[出典] 論文"Programmed DNA destruction by miniature CRISPR-Cas14 enzymes" Harrington LB, Burstein D [..] Doudna JA. Science 2018 Oct 18.;ニュース "Smallest life forms have smallest working CRISPR system" Sanders R. Berkeley News. 2018 Oct 18.

要約
  • 共生アーケアの一群DPANNゲノムからCas14ファミリーを発見
  • いずれもサイズは400 - 700残基とこれまでで最小
  • crRNAの標的DNAに結合後、細胞内の全てのssDNAを切断:治療には不都合、診断には最適
  • 先行研究で開発したDETECTRシステムに応用し、高精度なSNPジェノタイピングを実証
メタゲノムからのCas14ファミリー同定
  • クラス2 CRISPR-Casシステムは、100-200 kDaの単一のヌクレアーゼがRNAに誘導されてDNAまたはRNAを切断する。よりシンプルでより小型のタイプ2 Casをテラ (tera)ベースの規模のメタゲノムデータセットから探索。
  • CRISPRアレイおよび普遍的なCRISPRインテグラーゼであるcas1の近位に位置する機能未同定の遺伝子を検索し、cas1, cas2, cas4に加えて、40-70 kDaのポリペプチドをコードする新規遺伝子を同定しcas14と命名。
  • 当初、24種類のcas14を同定し配列比較からca14-a (6種類)、-b (2種類)および-c(16種類)に分類。全てにDNAを標的とするタイプV CRISPR-Casタンパク質の特徴であるRucCヌクレアーゼドメインが存在
  • Cas14タンパク質残基数は~400-700 aaであり、クラス2の他のCasタンパク質 (950-1,400 aa)のおおよそ半分の大きさ:SpCas9 1,368 aa; FnCas12a 1,300 aa, CasY* 1,200, CasX* 980, Cas14a 530 aa:(*) CRISPR関連文献メモ_2016/12/27 1. 未だ分離培養されていない環境微生物からCas9に加えて新規Cas、CRISPR-CasXとCRISPR-CasY、を発見
  • Cas14ファミリーのほとんどが、細胞とゲノムが小型であることが特徴の一つである共生アーケアのDPANN群  (superphylum)に属し、コロラドにある有毒廃棄物処理施設の地下水から分離されたサンプル由来
  • クラス2タイプVタンパク質一覧 (Cas12aからみて進化系統樹上近い順):Cas12a (Cpf1), Cas12e (CasX), Cas12d(CasY), Cas12c (C2C3), Cas12b (C2c1), Cas14a, Cas14c, Cas14b
Cas14の活性検証 - 配列解析
  • メタゲノムから再構成したCRISPRアレイがCas14ファミリー内で多様であり、adaptation (外来核酸取り込み)機構の存在を示唆
  • CRISPR-Cas14遺伝子座から生成されるRNAの存在を、環境メタトランスクリプトミクス・シーケンシングデータにおいて確認 (crRAN相当)
  • さらに、大量のノンコーディングRNAがCRISPRアレイとcas14aの間の~130 bp配列にマップされ、かつ、その転写物の3'末端がcrRNAの繰り返し配列と相補的 (Cas9, Cas12bおよびCas12eシステムで見られるtracrRNA相当)であることを発見、ただし、crRNAsとtracrRNAsの成熟化をもたらすRNase IIIは存在せず
Cas14の活性検証 - 実験解析
  • E. coliにCas14遺伝子、CRISPRアレイ、およびtracrRNA相当の配列からなるCRISPR-14a遺伝子座を帯びたプラスミドを導入し、crRNAとtracrRNAの存在を確認
  • E. coliに、Cas14アレイにマッチするdsDNAにPAMとしてランダム化した配列を接続したプラスミドを導入しCas14aによる切断実験を行なったがPAM配列は欠損せず
  • 精製したCas14a-tracrRNA-crRNAシステムのssDNA、dsDNAおよびssRNAに対する切断活性をin vitroで検証し、tracrRNAおよびcrRNA (またはsgRNA)の存在下で、ssDNAのみを、crRNAと標的DNAのヘテロ二重体(相補的領域)の外で切断することを発見
  • In vivo実験ではdsDNA PAMを同定できなかったが、in vitroでの補充実験からPAM配列は不要と結論
Cas14aの非選択的ssDNA切断活性を検証
  • In vitro: Cas14a-tracrRNA-crRNAおよびcrRNAと相補的なssDNA (Cas14a活性化DNA)と、crRNAららびにCas14a活性化DNAとは相補的でない配列を帯びたM13バクテリオファージssDNAとを共培養したところ、M13バクテリオファージssDNAが急速に断片化された。一方で、RuvC活性部位に変異を入れたCas14aはこの活性を示さなかった。
  • In vivo: E. coliではCas14aは ΦX174バクテリオファージssDNAに対する切断活性を示さず、野生型アーケアとE. coliの細胞内環境の違いがCas14aの活性に影響することが示唆された。
診断への応用
  • 色素でラベルした基質 (fluorophore-quencher(FQ)アッセイ用基質)を利用して、Cas14aの標的となるssDNA (Cas14a活性化DNA)が存在下でのみ、FQ基質の切断(Cas14aによるトランス切断)を介した蛍光が見られ、また、FQ基質が長いほど (5 nt ~ 12 ntの範囲)応答が早く蛍光強度が強いことが明らかになった。
  • 次に、標的ssDNAに、crRNAとの2-ntミスマッチを網羅的に挿入し切断活性を測定し、標的ssDNAの中央付近 (全長20-ntの9-10, 11-12, 13-14)のミスマッチによって切断活性が顕著に抑制されることを見出した。すなわち、Cas14aには、PAMに替えて、標的領域の内部に存在する'seed'配列による縛りが存在した。
  • また、確固とした二次構造を帯びた、あるいは、短縮された標的ssDNAの場合、トランス切断が減少さらには非検出に至った。
  • 研究チームは先行研究で、Cas12aに基づいて高感度な核酸検出システムDETECTR**を開発していたが、'seed'配列の縛りがあるCas14aを利用するCas14-DETECTRを構築し、より高精度なssDNA検出が可能なことを、目の色と相関するSNPを帯びたヒトHERC2遺伝子をモデルとして、実証した。: (**) 2018-02-23 CRISPRによる核酸検出・診断(DETECTRとSHERLOCK);2018-04-27 CRISPR技術による次世代診断ツール開発:「展望」とMammoth Biosciencesの登場
Cas14ファミリーの多様性
  • 研究チームは、メタゲノムデータセットからCas14a-cに加えて、さらに20種類のCas14を種々の難培養性微生物から同定し、Cas14-dから-h までの5種類に分類した。この中で、cas12bと関連性があるcas14gを除いて、cas14様遺伝子は、タイプV Casの系統樹内で異なるクラスター(クレイド)に別れたことから、Cas14ファミリーは、共通祖先 (トランスポゾン相関タンパク質 TnpB)から互いに独立に進化したことが示唆された。なお、クラスターを形成しない8種類のCas14シスムも今回同定した (Cas14uと命名)。
トランス切断を利用した診断システム解説YouTube (2分47秒)