1. CRISPR-Cas9アレル特異的ゲノム編集は、二倍体酵母にヘテロ接合性消失をもたらす
[出典] "Allele-specific genome editing using CRISPR–Cas9 is associated with loss of heterozygosity in diploid yeast" Gorter de Vries AR [..] Daran JG. Nucleic Acids Res. 2018-12-05. (bioRxiv 2018-08-22);"Researchers discover mechanism disrupting CRISPR-Cas9 gene editing" TUDelft NEWS 2018-12-05

 概要
  • CRRISPR-Cas9による半数体ゲノムとホモ接合体ゲノムの編集効率は高いが、多倍性そしてまたはヘテロ接合性が高いゲノムの編集効率は低い。デルフト工科大学のJean-Marc G Daranらは今回、酵母ゲノムにおいて、個々のヘテロ接合型遺伝子座の編集効率がホモ接合型遺伝子座の編集効率の ~99分の1にとどまることを示した。
  • ヘテロ接合型遺伝子の場合はこの極めて低い編集効率に加えて、Cas9が誘導する二本鎖DNA切断からの修復の際に、相同組み換えによって標的となったアレルの配列がもう一方のアレルの配列によって置換されることで、DNAの360 kbに及ぶ (1,700塩基に及ぶ)ヘテロ接合性消失が発生することも示した。
  • ヘテロ接合性消失は、癌抑制遺伝子やアポトーシス誘導 (pro-apoptotic)遺伝子の機能喪失に至ることが知られており、今回の実験結果は、CRISPR-Cas9による遺伝子ドライブやヒト遺伝子治療の研究にあたって留意すべき問題を提起した。
 S. cerevisiaeS. eubayanusのハイブリッド(以下、IMS0408)株での実験
  • 異質二倍体IMS0408株の対応する染色体間の塩基同一性は~85%である。IMS0408株において、S. cerevisiaeに存在しS. eubayanusには存在しないヘテロ接合型遺伝子MAL11を標的として、MAL11 ORFの上流と下流に対する60-bpの相同アームで挟んだ120-bpの長さの修復用断片を伴うCRISPR-Cas9編集を加えた。
  • S. cerevisiae実験室系統では修復用断片による置換がほぼ100%誘導されるが、IMS0408株では原論文Figure 1引用下図左にあるように、S. cerevisiae由来染色体には修復用断片ではなく、S. eubayanus由来染色体からの断片の組み換えが発生することを見出した (下図右はLOHが発生する分子機構モデル)。
LOH 1 LOH 4
 ほぼホモ接合型S. cerevisiaeにおけるヘテロ接合型遺伝子座を標的とする実験
  • Cas9によるDSB修復用断片を介した遺伝子編集実験において、S. cerevisiaeの半数体株IMX1555の遺伝子座とコンジェニック二倍体株 IMX1557ホモ接合型遺伝子座を標的とする編集効率は98-99%であったが、後者のヘテロ接合型遺伝子座を標的とする編集効率はその99分の1であった。
 Daranグループの酵母ゲノム編集先行論文
  • "CRISPR/Cas9: a molecular Swiss army knife for simultaneous introduction of multiple genetic modifications in Saccharomyces cerevisiae" Mans R [..] Daran JMG. FEMS Yeast Res. 2015-03-04.
  • "Pathway swapping: Toward modular engineering of essential cellular processes" Kuijpers NG [..] Daran JMG, Daran-Lapujade P. Nucleic Acids Res. 2018-12-05
2. ツヤホソバエのDistal-less (Dll)遺伝子で保存されているエクソンのCRISPR/Cas9欠損は、新奇腹肢の欠損と獲得の双方をもたらす
[出典] "CRISPR/Cas9 deletions in a conserved exon of Distal-less generates gains and losses in a recently acquired morphological novelty in flies" Rajaratnam G, Supeinthiran A, Meier R, Su KFY. iScience. 2018-12-01.
