1. SpCas9-HF1CORRECT法によるニワトリゲノムの精密編集
[出典] "High fidelity CRISPR/Cas9 increases precise monoallelic and biallelic editing events in primordial germ cells" Idoko-Akoh A, Taylor L, Sang HM, McGrew MJ. Sci Rep. 2018 Oct 11;8(1):15126.
  • 鳥類の精密ゲノム編集はその他の哺乳類から遅れをとっていた。エディンバラ大学の研究チームは今回、SpCas9-HF1とssODNをLipofectamine 2000 試薬を利用して始原生殖細胞 (Primordial germ cells, PGCs)にトランスフェクションすることで、FGF20遺伝子への単一アレル点変異または両アレル点変異を誘導し、ホモ型変異およびヘテロ型変異のクローン細胞集団の生成を実現した。
  • CRISPR/Cas9とssODNの組み合わせにより、Cas9によるDSBが相同組み換え修復(HDR)の過程であるDNA合成依存的単鎖 DNA アニーリング (synthesis-dependent single-strand annealing: SDSA)過程によって修復されるが、Cas9の再切断活性により標的部位にINDELsが発生するリスクがある。
  • 今回、SpCas9-HF1を利用し、かつ、CORRECT法 (CRISPR関連文献メモ_2016/05/04 1. CRISPR/Cas9による選択的ホモ変異とヘテロ変異の効率的誘発法“CORRECT”;Nature, 2016)に準じて、gRNAにCas9再切断を阻害する変異を導入することで、高効率で高精度なHDRを実現した。
  • FGF20を標的とする野生型および3種類の変異型ssODNの配列と、各ssODNおよびその組み合わせによる編集結果を、原論文のFig. 5とTable 1-3から引用し以下に掲載した(野生型SpCas9のデータも含む)。
Avian PGC 1 Avian PGC 1
2. [特許] PAM改変CRISPR-CAS9ヌクレアーゼ
3. ゲノムワイドCRISPRaスクリーンにより、ヒト細胞において、ノロウイルス増殖阻害宿主因子を同定
[出典]"Identification of anti-norovirus genes in human cells using genome-wide CRISPR activation screening" Orchard RC, Sullender ME, Dunlap BF, Balce DR, Doench JG, Virgin HW.  J Virol. 2018 Oct 10. (bioRxiv. 2018-06-18)
  • In vitro培養が困難であり、モデル動物も存在しないため、胃腸炎の主因であるヒトノロウイルス の理解が進んでいない。Washington University School of MedicineとBroad Inst.の研究チームは、培養細胞とマウスで複製可能なマウスノロウイルスをモデルとして、CRISPRaゲノムワイドスクリーンにより、ヒト細胞においてノロウイルスの増殖を阻害する宿主因子遺伝子を49種類同定した。そのいくつかはインターフェロンや免疫調節のパスウエイに関与する遺伝子であったが、ほとんどはこれまで抗ウイルス性が知られていなかった遺伝子であった。
4. CRISPR/Cas9 RNP複合体の"gesicle"送達で、HIVプロウイルスを不活性化
[出典] "Gesicle-Mediated delivery of CRISPR/Cas9 Ribonucleoprotein Complex for Inactivating the HIV Provirus" Campbell LA, Coke LM, Richie CT, Fortuno LV, Park AY, Harvey BK. Mol Ther. 2018 Oct 11.
