[出典] "Optimized arylomycins are a new class of Gram-negative antibiotics." Smith PA, Koehler MFT [..] Heise CE. Nature. 2018 Sep 12. ;筆頭著者と責任著者とのインタビュー記事"New class of antibiotics discovered" Rikken M. ResearchGate. 2018 Sep 12.

背景
  • 抗生物質の過剰投与と誤使用により広がり続ける抗生物質耐性菌は、今後の医療および農業に向けて、対策・解決が急がれる課題である。特に、治療不可能な多剤耐性菌となった‘ESKAPE’病原菌 (Enterococcus faecium, Staphylococcus aureus, Klebsiella pneumoniae, Acinetobacter baumannii, Pseudomonas aeruginosaならびにEnterobacter species)は、今ここにある脅威である。その中でも、細胞質膜とリポ多糖類の外膜の二重の防護壁を備え、この50年間抗生物質が創出できていないグラム陰性細菌 (大腸菌/Escherichia coli, 肺炎桿菌/K. pneumoniae, 緑膿菌/P. aeruginosaおよびアシネトバクター属菌/A. baumannii)は、より深刻な脅威である。
アリスロマイシン類の抗菌活性
  • アリスロマイシン類はTübingen大学の研究チームがStreptomyces sp. Tü 6075から分離したArylomycins AとBを始めとするビアリール架橋大環状リポペプチドであり、バクテリアのI型シグナルペプチダーゼ (SPase I)を標的とする抗菌活性を帯びている。
  • SPase Iは、細胞膜に輸送されたペプチドからシグナルペプチドを切断し、分泌タンパク質のフォールディングを可能にするバクテリア必須酵素である。しかし、アリスロマイシン類のグラム陰性細菌に対する抗菌活性は芳しく無かった。
グラム陰性菌
  • グラム陰性細菌のSPase (LepB)のシグナルペプチド切断活性部位は、その細胞質膜の外側の面(外膜との間のペリプラスム領域/PERIPLASMIC SPACE)に位置している (下図「グラム陰性細菌の細胞壁の構造」参照)。グラム陰性細菌の細胞壁の構造
    したがって、グラム陰性細菌のアリスロマイシン類に対する耐性は、アイスロマイシン類の外膜透過能が低いこと、また、グラム陰性細菌のSPase Iとの結合親和性が低いことにも起因すると考えられる。
  • Genentechを中心にWuxi AppTec RQx Pharmaceuticalsも加わった研究グループは今回、アリスロマイシンのトリペプチドリングを保存しつつN末端のリポペプチド・テールやフェノール基などを改変することで、1,000種類を超すアリスロマイシン誘導体を作出した。その中で、外膜透過能が高くSPase Iとの結合親和性が強いアリスロマイシン誘導体を発見し、'G0775'とした。
アリスロマイシン誘導体G0775
  • G0775はin vitroで、8種類のグラム陰性細菌 (原論文 Table 1)に対して、最小発育阻止濃度 (MICs) 0.125-2 μg/mlと、アリスロマイシン A-C16の500倍以上の活性を示した。また、E. coliK. pneumonの49 臨床分離株の90%に対してMIC ≤0.25 μg/ml、A. baumanii MDR 16株に対してMICs ≤4 μg/m、P. aeruginosa MDR12株に対してMICs of ≤16 μg/ml を示した。
  • G0775は、E. coli, K. pneumoniae, P. aeruginosaまたはA. bauma大腿実験感染症モデルマウスにて大腿筋肉組織のバクテリア量を低減した。また、K. pneumonの肺感染症モデルマウスにて、肺のバクテリア量を低減し、寿命を伸ばした。
  • G0775の特徴は、反応性部位(warhead)のアミノアセトニトリルが、通常と異なり、SPase Iのセリンではなくリジンと共有結合アミジンを形成する分子機構に拠る。一方で、外膜透過の分子機構について著者らは、ポリン (PORIN) 非依存を示すデータを示し、正電荷の存在が貢献する自己促進型取込み (self-promoted uptake)機構を示唆した。
  • G0775に対する耐性は、低用量でLepBの基質結合部位の変異による耐性が見られたが(頻度10-9)、8-16倍の用量で耐性発生は検出限界未満になった。
  • 今後、大型動物での前臨床試験と臨床試験が必要であるが、今回の実験ではG0775の細胞毒性は見られず、また、ヒトにはセリン/リジン触媒性二分子機構を帯びた酵素が極めて稀である。
アリスロマイシン論文