[出典]  "Modeling chemotherapy-induced stress to identify rational combination therapies in the DNA damage response pathway" Sci Signal. 2018 Jul 24.

背景
  • 化学療法薬にDNA修復パスウエイ阻害剤を併用する合成致死療法の研究開発が加速している。FDAはこれまでに3種類の合成致死療法(PARP阻害剤-オラパリブ, - ルカパリブ, - ニラパリブ)を認可し、現在、DNA損傷修復パスウエイに関与するほとんど全てのキナーゼ(ATR, CHK1, ATM, CHK2ならびにDNA-PK)に対する阻害剤の作出・評価が進んでおり、化学療法薬とATR阻害剤あるいはCHK1阻害剤との臨床試験がそれぞれ始まっている。こうした合成致死療法の成功は、膨大な組み合わせの中から、標的とする癌に(すなわち患者ごとに)最も効果的な癌の脆弱性を十分に引き出すことができる組み合わせを見つけ出すことにかかっている。
  • 化学療法は、細胞周期の停止とG1、SまたはG2/M期におけるDNA修復を結びつける複雑なDNA損傷応答シグナル伝達パスウエイを駆動し、細胞運命(細胞生存/脂肪周期再活性化/細胞増殖/老化/細胞死)を決定づける。DNA損傷応答が複雑になるのは、アポトーシスやネクロトーシスといった細胞死への機構とDNA修復やオートファジーといった細胞生存への機構を同時に活性化し、しかも双方の機構に同じシグナル伝達タンパク質やパスウエイが関与するためである。したがって、関連するタンパク質やパスウエイを活性か不活性かのオンオフ判定にとどまらず定量的に評価することが、DNA損傷応答と細胞運命決定の機構のモデルには必要である。
成果
  • Merrimack Pharmaceuticals IncとMITの研究チームは今回、化学療法とDNA修復阻害剤の併用療法の効力をin silicoで予測・評価するために、DNA損傷応答と細胞運命の関係を定量化する分子レベルから細胞レベルまでのマルチスケールなコンピュータモデルを広範なパラメーター取り込んだ微分方程式に基づいて構築した(原論文 Fig. 1参照)。
  • また、ヒト骨肉腫細胞株U2OSの広範なデータで学習させ較正することで、このコンピュータモデルによって化学療法とDNA修復阻害剤の併用療法の効力をin silicoで予測・評価可能なことを示した。
  • モデルは、細胞の応答は用量に応じて細胞増殖抑制と細胞死に分かれることを示唆した。
  • モデルから相乗効果が高いとされた一本鎖切断(single-strand break, SSB)を誘導する化学療法薬(イリノテカン)とATR阻害剤の併用療法を、遅延放出性のリポソームを利用した細胞実験とin vivo実験で検証した。