1. 抗CRISPRタンパク質はCRISPR-Cas9とdsDNAの結合を競合阻害する (2報)
  • 論文    受付日 改訂日 受理日 刊行日
  • 論文 1-1:09/04 - 10/23 - 11/14 - 12/27
  • 論文 1-2:08/15 - 10/04 - 11/09 - 12/31
1-1. AcrIIA2の阻害能の温度依存性とより強力な阻害能を帯びたAcrIIA2bの探索・同定の構造基盤
[出典] "Temperature-Responsive Competitive Inhibition of CRISPR-Cas9" Jiang F, Liu JJ, Osuna BA, Xu M, Berry JD, Rauch BJ, Nogales E, Bondy-Denomy J,  Doudna JA. Mol Cell. 2018-12-27. 構造データ:SpyCas9-sgRNA-AcrIIA2: EMDB 9066 / PDB 6MCB 3.4Å分解能;SpyCas9-sgRNA-AcrIIA2b: EMDB 9067  / PDB 6MCC 3.9Å分解能 (2019-01-01 公開待ち)

概要
  • バクテリアはCRISPR-Cas免疫システムを備え、バクテリオファージは抗CRISPR (anti-CRISPR, Acr)タンパク質を備えている。タイプII-A CRISPR-Cas9によるDNA切断とゲノム編集を阻害するAcrsが、AcrIIA1からAcrIIA6まで6種類 (*) 知られている。
  • UC BerkeleyのJ. A. Doudnaらは今回、AcrIIA2ならびにそのホモログであるAcrIIA2bとSpyCas9-sgRNAとの三者複合体の構造をクライオ電顕単粒子解析法によりそれぞれ3.4Åならびに3.9Åの分解能で再構成し、Cas9阻害の構造基盤を明らかにした。
AcrIIA2がCas9活性を阻害する構造基盤
  • はじめにサイズ排除クロマトグラフィーによりListeria phage LP-101由来AcrIIA2が、sgRNAとSpyCas9の二者複合体にのみ結合し、apo-SpyCas9またはsgRNA単独には結合しないことが明らかにし、AcrIIA2がsgRNA結合によりコンフォメーションが変化したSpyCas9に結合することが示唆し、クライオ電顕からのモデルで、AcrIIA2はAcrIIA4と同様にsgRNA結合後のSpyCas9にあらわれるNUCローブとRECローブの間に形成される核酸結合チャネルに入り込むことを示唆した。
  • SpyCas9-sgRNAとdsNDAの三者複合体と詳細に比較することから、AcrIIA2のα3鎖がPAM結合クレフトに結合することでdsDNAの標的鎖とCas9の結合を阻害し、加えて、α1鎖がdsDNAの標的鎖と非標的鎖の間の楔となってdsDNAの巻き戻しを阻害することも見出した。
  • AcrIIA2はまた注目すべきことに、AcrIIA4と異なりRuvC活性部位には干渉せず、sgRNA-Cas9への結合親和性がAcrIIA4より低く、室温 (22°C)でのヒト細胞におけるCas9阻害能がAcrIIA4より低く、体温 (37°C)ではAcrIIA4もAcrIIA2もいずれも阻害能が低下するが、100:1の濃度の用量でAcrIIA4がCas9を100%阻害したのに対して、AcrIIA2はCas9を阻害するに至らなかった
阻害能が高いAcrIIA2ホモログAcrIIA2bの探索・同定
  • Listeria属内のプロファージ、ファージ、プラスミドおよび可動性遺伝因子から探索とin vitroでの阻害能と毒性を評価した上で、L. monocytogenesプラスミド由来のAcrの一種を選別しAcrIIA2bと命名し解析を進めた。
  • AcrIIA2bのsgRNA-SpyCas9への結合親和性はAcrIIAより高く、SpyCas9へのdsDNA結合を競合阻害し、ヒト細胞において室温でも体温でも同一条件においてAcrIIA4と同等の阻害能を示した。
  • AcrIIA2bの結合様式はAcrIIA2とほぼ共通であったが、PAM結合部位における局所的コンフォメーションに差異が見られた。一方で、AcrIIA4との類似性が見られ、AcrIIA2bのAcrIIA2に優る阻害能はサイズの大きな芳香族残基を介したSpyCas9との疎水性相互作用によることが示唆された。
