crisp_bio注:2019-01-18 書誌情報の更新と追加
[出典] "CRISPR-mediated activation of a promoter or enhancer rescues obesity caused by haploinsufficiency" Matharu M, Rattanasopha S, Tamura S, Maliskova L, Wang Y, Bernard A, Hardin A, Eckalbar WL, Vaisse C, Ahituv N. Science 2019 Jan 18;363(6424):eaau0629 Online 2018-12-13. ("CRISPR-mediated activation of a promoter or enhancer rescues obesity caused by haploinsufficiency" Matharu M, Rattanasopha S, Maliskova L, Wang Y, Hardin A, Vaisse C, Ahituv N. bioRxiv. 2017-05-22);[PERSPECTIVE] "Gene therapy for pathologic gene expression" Montefiori LE, Nobrega MA. Science. 2019-01-18.

ハプロ不全 (haploinsufficiency)と遺伝子治療
  • 神経疾患、発達障害、免疫疾患、代謝異常、不妊症、腎臓障害、四肢奇形など広範な疾患の病因が、相同染色体に由来する遺伝子2コピーの一方のコピーが不活性になり、遺伝子発現量が著しく低減することで発症するハプロ不全症とされ、660種類を超えるハプロ不全遺伝子が同定されてきた。また、最近の大規模なエクソームシーケンシング解析(Nature, 2016)から、ハプロ不全遺伝子は3,000種類を超えるとされた 。
  • ハプロ不全症に対して、外来遺伝子を組み換えAAV (rAAV)で送達することで然るべき遺伝子発現量を確保する手法が試みられてきたが、異所性発現や、遺伝子発現回復用外来遺伝子のサイズがrAAVの許容範囲に収まらない対象遺伝子が多々ある、といった課題を伴っていた。CRISPR遺伝子編集による修復には、変異ごとにCRISPR-Casシステムを設計する必要があり、また、光学顕微鏡では観察できないが複数遺伝子にもわたるヘテロ型機能喪失染色体微小欠失 (microdeletion)の修復には適用が困難であり、オフターゲット編集の問題も完全には解決していない。
肥満モデルマウスでのCRISPRa遺伝治療概念実証実験
  • UCSFの研究チームは今回、量的形質である肥満をハプロ不全症のモデルとして、通常のCRISPR/Cas9遺伝子編集と異なり二本鎖切断過程を経ることのないCRISPRaによってハプロ不全症を治療可能なことをマウスにおいて実証した。CRISPRaはLei S. Qi (当時)を含むJ. S. WeissmanらのUCSFの研究者が中心になって開発した技術である (crisp_bio記事 2017-05-10 CRISPRiとCRISPRaは、ヒト細胞における遺伝子発現の抑制と活性化を、ゲノムワイドで調節可能にする:設計と実証"参照 )
  • 具体的には、single-minded family bHLH transcription factor 1(Sim1)またはメラノコルチン4受容体 (Mc4r)のハプロ不全に起因する肥満を対象として概念実証実験を行った。ヒトのSIM1ハプロ不全は過食と肥満を、Sim1ヘテロ型変異マウスも過食と肥満を呈するがヒトSIM1の過剰発現により正常化することが知られている。
  • Sim1(+/-)マウスにおいて、Sim1のプロモーターまたはその~270 kb遠位に位置するエンハンサーを標的とするsgRNAに基づくCRISPRaよりSim1の発現を上方制御しSim1ハプロ不全に起因する肥満をレスキューした。
  • Sim1の上方制御がプロモーターまたはエンハンサーが活性な組織に限定されており、sgRNAの標的としたシスエレメントが組織特異性を決定していることが示唆された。
  • RNA-seqとChIP-seqからも、オフターゲット編集非検出の高い組織特異性を確認した。
  • CRISPRaシステムをrAAVでマウスの視床下部へ送達することで、Sim1(+/-)マウスの過剰な体重増加を抑制することも確認した。
  • ヒトMC4Rのヘテロ型変異は重症肥満の主因であり、マウスのMc4rのハプロ不全も肥満に至る。Mc4r (+/-)マウスにおいても、Mc4rのプロモーターを標的とするCRISPRaのrAAVを介した視床下部への到達による体重抑制効果を確認した。
展望
  • CRISPRaは、ハプロ不全およびその他の遺伝子量の異常が原因となる機能不全の治療手段として有望である。
CRISPRa 関連crisp_bio記事 (2018年後期)