1. ヒト・バレット食道(BE)腫瘍オルガノイドを樹立:野生型とWnt活性変異型
[出典]"Modeling Wnt signaling by CRISPR-Cas9 genome editing recapitulates neoplasia in human Barrett epithelial organoids" Liu X [..] Meltzer SJ. Cancer Lett. 2018 Aug 22.
  • CRISPR-Cas9によりAPC遺伝子をノックアウトした患者由来オルガノイドが、自律的Wnt活性化を呈し、長期間培養が可能なことを確認
  • Wntシグナル伝達経路活性化BEオルガノイドは野生型に対して、組織学的異型、高増殖性・複製活性亢進、アポトーシス低減、ならびに、Ki67, c-mycおよびサイクリンD1の過剰発現、加えて、基底膜の破壊に至る浸潤が亢進
  • BE腫瘍をドライブする他のパスウエイについても、今回の手法により、不死化または癌細胞由来細胞モデルに見られるシグナル伝達におけるノイズの擾乱を受けない評価が可能。
2. CRISPR-C: ヒト細胞においてCRISPR技術により遺伝子と染色体を環状化
[出典]"CRISPR-C: circularization of genes and chromosome by CRISPR in human cells" Møller HD, Lin L [..] Regenberg B, Luo Y. Nucleic Acids Res. 2018 Aug 24. (bioRxiv 2018-04-19)
  • はじめに、二重蛍光バイセンサー・カセット(exogenous dual-fluorescence biosensor cassette, ECC biosensor)を作出し(原論文Figure 1引用左下図のA)とB)参照)、CRISPR-C 1
    一対のCRISPR/Cas9 gRNAsを介して切り出されたDNA断片が、主として両端の結合を経て、環状DNA(外来遺伝子由来および遺伝子間領域と遺伝子座由来)を形成する (CRISPR-C)ことを実証した。
  • CRISPR-Cにより、異なる遺伝子座においてサイズの異なる環状DNA生成が可能であり、第18染色体からの47.4メガベースのサイズの環状染色体作出も実現した。
  • 癌のほぼ半分は癌遺伝子とeccDNAsを帯びており、また、環状染色体が病因となる遺伝子疾患が知られており、CRISPR-Cはヒト疾患研究に有用である。CRISPR-Cはまた、染色体・ゲノム合成研究にも有用である。
3. AAV送達による中枢神経系のCRISPR-Cas9ゲノム編集
[出典]"Adeno-associated virus-mediated delivery of CRISPR-Cas9 for genome editing in the central nervous system" Nishiyama J, Mikuni T, Yasuda R. Neuron. 2017 Nov 15;96(4):755-768.e5. Online 2017 Oct 9.
  • Max Planck Florida Institute for Neuroscience の西山、三國ならびに安田らは先行研究で、CRISPR-Cas9発現ベクターと相同組換え修復(HDR)用のテンプレートを、マウス子宮内胎児の脳の神経前駆細胞にエレクトロポレーションすることで、精密な遺伝子編集を実現するSLENDR法を開発していた (関連crisp_bio記事:2017-04-19 SLENDR法 - マウス脳において、タンパク質細胞内局在をハイスループットかつナノスケールでマッピング)
  • 研究チームは今回、有糸分裂神経前駆細胞と分裂終了後グリア細胞において、AAVでHDRテンプレートを送達することでHDR過程を介した効率的な配列ノックインが可能なことを示し、vSLENDR法と命名した。
  • Cas9をノックインまたはCas9を発現するAAVを送達し、HDRをAAVで送達することで、器官培養in vitroに加えて、
  • ヒト神経変性モデルマウス脳in vivoでの内在タンパク質のタギングも実現
4. [概説]CRISPR/dCas9を介した細胞分化
[出典]"CRISPR/dCas9-mediated cell differentiation" Gong J, Tang D, Leong KW. Curr Opin Biomed Eng. 2018 Aug 24.
  • 再生医療に必要な細胞分化には、複数の転写因子それぞれにウイルスベクターを用意し、また、長時間の遺伝子過剰発現のためにウイルスベクター送達を繰り返す必要があった。
  • 近年、CRISPR-Casシステムによって、不活性なCas9タンパク質(dCas9)にエピゲノム調節因子または転写調節因子を融合し、gRNAで標的位置に誘導することで、内在遺伝子発現の活性化と抑制を簡便に制御することが可能になった。
  • CRISPR-dCas9に基づく手法、および、その幹細胞からの細胞分化または成熟細胞の直接変換を介した目的細胞作出への応用を概観し、再生医療と疾患モデリングへの応用を展望。
5.  [レビュー]CRISPR/Cas9による哺乳類ゲノム編集実験におけるオフターゲット編集と培養細胞・実験動物の不均一性が実験結果に与える影響
[出典]"Review: Strategies for controlling CRISPR/Cas9 off-target effects and biological variations in mammalian genome editing experiments" Kimberland ML [..] Lua Q. J Biotechnol. 2018 Aug 22.

