[出典] News "Cas12 inhibitors join the anti-CRISPR family" Mao S. Science. 2018 Oct 12
Perspective "Anti-CRISPRs on the march" Koonin EV, Makarova KS. Science. 2018 Oct 12.

ウイルスとアーケア/バクテリアの軍拡競争
  • ウイルスなどの可動遺伝因子 (MGEs)は全ての細胞性生物に遍在し、進化とは、果てしなく続く寄生生物と宿主生物の軍拡競争である。細胞性生物のほとんどが寄生生物に抗する多様で階層的な防衛システムを備えているが、獲得免疫機構がおそらく最も巧妙で効果的かつ特異的な防衛システムである。
  • バクテリアの3分の1とアーケアのほとんどはCRISPR-Casシステムを介した獲得免疫機構を備えている。すなわち、これらの原核生物はそのゲノム上のCRISPRアレイにウイルスゲノム断片を取り込み (adaptation)、その後、取り込まれた断片 (スペーサ)からの転写物を利用して、同族のウイルスを認識し分解する (interference)。
  • これに対して変異速度の速いウイルスは、ゲノム配列変異を介してCRISPR-Casシステムを回避可能であるが、宿主もウイルスゲノムの変異に適応し続けることから、ウイルスは、宿主の獲得免疫応答に対して能動的に抵抗する仕組み、特にCRISPRタンパク質 (anti-CRISPR proteins, Acrs)、も備えてきた。Science誌にて今回(オンライン版 2018年9月8日、冊子版2018年10月12日号)、新たなAcrsを発見した論文2報が刊行された。
CRISPR-Casシステムの分類体系に対応するAcrs
  • CRISPR-Casシステムは現在、2クラス/6タイプ/25サブタイプに分類されている (Koonin EV, Makarova KS, Zhang Fによるレビュー、Curr Opin Microbiol. 2017)。このタイプとサブタイプの分類は、主として、CRISPR-Casシステムによる標的核酸の認識と切断 (interference)に関与するタンパク質の構成と構造に依存する。これに対して、これまでに同定されたCRISPR-Casシステムに対抗する多様なAcrsは、CRISPR-Casサブタイプさらにはより細かな分類に特異的のように見える。MarinoらとWattersらは今回、サブタイプ I-CとV-Aに抗する新奇Acrsを同定した。サブタイプ V-AエフェクターCas12a (Cpf1)に対するAcrsは特に興味深い。Cas12aが独特な構造をとり、また、ゲノム編集ツールとして利用が拡大しているからである。
Acrsの同定法(出典PerspectiveのSupplementary MaterialFig. S1参照)
  • Acrsの発見は、Pseudomonas バクテリオファージ (バクテリア感染ウイルス)が、バクテリアゲノムのCRISPRアレイに組み込まれていた同ファージ由来のスペーサを介して宿主から攻撃される ("self-targeting")にも拘わらず、プロファージとして宿主内に存在し続ける現象の分子機序の解明から始まった。こうして、プロファージ配列から推定されるCRISPR-Casを無力化するタンパク質Acrsの存在が実験的に確認されたのに続き、ウイルスゲノムには多重なacr遺伝子からなるクラスターが形成されていることが明らかになってきた。Acrsの配列はほとんど保存されていないが、このacr遺伝子クラスターに保存性の高い配列が隣接していることも明らかになった。
  • Acrsの間で保存性が高い遺伝子は、ヘリックスターンヘリックス (HTH) DNA結合ドメインを帯びたタンパク質をコードし、acr遺伝子発現を調節していることが示唆された。このAcr-associated (aca)遺伝子を着目して"連座の誤謬/guilt by association"の論理に基づくAcrs探索が進んだ。今回の2論文もこの手法に基づいている。
タイプV CRISPR-Casに対するAcrs同定
  • Moraxella bovoculi由来のMGEsから30ファミリーを超えるAcrsが推定されたが、これらは多様なバクテリア/アーケアウイルス・ゲノムにもコードされており、CRISPR-Casの2つのクラス、3タイプおよび7サブタイプに対する耐性を担っていた。また、これらのArcsの配列と構造は、宿主との間の軍拡競争を反映して、極めて多様であり、遺伝子クラスタを形成していることと比較的サイズが小さい (50 - 150アミノ酸)ことを除いて共通するところが無かった。
Arcsの作用機序
  • Arcsは全てCRISPR-Casエフェクターに結合することで獲得免疫機構を無力化するが、Arcsが結合するエフェクターのサイトあるいはサブタイプはそれぞれに特異的である。
Arcsの行進
  • Arcsの探索は始まったばかりであり、バクテリアのクラス1と2の多様なCRISPR-Casシステムとほとんど全てにCRISPR-Casシステムが存在するアーケアなど、バクテリアとアーケアのゲノムには膨大かつ多様なのArcsがコードされていることは間違いない。事実、アーケアCRISPR-Casシステムに抗するanti–type I-D Acr (AcrID1)ファミリーにはアーケア・ウイルスのゲノムをコードする50種類を超えるメンバーが分類されている (Nat Microbiol, 2018)。
Acrsへの疑問
  • Acrsの祖先は? (例えば、前述したようにAcrs相互の配列相同性は低く、これまでに解かれたAcrタンパク質の構造はそれぞれに独特な折り畳みを帯びている);ウイルス以外のMGEsに存在するか?;アーケアとバクテリアにanti-Acrsは存在するか?;獲得免疫機構のなかのinterferenceではなくadaptationを阻害するAcrsは存在するか?;ArcsをCRISPR技術に基づくゲノム編集の調節因子として利用可能か?
Perspectiveがハイライトした2論文/crisp_bio記事