  • 第2エクソンを標的とするCRISPR/Cas9による編集において、スプライシング促進モチーフ (Exonic splicing enhancer, ESE)を標的とするCRISPR/Cas9はエクソン・スキッピングを介してツヤホソバエに新奇“sternite brushes”をもたらすが、第2エクソンのESE以外を標的とするCRISPR/Cas9は“sternite brushes”欠損をもたらす。
3. Cas9の半減期を短くすることで、遺伝子編集活性を維持しつつ神経毒性を抑制する
[出典] "Shortening the Half-Life of Cas9 Maintains Its Gene Editing Ability and Reduces Neuronal Toxicity" Yang S, Li S, Li XJ. Cell Rep. 2018-12-04.
  • Emory University School of Medicineの研究チームは今回、野生型SpCas9の発現がマウス脳における神経系遺伝子の発現に影響を与えることをRNA-seqにより示し、その上で、マウス由来ジェミニンのN末端領域40アミノ酸をSpCas9のN末端に結合することで細胞周期のG1/G0期においてCas9の分解を亢進し、このジェミニンで標識したCas9が野生型Cas9から、マウス脳での半減期が短縮され、神経系遺伝子への影響が軽減されることを示した。
4. [プロトコル]CRISPR/Cas9に基づく哺乳類細胞のケモゲノミクス・プロファイリング
[出典] Protocol "CRISPR/Cas9-Based Chemogenomic Profiling in Mammalian Cells" Hoepfner D, McAllister G, Hoffman GR. In: Ziegler S., Waldmann H. (eds) Systems Chemical Biology. Methods in Molecular Biology. 2018-12-06.
  • Novartis Institutes for BioMedical Researchによるプロコル詳述:CRISPR/Cas9による個々の遺伝子の編集が化合物への過敏反応と耐性に与える影響を分析することで、ケモゲノミクス・プロファイリングひいては化合物の標的を同定する。
5. 二重CRISPR/Cas9ニッカーゼにより患者由来iPS細胞のβサラセミアにおけるスプライス部位変異のシームレスな修復が可能になる一方で、望ましくないオンターゲット変異が誘発される
[出典] "Identification of on-target mutagenesis during correction of a beta-thalassemia splice mutation in iPS cells with optimised CRISPR/Cas9-double nickase reveals potential safety concerns" Alateeq S [..] Wolvetang E.  APL Bioengineering. 2018-12-03.
  • U QueenslandとImam Abdulrahman Bin Faisal Universityの研究チームは、一対のCas9nにpiggyBacとランスポゾンで切り出し可能な選択カセットおよびCaS9による再編集を抑制するためにPAMにSNPを導入する配列を帯びたテンプレートを利用することで、βサラセミアの病因変異IVSII-1 G > A)をオフターゲット編集を伴わずシームレスに修復可能なことを示すとともに、この手法が、オンターゲットに予期せざる変異を誘導することも見出し、Cas9nを利用した遺伝子修復がリスクを伴うことを示唆した。
6. 成体マウス脳in situで、CRISPR/Cas9によりAlk1遺伝子の体細胞変異を誘導し、脳動静脈奇形モデルを作出
[出典] "Induction of Brain Arteriovenous Malformation Through CRISPR/Cas9-Mediated Somatic Alk1 Gene Mutations in Adult Mice" Zhu W, Saw D, Weiss M.  Sun Z, Wei M, Shaligram A, Wang S, Su H. Stroke Res. 2018-12-03.
  • UCSFの研究チームはAlk1の第4エクソンと第5エクソンを標的とするCas9-sgRNAと、血管内皮増殖因子 (VEGF)をAAVベクターでマウス脳へ送達することで、脳動静脈奇形モデル作出
7. CRISPR/Cas9で花の色を調節する
[出典] "Application of the CRISPR/Cas9 system for modification of flower color in Torenia fournieri" Nishihara M, Higuchi A, Watanabe A, Tasaki K. BMC Plant Biol. 2018-12-05.
  • CRISPR/Cas9によりハナウリクサのフラボノイド生合成酵素遺伝子 (フラバノン-3-ジオキシゲナーゼ, F3H)に変異を導入し、ほぼ白い淡いブルーのT0世代を80%の効率で作出 (原論文Table 1とFig. 2引用下図参照);導入された変異は塩基置換とindelsflower color