[出典] "A Cas9 with PAM recognition for adenine dinucleotides"  Chatterjee P [..] Jakimo N. Nat Commun 2020-05-18. < "A Cas9 with Complete PAM Recognition for Adenine Dinucleotides" Jakimo N,  Chatterjee P, Nip L, Jacobson JM. bioRxiv. 2018-09-27.

2020-05-19更新 Nature Communication論文としての書誌事項を追記; bioRxiv準拠テキストを一部手直し、Nature Communication論文からFigure 1を引用挿入

背景
  • CRISPR-Cas遺伝子編集で最もよく利用されているStreptococcus pyogenes Cas9 (Spy Cas9)のdsDNA切断は、野生型では5'-NGG-3' PAM配列に縛られる。
  • PAMの拡張が、Spy Cas9改変による拡張が試みられてきたが、in vivoにてPAM配列の1つがGであることを必要としている。PAM拡張の観点から、S. pyogenes以外のバクテリア由来のエンドヌクレアーゼの探索も続けられており、Cas12a (Cpf1)がATリッチな領域のdsDNAも高精度で編集可能なことが同定されたが、Cas12aは、一旦標的に結合するとssDNAを非選択的に切断し、予期せざる変異を誘導するリスクを伴っている。
  • ヒトゲノムの多くのATリッチな領域が、現行CRISPR-Casシステムによる遺伝子編集の対象外となっている。
概要
  • MITの研究チームは今回、5'-NAA-3' PAMを認識するエンドヌクレアーゼをStreptococcus macacae NCTC11558  (SmacCas9) から発見し、そのPAM相互作用領域のドメインを、SpCas9 (論文中ではSpyCas9と表記)のドメインを交換したハイブリッドCas9 (SpyMac)が、ゲノム上のアデニンジヌクレオチド (AA) PAM配列を認識し、かつ、ヒト細胞における安定した効率的遺伝子編集を実現することを実証した。
Smac Cas9への絞り込み
  • バイオインフォマティクス:MITの研究チームは、UniProtから抽出したSpy Cas9のホモログ115種類のアライメントから出発し、5'-NAAG-3'を認識するSpyCas9(QQR)変異体の配列や、ファージ由来のスペーサー配列に対応するATリッチなPAM候補配列なども参照し (独自開発した SPAMALOTパイプライン)、SmacCas9に注目するに至った。
  • 実験:Cas9のオーソログの間では、そのPAM相互作用 (PI)ドメインを交換可能である。そこで、Spy dCas9とSmac dCas9のPIドメインを交換したSpy-mac dCas9が認識する5’-NNNNNNNN-3’PAMをPAM-SCANRで判定し、グアニン(G)を含まないPAMを認識することを確認した [Figure 1引用下図参照] (Spy dCas9と他のオーソログとのハイブリットCas9についても評価)。iSpyCas9
SmacCas9とSpyMacのヌクレアーゼ活性
  • In vitroで、5'-NAAN-3'、5’-TAAGXXXX-3’(Xは、A, C, GまたはTに固定)、5’-NBBAA-3’, 5’-NABAB-3’, 5’-NBABA-3’を含むdsDNAで切断活性を確認
  • HEK293T細胞で、5'-NAAN-3' PAMのモデルとなるVEGFA遺伝子座に対して、in vitroと同様に、Spy-mac Cas9が、Smac Cas9よりも高い活性を示し、また、5’-NAAG-3'または5’-CAAN-3’ PAM隣接配列にも活性を示すことを同定した。
  • さらに、R221KとN394Kの2種類の変異を導入することで、indel誘導効率が低かった遺伝子座に対する活性向上を実現し、この変異体を"increased" editing Spy-mac Cas9 (iSpyCas9)と命名した。iSpyCas9は、in vivoで同一遺伝子座に対してAcidaminococcus sp. BV3L6 Cas12 (AsCas12)および Lachnospiraceae bacterium ND2006 Cas12(LbCas12)よりも高活性を示した。
iSpyMacおよびiSpyMac-BE3の性能 (HEK293T細胞にて)
  • iSpyMacによるindel誘導効率はSpyCas9およびSpyMacの20-30%増に至った。
  • また、iSpyMacを組み込んだBE3は、これまでのCBEではC-to-T変換が不可能であったVEGFA遺伝子座の領域で、20%の変換効率を実現した。