出典
  • "Efficient proximity labeling in living cells and organisms with TurboID" Branon TC [..] Ting AY. Nat Biotechnol. 2018 Aug 20;"Directed evolution of TurboID for efficient proximity labeling in living cells and organisms" bioRxiv. 2017 Oct 2.
概要
  • 近年、酵素で触媒する近接依存性標識法 (proximity labeling, PL)によって、生細胞内でタンパク質の配置と相互作用を解析可能になった。しかし、現行のPL法はラベリングに18時間以上を要したり、あるいは、細胞透過性の低い化合物や高毒性の化合物を必要とするといった課題を抱えている。
  • MIT、Stanford Uなどの研究チームは今回、酵母ディスプレイ法に基づく指向性進化により、BioIDまたはBioID2に優るPLを実現するビオチン・リガーゼの非選択的(promiscuous)変異体2種類を作出し、それぞれTurboIDおよびminiTurboと命名した。TurboIDとminiTurboは、BioIDとBioID2を超える効率でPLを触媒し、また、細胞内で、毒性が無く細胞送達が容易なビオチンにより10分間でPLを実現する。さらに、TurboIDは、BioIDではこれまで報告例が無かったショウジョウバエと線虫において、近接依存性ビオチン・ラベリングを実現した。
背景
  • PLには主として2種類の酵素が利用されてきた。大豆由来アスコルビン酸ペルオキシダーゼを改変したAPEX2とE. coli由来ビオチン・リガーゼの非選択的変異体BioIDである。
  • APEX2には近接タンパク質を1分以下で迅速にラベリングする長所があるが、生体に毒性を示す過酸化水素を必要とする短所がある。
  • BioIDラベリングには、ビオチンを加えるだけでラベリングが始まるという簡便で無害であるという長所があり、開発後5年間で、哺乳類培養細胞、植物プロトプラスト、寄生虫、粘菌、マウスおよび酵母への適用例が100件を超えた。
  • BioIDラベリングは一方で、質量分析によるタンパク質同定に必要十分なビオチン化を達成するために18-24時間を要するという短所を伴っている。このため、数分から数時間で進行する相互作用解析には利用できない。さらに、触媒活性が低いことから、線虫、ショウジョウバエ、哺乳類培養細胞の小胞体内腔におけるラベリングには利用できない
  • 近年、新たな非選択的ビオチン・リガーゼ変異体BioID2とBASUが開発されたが、BioIDによるラベリングも16時間以上を要し、BASUは適用可能なプロテオームが限定的である。
指向性進化
  • 研究チームは、APEX2とBioIDの長所を兼ね備えたPL酵素作出を目的として、E. Coli由来ビオチン・リガーゼ(BirA)の指向性進化を試みた。はじめに、BioID(BirA-R118G)と、R118の他の7種類の変異体とを比較し、R118Gのおよそ2倍の活性を示したR118Sを出発変異体として、次項の要領で指向性進化を進めた。
  • Error-prone PCRを介してBirA-R118Sに変異を導入することで10の7乗を超える変異体ライブラリを構築 --> a-アグルチニンの小サブユニットAga2pを介して酵母表層ディスプレイ --> ビオチンとATPを酵母プールに加え、非選択的ビオチン化を誘導 --> ストレプトアビジン・蛍光団でビオチン化部位を染色 --> FACSにより強くビオチン化された細胞を濃縮;この際、ビオチン化時間ウインドウを18時間から10分へと29回のセレクションを介して短縮;(注) この指向性進化の過程で、TSAシグナル増殖、リガーゼの還元的除去およびネガティブセレクションを必要とした。
成果詳細
  • 指向性進化を経て、野生型BirAに対して15種類の変異を帯びた35 kDのTurboIDと、野生型BirAに対して13種類の変異を帯びN末端ドメインを削除した28 kDのminiTurboを得た。
  • HEK293T細胞細胞質においてBioID、BioID2およびBASUと活性を比較:TurboIDは、BioIDなどが18時間を経て達成するビオチン化を10分間で達成;miniTurboの活性はTurboIDに劣るが、外部からビオチンを加える前のラベリングが低レベルなため、精密なラベリングタイムを決定することが目的の場合は、miniTurboがTurboIDに優る。
  • HEK293T細胞の核、ミトコンドリアマトリックス、小胞体内腔および小胞体膜で活性比較:TurboIDはいずれにおいても10分間で検出するに十分であり、また、miniTurboを超えるシグナルを発生し、ミトコンドリアマトリックスと小胞体内腔でBioIDの18時間を要したラベリングを超えるシグナルを発生
  • HEK293T細胞のミトコンドリアマトリックス、核および小胞体膜(ER membrane, ERM)に接した細胞質におけるプロテオーム解析でも10分間のTurboIDが18時間のBioIDのラベリングと同等の結果をもたらすことを確認
  • 微生物での活性:TurboIDとminiTurboは、E. coliSaccharomyces cerevisiaeでもBioIDよりも高活性であり、BioIDでは非検出となる30°Cでも検出
  • ショウジョウバエと線虫:ショウジョウバエでは、TurboIDとminiTurboを介したビオチン化がそれぞれBio-IDの22倍と10倍の活性を示し、線虫でも、成体に至る発生の4段階でBio-IDより高活性を示した。
  • 注意事項:TurbIDを偏在的に発現させる場合は、内在ビオチン隔離による毒性が発生することから、外部からビオチンを補給する必要がある;必要以上に長い時間のビオチン化により内在プロテオームの慢性的ビオチン化そしてまたは近接依存性ラベリング部位の飽和に依る空間分解能の劣化を回避するため、予め必要にして十分な最短のラベリング時間ウインドウを同定しておく必要がある。
TurboID利用論文例