6. [レビュー]CRISPR/Cas9ゲノム編集技術による癌ウイルス療法研究の動向
  • [出典]"Review: The implication of CRISPR/Cas9 genome editing technology in combating human oncoviruses" Gilani US, Memoona, Rasheed A, Shahid M, Tasneem F, Arshad MI, Rashid N, Shahzad N. J Med Virol. 2018 Aug 22.
7. [論説]CRISPR技術などによる遺伝子編集作物はこれまでのGMOの枠組みで取り扱うとした欧州連合司法裁判所 (ECJ)の裁定に対する反論に加えて科学者が行動する必要性を訴え
[出典]"CRISPR Craziness: A Response to the EU Court Ruling" Barrangou R. The CRISPR Journal. 2018 Aug 1.
  • 76億人(PopulationPyramid.net)の人々に囲まれて、800万人の科学者が研究に携わっている(UNESCO統計)。新たな技術による食糧問題などの地球規模の問題解決には、科学者が平均960人の人々からの理解と信頼を得ていく努力をするることが必要 (CRISPR Crazinessの中の一文を意訳し数字を改訂)。
8. 荘厳なる議論:CRISPRの勝利
[出典]"Pomp and Circumstance: Making the Case for CRISPR" Curchoe CL, Barrangou R. The CRISPR Journal. 2018 Aug 1.
  • 1982年に英国オックスフォード大学にて設立された威厳ある団体であるOxford Unionが2018年5月3日に主催した遺伝学討論会"This House Believes that Genetic Engineering Undermines the Nature of Humanity"に招待され、3ラウンドのディベートに参加した発生生物学者Carol Lynn CurchoeとCRISPR関連研究でガードナー国際賞も受賞した生物学者Rodolphe Barrangouのエッセイ。ディベートの結果は、2対1でゲノム編集賛成派が勝利
9.  [コメント]Cas9に対するヒトの免疫応答が投げかけたCRISPR遺伝子編集療法の課題は克服できる
[出典]"[Comment]Cas9 immunity creates challenges for CRISPR gene editing therapies" Crudele JM, Chamberlain JS. Nat Commun. 2018 Aug 29.
  • CharlesworthらのbioRxiv投稿の「ヒトに内在するCas9に対する適応免疫を同定」に対するコメント (関連crisp_bio記事 CRISPRメモ_2018/01/07 2. ヒトはSpCas9とSaCas9に対する抗体を帯びている
  • 一般的に、細胞内の外来タンパク質は細胞性免疫、特に、CD8陽性細胞傷害性T細胞(CTLs)を介して、細胞死を誘導するが、外来タンパク質に対する抗体が直接に細胞死を誘導することはない。Charlesworthらが報告したCas9反応性CD8陽性T細胞は、インターフェロンγを分泌し細胞死を誘導することが示唆される。すなわち、ヒトの細胞性免疫が、CRISPR-Cas9が修復した細胞を破壊することを意味する。
  • AAVのような非炎症性ベクターを利用した遺伝子治療を施した動物モデルでは、未だ、Cas9に対する免疫応答がCas9を発現細胞を細胞死に誘導する例は見出されていない。したがって、Cas9に対する免疫の内在いかんにかかわらず、Cas9発現が形質転換した細胞を破壊するか否か定かではない。
  • また、仮に遺伝子治療の結果CTLが細胞死を誘導するとしても、抗Cas9 T細胞の影響を最小限に止める戦略が複数あり、この点で、遺伝子編集の分野は遺伝子治療の分野に学ぶことができる。遺伝子治療分野はこれまでに、ベクター、用量、標的組織、投与ルート、プロモーター、および免疫抑制を注意深く分析・調節することで、カプシドや外来遺伝子に対するCTLの問題を克服してきた。Cas9の発現を恒常的ではなく一時的に発現させてCTLの問題を回避する手法も今後の開発・改良を期待できる。
  • 免疫能を備えた大型動物モデルによる前臨床試験が必要であるが、遺伝子編集の未来に陰りは見えない。
10. 癌におけるBCL-2遺伝子依存性の網羅的マッピングから、BH3ミメティック感受性の決定因子を同定
[出典]"Systematic mapping of BCL-2 gene dependencies in cancer reveals molecular determinants of BH3 mimetic sensitivity" Soderquist RS [..] Wood KC. Nat Commun. 2018 Aug 29.
