出典
概要
  • 近年、近接依存性ビオチン標識を介して一時的で弱い相互作用をするタンパク質相互作用 (PPI)の同定も可能になってきた。中でも、目的タンパク質(Protein of interest, POI)にビオチンリガーゼBirA*を融合し、近接した(相互作用した)タンパク質をビオチン化し、ビオチン化されたタンパク質を高親和性のビオチンーアビジン結合で回収して質量分析で同定するBioIDや、POIにアスコルビン酸ペルオキシダーゼ (ascorbic acid peroxidase)を融合し、ビオチン誘導体を用いることで、過酸化水素存在下でビオチン・フェニル基を基質としてビオチン-フェノキシルラジカルを放出させ近接タンパク質をビオチン標識するAPEX法が広く利用されている。
  • 上海科技大学の研究チームは今回、未だ困難を伴う膜タンパク質の相互作用同定に有効な近接依存性標識法を新たに開発し、PUP-IT (Pupylation-based interaction tagging)と命名した。
PUP-IT
  • 微生物版ユビキチン―プロテアソームシステム*で同定されたPupタンパク質(Prokaryotic ubiquitin-like protein)とPupリガーゼであるPafAタンパク質(proteasomal accessory factorA)を利用する。
  • PupはC末端にGly-Gly-Glnを帯びた64アミノ酸の小型のタンパク質で、バクテリアではC末端のGlnがGlu(一文字表記E)に脱アミノ化されている(論文ではこのPupをPup(E)と表記)。
  • ATP存在下で、PafAは、Pup(E)のC末端のGluのリン酸化を触媒してPup(E)をタンパク質のリジン側鎖に結合する。この反応は、リジンのε-アミノ基が必要十分という点で、真核生物におけるユビキチン化と共通する。
  • リジンはヒトタンパク質のほとんどに存在することから、タンパク質間相互作用解析におけるベイトとする膜タンパク質(Membrane Protein of interest, MPOI)にPafAをコードするpafAを遺伝的に融合しておくことで、ベイトの近接タンパク質のリジンへのPup(E)連結を誘導する。
実証実験
  • Cul3ユビキチンリガーゼのサブユニットSPOP MATHドメインと弱い相互作用をするSPOP基質由来の一連のペプチド pep1, pep2,およびpep3 (平衡解離定数それぞれ、3.7 μM, 76 μM,および >250 μM)との相互作用をin vitroでもin vivoでも検出
  • Jurkat細胞において、T細胞活性化に重要な共刺激因子CD28のC末端テイルにPafAを融合し、Pupをビオチン標識し、ストレプトアビジンでPup標識タンパク質をプルダウンし、LC-MS/MSでCD28と相互作用するタンパク質(インタラクタ)を同定;PIK3R1(p85), ITK, PTPRC, およびLCKCD28といった既知のインタラクタ(interactors)含む200を超えるCD28テイルのインタラクタ候補を同定した。
  • また、Jurkat細胞において、CD28の膜貫通ドメインや細胞外ドメインとのインタラクタも探り、41種類の候補を同定し、CD28シグナル伝達パスウエイとの関与も見出した。
  • PUP-ITによるCD28リガンドを帯びた細胞の標識とサイトカインIL-2とIL-2受容体サブユニットCD25との相互作用解析も実施した。
備考
  • PUP-ITシステムは細胞内で発現するコンポーネントで構成され、ビオチン・フェノルや過酸化水素といった試薬を必要としないことから、細胞過程を擾乱するリスクが低くまた動物個体in vivoへの展開も可能である。
  • PUP-ITは、CD28と直接相互作用する既知のタンパク質を4種類検出したが、BioIDは1種類であった。
  • PUP-ITシステムにはサイズがBioIDやAPEXより大きく、APEXよりもタギングが遅いといった弱点があり、PPI解析の目的に合わせて選択することが望ましい。
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