  • Cas9-sgRNA RNPを水胞性口炎ウイルス (Vesicular stomatitis virus)糖タンパク質を基にしたエクソソーム様小胞で送達する"gesicle"によるHEK293FT細胞でのCas9発現を、ナノ粒子トラッキングとウェスタンブロッティングによって検証
  • CHME-5ミクログリア細胞に"gesicle"を適用しウエスタンブロッティングによりCas9の一時的発現を確認(24時間後非検出に)。
  • HIV LTRを標的とする"gesicle"をHIV-NanoLuc CHME-5細胞に適用し、LTR領域に変異とコピー数低減し、プロウイルス活性低下を実現
5. CMGE: CRISPR-Cas9による効率的な酵母の多重ゲノム編集/CRISPR–Cas9-assisted multiplex genome editing 
[出典] "Efficient CRISPR–Cas9 mediated multiplex genome editing in yeasts" Wang L, Deng A [..] Wen T. Biotechnol Biofuels. 2018 Oct 10
  • 耐熱性メチル栄養細菌Ogataea polymorphaの多重遺伝子ノックアウト、多重遺伝子座 (ML)および多重コピー (MC)挿入を実現
  • CMGE-ML:レスベラトロール 生合成経路の3遺伝子 (Herpetosiphon aurantiacusTALArabidopsis thaliana4CLおよび Vitis viniferaSTS)を、同時に3種類の遺伝子座に挿入し、レスベラトロール産生を実現
  • CMGE-MC:PScTEF1-TAL-PScTPI1-4CL-PScTEF2-STS発現融合カセットを〜10コピーを導入し、1コピーの場合の産生量を20倍に;HSAcadAを導入し、それぞれヒト血清アルブミンとカダベリンの生合成も実現;S. cerevisiaeでも有用
6. 化合物のオフターゲット作用が、CRISPR/Cas9ノックアウトで、明らかになる
[出典] "The arginase inhibitor Nω-hydroxy-nor-arginine (nor-NOHA) induces apoptosis in leukemic cells specifically under hypoxic conditions but CRISPR/Cas9 excludes arginase 2 (ARG2) as the functional target" Ng KP [..] Ong ST. PLoS One. 2018 Oct 11.
  • シンガポールの研究グループは、先行研究で、尿素回路の酵素であるアルギナーゼ2 (ARG2)が、慢性骨髄性白血病 (CML)で特異的に過剰発現していることを見出していた。ARG2は、低酸素誘導因子 (HIF1-αとHIF2-α)の標的であり、細胞成長因子ポリアミン生成に必要とされる。研究グループは今回、アルギナーゼ阻害剤Nω-hydroxy-nor-Arginine (nor-NOHA)がARG2を発現している白血病細胞に、低酸素状態で細胞死を誘導し、正常細胞状態では細胞死を誘導しないことを見出した。また、nor-NOHAによって、低酸素状態を介したBCR-ABL1キナーゼに対する白血病細胞の耐性を克服可能であることを見出した。
  • しかし、想定外にも、CRISPR/Cas9によるARG2ノックアウトは、白血病細胞を細胞死に誘導することはなく、また、nor-NOHAに対する感受性にも影響を与えなかった。すなわち、nor-NOHAの低酸素状態のARG2発現白血病に対する細胞死は、想定と異なる「オフターゲット作用」であることが示された。Nor-NOHAの利用にあたっては、その生物活性を注意深く評価する必要がある。
7. [レビュー]アルツハイマー病研究にCRISPR/Cas9遺伝子編集技術を
[出典] "Vigour of CRISPR/Cas9 Gene Editing in Alzheimer’s Disease" Paul J. J Neurosci Neurol Disord. 2018 Oct 5.
  • βアミロイド仮説に沿った臨床試験に成果が見られない中、早期発症型アルツハイマー病と遅発型アルツハイマー病と相関する遺伝子のCRISPR/Cas9による解析に期待する。
8. バイオセキュリティの観点からRNA研究とCRISPR遺伝子ドライブの規制を考える
[出典]"Regulating RNA Research and CRISPR Gene Drives to Combat Biosecurity Threats" Faunce T, Ray A, Gardiner C, Preiss T, Burgio G. J Law Med. 2018 Oct;26(1):208-213.
  • 気候変動に伴うマラリア感染の広がりに見られるようなバイオセキュリティーの脅威に対処する技術を対象とする民主的議論が必要