  • BH3ミメティックス (BCL-2ファミリータンパク質阻害剤)が抗がん剤として有望であるが、各種癌のBCL-2遺伝子依存性の理解は進んでいなかった。
  • デューク大学の研究チームは今回、BCL-2, BCL-XL, およびMCL-1の阻害剤およびその組合せに対する10種類の組織型の癌の感受性を判定し、CRISPR/Cas9スクリーンによって、BCL-wとBFL-1が、BH3ミメティクスの全ての組合せに対する耐性を亢進することを同定。
11. 高精度CRISPR/Cas9を介した遺伝子特異的ヒドロキシメチル化により、遺伝子発現を修復し腎線維症を抑制
[出典]"High-fidelity CRISPR/Cas9- based gene-specific hydroxymethylation rescues gene expression and attenuates renal fibrosis" Xu X [..] Zeisberg EM,  Zeisberg M. Nat Commun. 2018 Aug 29.
  • プロモーターの異常なメチル化による特定の遺伝子の発現抑制による臓器の線維化が進むが、その遺伝子を特異的に再活性化する療法は実現していなかった。
  • TET酵素は、メチル化されたDNAをヒドロキシメチル化を触媒し、遺伝子発現を再活性化する。University Medical Center Göttingenを中心とする研究チームは今回、Kleinstiverらが開発したhigh-fidelity Cas9 (HFCas9)のエンドヌクレアーゼを不活性化したdHFCas9に、TET触媒ドメイン (TET3CD)を融合し、gRNAを介して、in vitroにて、腎線維症において高度にメチル化されているRASAL1とKlothoを含む4種類の抗線維化遺伝子の再活性化を実現した。
  • さらに、in vivoにて、Rasal1を標的とするdHFCas9-TET3CDをレンチウイルスを介して間質細胞へ送達し、また、Klothoを標的とするdHFCas9-TET3CDを尿細管上皮細胞に送達し、いずれも目的遺伝子発現の再活性化と繊維化の抑制を実現した。
  • 2017-06-15 SpCas9-HF1:ゲノム編集の精度をさらに向上させるハイファイ(high-fidelity)CRISPR/Cas9
12. SIRT6のハプロ不全がIGFシグナル伝達を介して、BRAFV600Eメラノーマ細胞にMAPK阻害剤(MAPKi) に対す耐性をもたらす
[出典]"SIRT6 haploinsufficiency induces BRAFV600E melanoma cell resistance to MAPK inhibitors via IGF signalling" Strub T [..] Bernstein E. Nat Commun 2018 Aug 24.
  • クロマチン調節因子を標的とするCRISPR-Casスクリーニングにより、ヒストン脱アセチル化酵素SIRT6のハプロ不全によって、メラノーマ細胞がMAPKiに対する耐性を獲得することを同定
  • SIRT6の両アレル欠損ではなくハプロ不全が、クロマチンアクセシビリティを増してIGFBP2の発現と、IGFBP2遺伝子座のH3K56アセチル化を促進し、IGF-1受容体(IGF-1R)とその下流のAKTシグナル伝達を活性化
  • IGF-1RiとBRAFiを併用することでin vitroでもin vivoでもSIRT6ハプロ不全に由来する耐性を克服ダブラフェニブ とトラメチニブ の併用療法を受けたメラノーマ患者由来の試料において、IGFBP2がMAPKi耐性のバイオマーカーになり得ることを同定
13. Cas9を安定発現するヒト肝細胞癌細胞株と胆管癌細胞株の樹立
[出典]"Establishment of Cas9 stably expressed human hepatocellular carcinoma and cholangiocarcinoma cell lines" Zuo CX  ,  Bian XC,  Yang ZL ,  Feng HL,  Zhou FY,  Liu YQ. Zhonghua Zhong liu za zhi 2018 Aug 23;40(8):572-579. [Chinese Journal of Oncology
  • ヒトの肝臓癌細胞株6種類、胆管癌細胞1種類および胆嚢癌細胞1種類に、Cas9を発現する三種類のレンチウイルス(pLv-EF1α-Cas9-Flag-Neo, pLv-EF1α-Cas9-Flag-Puro, Cas9m1.1)を感染させ、 Cas9安定発現を実現