[出典] "Systematic discovery of natural CRISPR-Cas12a inhibitors" Watters KE, Fellmann C, Bai HB, Ren SM, Doudna JA. Science 2018 Sep 6 (accepted 2018 Aug 23)

背景
  • Cas12a (Cpf1)には、合成生物学、生物医学、農学など応用分野が広がっている。これまで、Cas9, Cas3またはDNA結合Cascade複合体を阻害する抗CRISPR (Acr)タンパク質が、バクテリアに侵入する可動遺伝因子 (MGEs)から見出されているが、CRISPR-Cas12aに対するAcrタンパク質は発見されていなかった。
  • 関連crisp_bio記事 2018-09-08 抗CRISPR (Acr)タンパク質:Cas12a阻害タンパク質を含む12種類を発見
概要
  • UC BerkeleyのJennifer A. Doudnaらは、、微生物ゲノムにおけるCRISPRセルフ・ターゲッティングを手掛かりにAcrs候補を探索するバイオインフォマティクス・パイプラインSelf-Targeting Spacer Searcher (STSS)を開発し、Acrs候補をスクリーニンングする実験プロトコルを整備して、ヒト細胞においてCRISPR-Cas12aによるゲノム編集を阻害または抑制するAcrs3種類を同定するに至った。
  • STSSを介して同定されたCas12aに対するAcrsはNCBIデータベース内の少数のゲノムに限られており、特に、以下に詳述するAcrVA4とAcrVA5は共起する極めて稀なAcrであり、acaを手掛かりとした探索では同定できないAcrであった。
セルフ・ターゲッティングを探索するSTSS
  • Acrsはこれまで、CRISPR耐性のファージから発見されるか、anti-CRISPR associated genes (aca遺伝子;Pawluk A et al 2016 (Nature Microboology) Figure 1参照)に近接する領域から発見されてきたが、宿主自身のゲノムを標的とするセルフ・ターゲッティングCRISPR配列を手がかりとするAcrs探索法も提案されていた (J. Bondy-DenomyらのCell 2017論文ACS Chem Biol 2018レビュー引用)。セルフ・ターゲッティングをもたらすスペーサをCRISPRアレイに帯びている微生物は自己ゲノムの切断から致死に至るはずであるが、CRISPR阻害因子も帯びていれば、生存可能である。
  • STSSは、CRISPR Recognition Tool (CRT)を利用して、NCBI微生物ゲノムデータベースからCRISPRアレイ候補を網羅的に洗い出し、CRISPRアレイ中の全てのスペーサで宿主微生物のゲノムとプラスミドに対してBLTASTすることで、セルフ・ターゲッティング配列を同定可能にするバイオインフォマティクス・パイプラインである (原論文 Fi.g 1参照)。STSSは、また、セルフ・ターゲッティング配列がMGE内に存在した場合にそれが宿主に対して致死性か否かを判定するに必要な情報も同時に収集する。
STSSによる解析
  • STSSにより、150,291種類のゲノムからセルフ・ターゲッティング・スペーサーを22,125種類、9,155ゲノムに由来するユニークなセルフ・ターゲッティング・スペーサー配列8,917種類を同定した。
  • 初めにこれまでに複数のAcrsが同定されていたPseudomonas aeruginosa, Listeria monocytogenes, およびNeisseria meningitidisに注目して、致死性セルフ・ターゲッティング・スペーサを少なくとも1種類帯びかつAcrを一種類帯びたゲノムを、相同性検索により同定した。そうしたゲノムがN. meningitidisP. aeruginosaおよびL. monocytogenesのNCBI微生物ゲノムデータベースに占める割合はそれぞれ、~6%、>80%、>90%であった。既知のAcrsを帯びていないこうしたゲノムは未発見のAcrsを帯びている可能性がある。
CRISPR-Cas12aに抗するAcrs探索
  • セルフ・ターゲッティング・スペーサを帯びているゲノムが高頻度でAcrsを帯びている傾向があることから、これまでにAcrsが発見されていなかったCRISPR-Cas12aシステムに注目して解析を続けた。STSSからセルフ・ターゲッティングCRISPR-12aシステムが存在することが分かっていたMoraxella bovoculiの4種類の菌株を対象として、Moraxellaゲノムの無細胞タンパク質発現(cell-free transcription-translation、TXTL)実験 を行い、MbCas12の活性を確認し、CRISPRアレイに内在しているMGEs由来候補スペーサー群からの産物のMbCas12阻害性を判定し、3種類のAcrVA を同定し、AcrVA1, AcrVA4およびAcrVA5と命名した
  • crisp_bio注:原論文に、この命名は抗CRISPR (Acr)タンパク質:Cas12a阻害タンパク質を含む12種類を発見紹介論文での命名と相補的、との記述あり)。
  • プラスミドを標的とするin vitro実験により、AcrVA1はMbCas12a, LbCas12aおよびAsCas12aを阻害、AcrVA4とAcrVA5は、MbCas12aとLbCas12aに限り阻害するが、MbCas12aが由来する菌株依存性を示すことを同定し、また3種類いずれもSpCas9を阻害しないことも確認した。
HEK293T細胞で検証
  • 3種類のAcrVAまたはSpyCas9に対するArcであるAcrIIA4をレンチウイルスで形質転換したHEK293Tレポーター細胞において、RNPとして送達したAsCas12a、LbCas12a、MbCas12aまたはSpyCas9によるゲノム編集効率を評価し、in vitro生化学実験結果にほぼ整合する結果を得た。
  • SpyCas9はAcrIIA4でほぼ完全に阻害され、AcrVAでは阻害されず;AcrVA1は3種類のCas12aを阻害(特に、AsCas12aを完全に阻害)、AcrVA4とAcrV5はLbCas12aのみ阻害;RNP送達MbCas12aはAcrVAの阻害判定に可能な編集効率を示さず。