[出典] NEWS AND VIEWS "CRISPR tool puts RNA on the record" Beisel C L. Nature. 2018 Oct 3.;論文 "Transcriptional recording by CRISPR spacer acquisition from RNA" Schmidt F, Cherepkova MY,  Platt RJ. Nature. 2018 Oct 3.

概要
  • ETH Zurichの研究チームは、細胞内で進行する転写現象をCRISPRアレイに書き込みかつ読み出し可能とする手法を開発した。CRISPRシステムにおけるスペーサ獲得機構を利用して、細胞内のRNAsを捕らえて短いRNA断片 (スニペット)に分断する。スニペットはCRISPRアレイに送りこまれスペーサとして記録され、ディープシーケンシングで読み出される。
  • 研究チームはこの"CRISPR spacer acquisition-mediated recording of RNA followed by deep sequencing"をRecord-seqと称した。
  • Record-seqにより、大腸菌において、RNAウイルス、任意の配列、酸化ストレスや酸性といった複雑な刺激を、定量可能な転写レコードとして細胞集団に書き込み、かつ読み出し可能なことを実証した。
書き込み
  • 逆転写酵素 (RT)とCas1の融合タンパク質 (RT-Cas1)が細胞内でRNAを直接獲得し、RNAの断片化(スニペット)とDNAへの逆転写を経てCRISPRアレイにスペーサとして「記録」することが知られている (CRISPRメモ_2017/08/10 1. 逆転写酵素(RT)とCRISPR-Casシステムの関係 )。
  • 研究チームは、探索の結果、ヒト腸内菌叢に存在Fusicatenibacter saccharivorans 由来のRT-Cas1とCas2とのタンパク質複合体 (FsRT-Cas1-Cas2)を利用して、RNAのスペーサ化を実現した。
  • スニペットに隣接する配列にはPAMに相当するような特段の特徴が見られなかったが、スニペットの両端にいずれかにアデニンとチミンが高頻度に現れた。
読み出し
  • 新たに獲得したスペーサを帯びたCRISPRアレイを分離することでCRISPRアレイに記録されたスペーサ群の中から新たに獲得されたスペーサに限定したシーケンシングを実行する効率的な読み出し法を開発し、Selective amplification of ExpaNdEd CRISPR arrays (SENECA)と命名した。
  • 「読み出し」により、複雑な細胞現象の分類と記述が可能になり、環境条件に応じた細胞応答を調節する遺伝子群の同定も可能になった。
  • スペーサの集団のパターン (いわば、スペーサ・フィンガープリント)が環境条件 (生育条件)に特有であり、スペーサ・フィンガープリントから環境条件を推定可能である。
  • 毒性のパラコートの用量を変えながら暴露した実験では、Record-seqが、RNA-seqでは検出できなかったパラコートの遷移的暴露を検出を可能にすることを確認した。
課題と展望
  • スペーサ獲得の効率化 (現在は1千万個のバクテリア細胞が必要)、動物細胞と植物細胞での検証、および、読み出し法を拡張し順次CRISPRアレイに組込まれたスペーサ解析から転写事象の時系列解析の実現
  • Record-seqは、多細胞生物における遺伝子発現プロファイルの時空間変動追跡、ヒト腸内など変動する環境や病原感染時における微生物叢の変動解析などへの展開を期待できる。
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