1. タイプIII-A CRISPR-Cas Csm複合体の特徴的な活性の構造基盤
[出典] "Type III-A CRISPR-Cas Csm Complexes: Assembly, Periodic RNA Cleavage, DNase Activity Regulation, and Autoimmunity" Jia N, Mo CY, Wang C, Eng ET, Marraffini LA, Patel DJ. Mol Cell. 2018-11-29

構造データ (2018-12-03時点公開待ち)
  • EMDB-9256/PDB-6MUU (Csm1121324151crRNA)
  • EMDB-9253/PDB-6MUR  (Csm1121324151crRNA-target RNA ternary complex)
  • EMDB-9254/PDB-6MUS  (Csm1122334151crRNA-target RNA ternary complex)
  • EMDB-9255/PDB-6MUT  (Csm1121324151crRNA-target RNAanti-tag ternary complex)
  • PDB-6MUA  (Csm1-Csm4 subcomplex)
タイプIII CRISPR-Casイントロダクション
  • クラス1に属し、タイプΙΙΙ-A (サブユニットCas10とCsm2 ~ Csm5からなるCsm複合体とcrRNA) とΙΙΙ-B(サブユニットCas10とCmr2 ~ Cmr6からなるCmr複合体とcrRNA) に分類される。
  • タイプIエフェクターと異なり、RNAとssDNAの双方を標的とする:エフェクター複合体のCsmまたはCmrが、Csm3またはCmr4ドメインの触媒活性を介して標的RNAを6-ntの長さに分解する;標的RNAへの結合により、Csm1またはCmr2ドメインのHDモジュールのヌクレアーゼ活性に基づき転写に共役する過程を介してssDNAを切断する。
  • タイプI CRISPR-CasシステムがPAMsに基づいて自己と非自己を識別するのに対してタイプIIIシステムは、5'-反復タグとも呼ばれるcrRNAのRNAスペーサに隣接する5'末端反復配列 (8-ntヌクレオチド)と、アンチ・タグ (5'-反復タグに相補的な標的RNAの3'末隣接配列)間の塩基対合ポテンシャルに基づいて識別するとされている。
  • クラス1の中で、タイプ Ι システムについては高分解能の構造が解かれ、タイプIIIシステムCmrの構造もX線結晶構造解析やクライオ電顕法により高分解能な構造が解かれてきた。Cmsについてはネガティブ染色電顕法による ∼20 Å分解能の構造しか得られていなかった。
  • クラス1の中で、タイプ Ι システムについては高分解能の構造が解かれ、タイプIIIシステムCmrの構造もX線結晶構造解析やクライオ電顕法により高分解能な構造がとかれてきたが、Cmsについてはネガティブ染色電顕法による ∼20 Å分解能の構造しか得られていなかった 。
  • [crisp_bio注] bioRxiv 2018-10-26に、X線結晶解析とクライオ電顕法による5.2 Å分解能構造の投稿あり; 以下(*)に、crip_bio記事*再掲
  • Csm関連crisp_bio記事
    • (*) CRISPRメモ_2018/10/26- 1. Staphylococcus epidermidis由来タイプⅢ-A CRISPR Cas10-Csmのサブ複合体構造およびcrRNA結合状態の構造を、X線結晶解析とクライオ電顕法 (5.2 Å分解能)で決定:[出典] "Structural Organization of a Type III-A CRISPR Effector Subcomplex Determined by X-ray Crystallography and Cryo-EM" Dorsey BW, Huang L, Mondragón A. bioRxiv. 2018 Oct 24.サブ複合体Csm2とCsm3の結晶構造を決定し、単粒子クライオ電顕法により、crRNAを含むエフェクター・サブ複合体の構造を5.2 Å分解能で再構成し、標的認識から切断に至る分子機構に加えて、エフェクター構成に必須の分子間相互作用を論じた (下図はbioRxiv Figure 1から改めて引用したS. epidermidis CRISPR-Cas遺伝子座の構成Csm
      CRISPR array-Cas1-Cas2-Cas10-Csm2-Csm3-Csm4-Csm5-Csm6-Cas6
      )
    • CRISRP_2018/07/31 - 3. タイプIII CRISPRのセカンドメッセンジャーを介したウイルスRNAの非選択分解のオフ・スイッチを同定 (注: Sulfolobus solfataricus; サイクリックオリゴアデニル酸(cOA))
    • CRISPRメモ_2018/01/08 - 8. タイプIII CRISPR-Cas10システムの構造と可能性
    • CRISPR関連文献メモ_2016/02/06 1. [論文] Ⅲ型CRISPR/Casによる免疫の分子機構:Luciano A. Marraffini (Rockefeller U.) 
