[出典]"IN DEPTH: In dogs, CRISPR fixes a muscular dystrophy" Cohen J. Science. 2018 Aug 31;"REPORT: Gene editing restores dystrophin expression in a canine model of Duchenne muscular dystrophy" Amoasii L [..] Olson EN. Science. August 30, 2018

背景
  • ジストロフィン遺伝子はX染色体に位置し、ジストロフィンタンパク質はジストロフィン遺伝子1コピーからでも発現する。したがって、1コピーの変異に対して少女にはバックアップが備わっているが、少年の場合はバックアップが無く、若年で歩行困難になり、平均して20台半ばで心臓と呼吸器の不全により死に至る。
  • DMD患者の少年の13%がエクソン45と50の間の領域に変異を帯び、そのために、エクソン51の読み枠が壊れている。2009年に、Royal Veterinary CollegeのRichard PiercyはDMDの兆候を呈するスパニエルにおいて、エクソン51の読み枠が壊れていることを同定していた。
概要
詳細
  • DMDの犬モデルの一種であり、ヒトDMD遺伝子の変異ホットスポットに対応するエクソン50を欠損しているdeltaE50-MD犬4頭に1月齢で、エクソン51のスプライス受容部位を標的とするsgRNA-51とCas9をそれぞれ組換えAAV9で送達した。
  • ジストロフィンタンパク質の発現を、2頭については筋肉内投与後6週で、他の2頭については静脈を介した全身投与後8週で、測定した。
  • 全身投与後、骨格筋ではジストロフィン・タンパク質のレベルが筋肉の種類に応じて正常ジストロフィン遺伝子の3~90%まで回復し(横隔膜では58%)、心筋では最も高い用量を施した場合に92%まで回復した。
  • CRISPR遺伝子編集による筋肉組織の改善も見られた。
IN DEPTHから
  • IN DEPTHの記事は、Olsonグループらの成果を簡明に紹介し、CRISPR/Cas9遺伝子編集によるDMD遺伝子治療が前進しているとしつつ、以下のような問題点も指摘した:
  • 今回の報告に対しては、例数が少ないことや、DMDの表現型のデータがほとんどないことを問題とみる研究者もいる。
  • 骨格筋は常に更新されるため必要とされる投与の繰り返しを、幹細胞でのジストロフィンタンパク質発現の回復により回避する工夫が必要である。
  • CRISPR遺伝子編集が発癌性変異を誘導するか見るために長期的観察が必要である。
  • 療法として認められたとしても、DMDによる筋肉の損傷は非可逆的なため、DMD発症早期に処方する必要がある。
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