[出典] "Noncoding regions are the main source of targetable tumor-specific antigens" Laumont CM, Vincent K [..] Thibault P, Perreault C. Sci Transl Med. 2018-12-05

概要
  • 癌抗原 (腫瘍特異的抗原; Tumor-specific antigens, TSAs)は癌免疫療法の格好の標的であるが、これまでに同定されたTSAsは僅かである。モントリオール大学の研究チームは今回、プロテオゲノミクス (YouTube日本語字幕付き) (proteogenomic Wikipedia引用下図参照)の手法により、proteogenomics
    マウス細胞株とヒト初代細胞においてノンコーディング領域に由来するTSAsを多数同定し、マウスにおいて、今回同定したTSAsを標的とするワクチンが白血病の治療と予防をもたらすことを示した。
背景
  • CD8陽性腫瘍浸潤リンパ球 (tumor infiltrating lymphocyte, TILs)は一般にネオ抗原(腫瘍に特異的な変異を帯びた抗原;  mutated tumor-specific antigens, 以下mTSAs)を認識するとされているが、TILsの一部は、変異を帯びていないが癌細胞に特異的に異常発現する抗原 (aberrantly expressed TSAs, 以下aeTSAs)を認識する。
  • これまでTSAs同定は専ら、腫瘍細胞のエクソーム・シーケンシングから腫瘍特異的変異を同定しMHC結合を予測するreverse immunology の手法に基づくmTSAs同定であった。しかし、この手法による推定mTSAsの偽陽性率が90%にもおよびまた偽陽性率を低減する手法を経て得られるmTSAsは極めて少数に止まっていた。
  • 一方で、適切なハイスループット検出法が存在せず探索が進んでいなかったaeTSAsには、腫瘍型特異性が高いmTSAsに対して、腫瘍型共通性が高いことを期待できる。また、エクソームはゲノムの2%に止まりゲノムの75%が転写・翻訳され、癌変異の99%がノンコーディング領域で同定され、ノンコーディング領域から多数のMHCペプチドが翻訳され、その一部がTILsと自己反応性T細胞の標的であることが報告されている。
マウス細胞株とマウス免疫 (樹状細胞ワクチン)
  • 研究チームは、RNA-seq、LC-MC/MSおよびデータ蓄積・解析に基づくプロテオゲノミクスのワークフローを開発し(原論文Fig. 1参照)、大腸癌細胞株CT26とマウスリンパ腫・Tリンパ球様EL4細胞株の2種類のマウス癌細胞株においてmTSAsに加えてaeTSAsを探索した。
  • マウス細胞株からmTSAs6種類とaeTSAs11種類を発見し、そのうちEL4細胞由来の抗原でパルスした樹状細胞でC57BL/6マウスを2回免疫し、抗原依存で150日生存率が10%から100%に至り、また、新たなEL4細胞に対する抵抗性が付与されることを見出した。また、このTSAワクチンがもたらす抗腫瘍性応答は、TSAs発現量と免疫前レパトアにおけるTSA応答T細胞の頻度の2種類のパラメーターに依存することも見出した。
ヒト初代細胞の結果を加えたTSAsランドスケープ
  • マウス細胞株に続いて、ヒトについても、エクソン変異が極めて少数のB-ALL初代細胞4種類と肺癌由来初代細胞3種類から、2種類のmTSAsに加えて、20種類のaeTSAsを同定した。
  • 以上、マウスとヒトの39 TSAsのうちタンパク質コーディング領域由来は4種類であった。一方で、2種類がコーディング・エクソンのアウト・オブ・フレーム翻訳由来、33種類がノンコーディング領域由来であり、そのほとんどに変異は見られなかった。すなわち、今回見出したTSAsの90%がこれまでのエクソームの変異に注目したmTSAs探索では見落とされていたaeTSAsであったことになる。
  • マウスTSAワクチンの効用に影響を与える2種類のパラメーターはヒト細胞でも測定可能なことから、臨床応用にあたってワクチンの標的として有望なTSAsの選定も実現可能と思われる。