1)に結合している2種類の調節サブユニット、ストレス応答PPP1R15A(R15A)と恒常的PPP1R15B (R15B)、のうちR15Aに対する阻害剤グアナベンズ(GBZ)とその誘導体Sephin1が、R15A選択的にコンフォメーション変化を誘導することで阻害することを同定した。しかしこのアッセイ法は、低分子スクリーニングとランキングに必要な感度とダイナミックレンジを欠いていた。
  • *) [REVIEW]"Targeting Tyrosine Phosphatases: Time to End the Stigma" Stanford SM, Bottini N. Trends Pharmacol Sci. 2017 Jun;38(6):524-540. Epub 2017 Apr 12.;PCM
成果
  • 従来のスクリーニング法の限界を突破することを目的として、MRC分子生物学研究所の研究チームは今回、表面プラズモン共鳴法と合成ホスファターゼ・チップを組み合わせたSPR chipスクリーニング(下図左下 Fig.1 (D)参照)に細胞アッセイと生化学的アッセイを組み合わせたプラットフォームを開発した(下図上段Fig. 7-1参照)。
  • 予備実験として、このプラットフォームによってR15AならびにR15BとGBZおよびSephin1との結合親和性の測定と比較が可能なことを確認した。
  • 次に、このプラットフォームによって(下図右下Fig. 2-(A)参照)、R15Bに選択的に高い結合親和性を示す低分子、Raphin1、を同定するに至った。
SPR chip
  • Raphin1は細胞においてR15Bを阻害する:Raphin1によってR15Bにコンフォメーション変化が誘導され、PP1c-R15Bの脱リン酸化活性が阻害され、eIF2αのリン酸化が迅速かつ一時的に亢進し、ひいてはタンパク質合成が低減する。
  • Raphin1によってコンフォメーションが変化したR15Bは、AAA型分子シャペロンp97を介してプロテアソームで分解される。
  • Raphin1は細胞毒性を示さず、経口投与可能であり、血液脳関門を通過し、ハンチントン病モデルマウスにおいて病因となるミスフォールドタンパク質蓄積を低減。
  • Raphin1は、タンパク質合成を縮減することで、細胞内のタンパク質品質管理機構がミスフォールドタンパク質の速やかに分解することが可能になることを示唆(下図グラフィカルアブストラクト参照)。PQC