[出典] "Orthogonal Cas9–Cas9 chimeras provide a versatile platform for genome editing" Bolukbasi MF, Liu P, Luk K, Kwok SF, Gupta A, Amrani N, Sontheimer EJ, Zhu LZ, Wolfe SA. Nat Commun. 2018-11-19.
  • UMass Medical SchoolのScot A. Wolfeのグループは2015年に(*)、PAM結合親和性を低下させる変異を導入したSpCas9(MT)のC末端に、PAM配列の下流の配列を標的とするプログラム可能なDNA結合ドメインp-DBD(具体的にはZFN)を融合するSpCas9-pDBDシステム(キメラ・システム)を構築し、野生型(WT)SpCas9から標的可能範囲を大幅に拡げかつオフターゲット編集を抑制可能なことを示した。また、その分子機構モデルとして、pDBDのDNA結合、SpCas9-sgRNAのPAM認識、続いて、sgRNAを介して標的配列への結合を介した三段階のプロセスを提唱した (原論文 Figure 5-e参照 ):(*) "DNA-binding-domain fusions enhance the targeting range and precision of Cas9" Bolukbasi MF, Gupta A, Oikemus S, Derr AG, Garber M, Brodsky MH, Zhu LJ, Wolfe SA. Nat Methods. 2015 Dec;12(12):1150-6. Online 2015-10-19.
  • グループは今回、pDBDを、SpCas9(MT)にオーソゴナルなCas9タンパク質に差し替えるCas9-dCas9/Cas9キメラ・システムを開発し、評価した。
  • 具体的には、SpCas9(MT)とdSaCas9またはdNmCas9を融合するシングル・ヌクレアーゼの形式(SpCas9(MT)-dNmCas9について原論文Fig.1 引用下図のaを参照)と、SpCas9(MT)とSaCas9またはNmCas9を融合するデュアル・ヌクレアーゼの形式の2種類について、GFPレポーターや内在遺伝子座を利用して評価した。Cas9-Cas9
  • その結果、SpCas9(MT)-dNm/SaCas9の融合システムが、SpCas9-pDBDsで達成した効率と精度に匹敵する性能を示すこと、一般に2つのヌクレアーゼを組み合わせると両者の切断部位の中間の領域が欠失するが、SpCas9(MT)-Nm/SaCas9のデュアルヌクレアーゼシステムは、互いに独立なSpCas9(WT)とNm/SaCas9を組み合わせたシステムを上回る制度で精度で、標的領域欠失を実現可能なことを示した。
  • さらに、Cas9-Cas9キメラシステムにより、βサラセミアや鎌状赤血球症の治療法として有効とされている成人での胎児型γグロビンの発現亢進に利用可能なことを示した。すなわち、胎児型グロブリン遺伝子発現の抑制因子であるBCL11A遺伝子の造血細胞系譜特異的なエンハンサー (+58 kb)内のGATA1結合モチーフを高効率・高精度で欠失可能なことを示した。
  • [参考論文] CRISPR-Cas9を介したBCL11Aエンハンサーのin situ飽和変異導入実験:"BCL11A enhancer dissection by Cas9-mediated in situ saturating mutagenesis" Canver MC, Smith EC, Sher F, Pinello L, Sanjana NE [..] Zhang F, Orkin SH, Bauer DE. Nature. 2015 Nov 12;527(7577):192-7.