[出典]"A Genetically Encoded Fluorescent Sensor Enables Rapid and Specific Detection of Dopamine in Flies, Fish, and Mice" Sun F, Zeng J, Jing M [..] Li Y. Cell. 2018 Jul 12;174(2):481-496.e19.

背景
  • ドーパミン (DA)は中心的なモノアミン神経伝達物質であり、多くの生理過程と病理過程に関与することが知られているが、DAの動態を生体in vivoにて時間的にも空間的にも精密に測定する手段がなく、複雑に行動している動物におけるDA動態の測定は不可能であった。例えば、一連のTANGO アッセイ法を利用して、βアレスチンシグナル伝達経路とレポータ遺伝子の発現の共役を介して内在DAの放出を測定できるようになったが、シグナル増幅時間が長いため、生理過程における高速なDAシグナリングの動態を捉えるには至らなかった。
概要
  • Peking University School of Life Sciencesを始めとする中・米の共同研究グループは、細胞外DAを、直接、迅速、感度良くかつ細胞型特異的に検出可能とする遺伝子組込み型蛍光センサーを開発して、GRABDA (GPCR-activation-based-DA)と命名した。
  • GRABDAによって、マウス脳からの急切片、ならびに、ショウジョウバエ、ゼブラフィッシュおよびマウスモデルの脳in situにおいて、内在DAのリアルタイム検出を実現した。また、GRABDA は、主要なGPCR下流のパスウエイには干渉しなかった。
詳細
  • Patriarchiら(Science, 2018*)のドーパミン動態可視化法と同様にSunらのセンサーも、DA受容体サブタイプ(以下、D2R)の細胞内ループ3番目(ICL3)にcpEGFPを挿入する。挿入サイトとリンカーを最適化し、結合親和性を変異導入で調節し、DA結合による蛍光強度変化(ΔF/F0 )が最大~90%におよぶGRABDA1m  (以下、DA1m)とGRABDA1h (以下、DA1h)を得た。DA1mとDA1HのDAに対する見かけ上の結合親和性EC50 は、それぞれ130 nMと10 nMとなり、また、DA結合に対する応答速度は100 ms以下と十分に高速であった。
  • HEK293細胞と培養神経細胞においてDAとD2RアンタゴニスおよびDA以外の神経伝達物質への応答性を測定し、想定した性能を帯びていることを確認。
  • DA1mまたはDA1hをAAVでマウス脳側坐核(NAc)に送達し2週間後の脳切片でセンサーの蛍光を確認;NAcコアの電気刺激に応じて蛍光強度上昇したのち減衰することを同定
  • ショウショウバエ脳キノコ体における臭覚刺激によるDA放出および単一の電気刺激によるDA放出を検出
  • トランスジェニックゼブラフィッシュ脳における化学遺伝学的およびlooming刺激によるDA放出を検出
  • 自由行動するマウス脳において、光遺伝学的刺激に対するDA応答を観察
  • マウスの古典的条件付け(Pavlovian conditioning)行動および交尾行動におけるNAc内DA動態をリアルタイムで観察