[出典] 論文 "In utero CRISPR-mediated therapeutic editing of metabolic genes" Rossidis AC, Stratigis JD, Chadwick AC, Hartman  HA [..] Musunuru K, Peranteau WH. Nat Methods. 2018 OCt 8.;News & VIew "Towards therapeutic base editing / 一塩基編集 (BE) 療法" Seo H, Kim JS. Nat Med. 2018 Oct 8.

背景
  • 胎児医療は、胎児も新生児や成人と同じように患者として ("The Fetus as a Patient”)医療の対象にする考え方から、胎児に対して薬物投与や外科手術を行う医療である。子宮内での手術に加えて、「子宮を切開して取り出した胎児の腫瘍を摘出し再び胎内に戻し、出産後健やかに成長している」という事例がマスコミで取り上げられた例もある (CNNニュース 2016-10-21)。
  • 胎児の遺伝子'手術'は、出生前または出生直後に重篤な疾病に罹患あるいは死亡に至る遺伝的疾患を出生前に治療する次世代の胎児医療を実現する技術である。
  • 成長中の胎児は遺伝子治療に適した特性を帯びている。胎児は免疫学的に未成熟であり、出生後の遺伝子治療とは対照的に、外来遺伝子に寛容で、外来遺伝子のデリバリーに使用するウイルスベクターに対する免疫応答を示さない。また、胎児のサイズが小さいことから体重あたり高濃度のベクターを処方することが可能であり、加えて、ベクター形質導入の効率も高い。さらに、子宮内遺伝子編集は疾患の発症前に標的遺伝子を操作することが可能なため、胎児医療に最適である。
概要
  • ペンシルバニア大学とChildren’s Hospital of Philadelphia (CHOP)の研究チームは今回、主として一塩基編集(BE3)システムによる胎児遺伝子編集の概念実証実験を行った。
SpCas9とBE3のデリバリー
  • 羊膜嚢の表面近くに位置し肝臓に接続されている卵黄静脈を介して、SpCas9をAAV9ベクターで、Sp-Cas9に基づくBE3をアデノウイルス(Ad)ベクターでマウス胎仔にデリバリーした。AAVベクターは容量が~4.7 kbのため、ヒトに対する毒性はあるがマウスでの概念実証試験としてサイズ~5.1 kbのBE3をAdベクターでデリバーした。いずれの遺伝子編集も主として肝臓と心臓で進行した。
野生型マウスのPcsk9遺伝子編集
  • その機能喪失変異がコレステロールのレベルと冠動脈心疾患のリスクを低減することが知られているPCSK9遺伝子のマウスホモログPcsk9遺伝子のコドンW159を標的とするgRNAとBE3をAdにより (Ad-BE3-Pcsk9)、E16 BALB/c胎仔にデリバーした結果、肝臓特異的に編集が進行し、アレルの10-15%が編集を受けかつ長期間安定して存在し、オフターゲット編集は見られないことを確認した。
  • また、出生後、PCSK9タンパク質と総コレステロールが低減し、肝臓障害の指標であるアラニントランスアミナーゼ (ALT)と肝臓組織に異常が見られないことも、確認した。さらに、出生後マウスのAd-BE3-Pcsk9デリバーの結果と比較し、胎仔遺伝子編集の結果の方がより安定し、AdベクターとBE3に対する免疫応答が弱いことも見出した。
遺伝性高チロシン血症Ⅰ型 (Hereditary Tyrosinemia Type I, HT1) モデルマウス遺伝子治療
  • HT1は、フマリルアセト酢酸ヒドラーゼ(FAH)をコードする遺伝子の欠損によって発症する。チロシン分解系でFAHの上位に位置するHPDをニチシノンで阻害すると毒性の代謝物の蓄積と致死肝不全が防止される。
  • はじめにE16野生型胎仔に、マウスHpd遺伝子のコドンQ352を標的とするgRNAとBE3をAdでデリバーし (Ad-BE3-Hpd)、2週齢で肝臓特異的に〜15%の効率で遺伝子編集が進行することを確認した。次に、Fah/マウス胎仔にAd-BE3-Hpdをデリバリーしておくことで、出生後、HPD陽性細胞が減少し、生存期間が延び、肝臓の機能が改善されることを確認した。