[出典]"論文:A designed heme-[4Fe-4S] metalloenzyme catalyzes sulfite reduction like the native enzyme" Mirts EN, Petrik ID,  Hosseinzadeh P, Nilges MJ, Lu Y. Science. 2018 Sep 14. "PERSPECTIVE: Revving up an artificial metalloenzyme" Lancaster KM. Science. 2018 Sep 14.


背景

  • 水や土壌を汚染する過塩素酸塩、ヒ酸塩、硝酸塩といった毒性を帯びたオキシアニオン(oxyanion)は、化学的に還元することが困難であり、遷移金属への結合親和性が低い。そこで、生物に倣った人工触媒による過塩素酸塩と硝酸塩の分解が試みられたが、サルファイト (SO32-)の分解が課題として残った。このため、バイオレメディエーションによるオキシアニオン還元は、嫌気呼吸するバイオフィルムを必要とする。
  • 自然界では、サルファイトを還元する酵素として、金属酵素の一種である同化亜硫酸レダクターゼ(sulfite reductase, SiR)が知られている。SiRは、6電子を付加してサルファイトを硫化水素イオン(SH-)へと還元する:SO32- + 6e- + 7H+ SH- + 3H2O
  • SiRでは、ヘム・マクロサイクル (シロヘム)キュバン型の[4Fe-4S] クラスタが、シロヘムの近位リガンドと [4Fe-4S] クラスタ内の1鉄原子のリガンドとして機能するシステイン残基で連結され、[4Fe-4S] クラスタがヘムへの電子伝達を担い、連続的な2電子還元を実現するとされている。
  • ヘム - [4Fe-4S] 補因子はこれまでに二種類合成されたが、いずれも不活性であった。これらのモデルにはSiRの正電荷を帯びた残基が豊富な基質結合ポケットが組み込まれていない。このポケットは、電子伝達と同時に基質との結合と基質のプロトン化を促進し、活性に必須と考えられている。
  • また、これまでに単核または等核の金属結合中心からなる触媒活性を示す人工酵素が実現されてきたが、多電子移動反応と多プロトン移動反応を担うとされる異核遷移金属中心を再現した人工酵素は稀であった。

成果

  • University of Illinois at Urbana-Champaignの研究チームは今回、酵母由来のヘム結合タンパク質シトクロムcペルオキシダーゼ(CcP) のヘムセンター近位に[4Fe-4S]異核クラスターを設計し、金属結合サイトと基質結合サイトにおける第二配位圏 (second coordination sphere)の最適化を経て、SiRの構造エレメントと機能エレメントの模倣を実現した。
  • CcPを選択したのは、小型で安定し、ヘムに近位の面に [4Fe-4S] クラスターを組込むに十分な大きさのキャビティーを帯びていることを発見したからである
  • CcPに内在するヘム-b補因子を帯びた人工酵素が活性を示したことは、天然SiRに内在するシロヘムが、サルファイト還元に必ずしも必須では無いことが示唆する。