    • 2017-04-14 タイプⅢ-A CRISPR/Cas獲得免疫の分子機構
クライオ電顕法による構造再構成
  • MSKCC、南方科技大学、Rockefeller UおよびNew York Structural Biology Centerの研究チームは今回、Thermococcus onnurineus由来Csmについて、 Csm-crRNA二者複合体と、二者複合体に標的RNAが結合した複合体、およびアンチ・タグまで結合した三者複合体の構造をクライオ電顕法により、それぞれ、3.0 Å、3.1 Åおよび3.1 Åの分解能で再構成した。
  • TooCsm複合体構成:CRISPR array-Cas6-Csm1-Csm2-Csm3-Csm4-Csm5-Csm6-CRISPR array
  • この結果、Cas10 (ここからCsm1と表記)とCsm2~Csm5の5種類のタンパク質がcrRNAとからみあったヘリックスのコンフォメーション形成、5'-反復タグのトポロジーによる自己と非自己の識別、Csm1内のGluリッチな自己抑制ループを介したHDドメインによる転写共役DNase切断活性の調節、の構造基盤が明らかに
2. タイプ III CRISPR-Cas獲得免疫機構におけるCas10による自己と非自己の識別
[出典] "Dynamics of Cas10 Govern Discrimination between Self and Non-self in Type III CRISPR-Cas Immunity" Wang L, Mo CY, Wasserman MR, Rostøl JT,  Marraffini LA, Liu S.  Mol Cell. 2018-11-29. bioRxiv 2018-07-20.
  • タイプIII CRISPR-Casは、crRNAに相補的な標的RNAを認識して、侵入転写物RNAとそのテンプレートであったDNAの双方を分解する。一方で、タイプIII CRISPR-Casは多重変異を帯びた外来標的も分解するが、標的宿主ゲノムを損傷することはない。
  • Rockefeller Uの研究チームは今回、一分子FRET計測・蛍光顕微鏡観察によりタイプIII-A RNPと様々なRNA基質の間の相互作用を分析した。
  • その結果、Csm複合体のDNaseエフェクター・サブユニットであるCas10 (Csm1)のコンフォメーションが、自己RNA上と外来RNA上では大きく異なることを見出した (モデル原論文 Figure 7 参照):自己RNA上では安定した非活性化状態のコンフォメーションに固定され、宿主ゲノムからの転写物は分解されるが宿主ゲノムは損傷されない;外来RNAはCas10のコンフォメーションを精妙にアロステリック制御しCas10は高速なコンフォメーション変化を繰り返して活性化に至る。また、このコンフォメーションのダイナミクスは標的に誘発された変異に依存する。
3. CRISPR-Csm複合体の標的RNA結合に共役するDNA切断活性とセカンドメッセンジャーであるサイクリックオリゴアデニル酸(cOA)合成の構造基盤
[出典] "Structure Studies of the CRISPR-Csm Complex Reveal Mechanism of Co-transcriptional Interference" You L, Ma J, Wang J, Artamonova D, Wang M, Liu L, Xiang H, Severinov K, Zhang X, Wang  Y. Cell. 2018-11-29.

構造データ (2018-12-03時点公開待ち)
  • PDB-6IFN  SthCsm binary complex
  • EMD-9654/PDB-6IFL SthCsm-NTR complex
  • EMD-9658/PDB-6IFY SthCsm-CTR1 complex
  • EMD-9657/PDB-6IFU SthCsm-CTR2-bubbled DNA complex
  • EMD-9659/PDB-6IFZ SthCsm-CTR2-ssDNA complex
  • EMD-9653/PDB-6IFK SthCsm-CTR1-AMPPNP complex
  • EMD-9660/PDB-6IG0 SthCsm-CTR1-ATP complex
  • EMD-9656/PDB-6IFR SthCsm-NTR-ATP complex
  • [略号] NTR (non-cognate target RNA); CTR (cognate target RNA)
概要
  • Streptococcus thermophilus由来Csm (SthCsm)について、crRNAが結合した複合体構造ならびに、NTRまたはCTRが結合した複合体構造をクライオ電顕法で~3 Å分解能で再構成し、標的RNAの結合がアロステリック作用を介してssDNA切断とcOA合成を活性化すると推定し、タイプIII CRISPRシステムの標的RNA切断標的RNA切断を介したssDNA切断 (コラテラル活性)とcOA合成、cOAとCsm6を介したssRNA切断のモデル提唱 (原論文とFigure 7 参照) 
  • SthCsm複合体構成:Cas1-Cas2-CRISPR array-Cas6-Csm1-Csm2-Csm3-Csm4-Csm5-Csm6