  • 今回の結果から、PAM認識を阻害するペプチドあるいは低分子によりCas9発現を制御することが可能。
1-2. AcrII2AがCas9の活性を阻害する構造基盤
[出典] "Phage AcrIIA2 DNA Mimicry: Structural Basis of the CRISPR and Anti-CRISPR Arms Race" Liu L, Yin M, Wang Y. (Chinese Academy of Sciences) Mol Cell. 2018-12-31;構造データ Cas9-sgRNA-AcrIIA2 PDB PDB 6IFO 3.3 Å 分解能 (2019-01-01 PDB公開待ち)
  • AcrsがCas9を阻害するデータは蓄積されてきたがその構造基盤の解明は遅れをとっていた。Chinese Academy of Sciencesの研究チームは今回、X線結晶構造解析によりSpyCas9-sgRNA-AcrIIA2の三者複合体の構造を3.3 Å分解能で決定した。
  • その上で、論文 1-1と独立に同様の結論に達した:L. monocytogenesのAcrIIA2がsgRNA結合状態のSpyCas9上のPAM認識残基と相互作用することでCas9の標的dsDNA探索・結合を競合阻害し、また、AcrIIA2がAcrII4とは異なるCas9上のモチーフを認識することを見出した。
 "AcrII--" crisp_bio記事
  • (*) CRISPRメモ_2018/12/07 - 4. 抗CRISPRタンパク質AcrIIC4AcrIIC5により、バクテリアとヒト細胞においてCas9を阻害する (2018-12-04にSontheimerらがmBioにてAcrIIC4とAcrIIC5がCas9のDNAへの結合を阻害し、ひいては、Cas9によるDNA切断を阻害すると報告)
  • CRISPRメモ_2018/03/09 - 1. SpCas9活性と遺伝子ドライブを抗-CRISPRタンパク質 (AcrIIA2; AcrIIA4)によって調節する:酵母での実証
  • CRISPR関連文献メモ_2017/07/13 - 3. 抗CRISPR蛋白質AcrIIA4によるCRISPR-Cas9阻害の機構と利用
  • CRISPRタンパク質 (AcrIIA1〜4) - 1. [RESEARCH HIGHLIGHT] ゲノム編集活性のオフ・スイッチ
  • CRISPR関連文献メモ_2016/12/31 - [論文] Cas9活性制御に展開可能なバクテリオファージ由来・抗CRISPRタンパク質 (AcrIIA1〜4)
2. [レビュー] CRISPR RNAガイドによるCas9自動配送の構造基盤
[出典] REVIEW "CRISPR RNA-guided autonomous delivery of Cas9" Wilkinson RA, Martin C, Nemudryi AA,  Wiedenheft B (Montana State U.). Nat Struct Mol Biol. 2018-12-31.
  • バクテリアとアーケアにおけるCRISPR遺伝子座の同定からcrRNAとtracrRNAを一体化したsgRNAをガイドとするプログラム可能なゲノム編集技術への展開に至るまでの小史;Cas9単体、二者複合体および三者複合体の構造解析;構造情報に基づいたPAMの改変と拡張およびCas9の特異性向上;Cas9と各種エフェクターの融合を介したゲノム編集機能の拡張 (修復過程の選択;転写調節;時空間制御;可視化)
3. 生命倫理:生殖細胞系列の遺伝子編集を巡る倫理:中国の見方
[出典] "Ethical issues in human germline gene editing: a perspective from China" Zhang D (Chinese Academy of Medical Sciences & Peking Union Medical College), Lie RK (U. Bergen)
  • 中国は、国際協調のもとに、遺伝学研究と胚研究におけるCRISPR技術をはじめとする新たな展開を制御する規制と倫理の枠組みを整備する必要がある。
  • 現状の各国の関連規制を比較すると当該分野で各国の規制が完全に一致することは困難と思われ、調和 (harmonization)を目指すことになろう。中国は国際的議論に耳を傾けるとともに、国際コミュニティーも中国の主張に注目し取り入れていく必要がある。