(創薬等PF・構造生命科学ニュースウオッチ 20160420)
  • Corresponding authors: Camille Le Chapelain & Michael Groll (Technische Universität München)
  • ヒトに対して最も重篤な症状をもたらす熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum )に対する第一の選択肢はアーテミシニン(artimisinin, ART)をベースとする併用療法であるが、その効用は薬剤耐性によって削がれている。しかし、薬剤耐性を得た原虫ではユビキチン化されたタンパク質レベルが上がることに注目すると、P. falciparum(以下、Pf )のユビキチン・プロテアソーム・システムこそが抗マラリア創薬の標的であるとも言える。
  • ユビキチンを介したタンパク質分解パスウエイの鍵因子は20Sプロテアソーム(コア粒子, CP)である。CPは挿入図1にあるように、外側のαリング2つと内側のβリング2つで構成され、リングはいずれも7サブユニットで構成され、β1、β2そしてβ5の3つのサブユニットがタンパク質分解活性を担っている。また、これら3つの触媒サブユニットはそれぞれに特異的な基質を結合する。
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  • ヒトのプロテアソームについては、抗がん剤の標的として精力的に研究が進められ多くのプロテアソーム阻害剤が開発されFDAに認可されている。ヒトとPf のプロテアソームの相違を明らかにすることから、Pf のプロテアソームを選択的に阻害する分子を設計することが可能になる。
  • 2016年になるまでPlasmodium プロテアソームの構造はまだ解かれていなかったが、生化学的実験などによって、β2とβ5の阻害剤がin vitro でもマウス感染モデルにおいても有効であること、また、各触媒サブユニットのポケットへの阻害剤の結合の効果についても明らかにされてきた。
  • 2016年2月に、Paula C. A. da FonsecaとMatthew Bogyoらの米英豪の研究チームが、Pf とヒトのプロテアソームに対する阻害剤の分子機構の構造基盤を明らかにした。(本記事引用のハイライト論文参照)。
    • 228種類の多様なペプチドの分解パターンからPf プロテアソームの基質特異性を解析することから、Pf プロテアソームのβ2サブユニットに対して阻害活性を示すが、ヒトのプロテアソームのβ2サブユニットにはほとんど影響しないペプチドをベースとした3種類のビニルスルホン(WLW-vs, WLL-vs, およびLLW-vs)を作出。
    • WLW-vsが結合したPf プロテアソームの構造をクライオ電顕単粒子解析法に拠って分解能3.6 Åで解き、WLW-vsの選択的阻害性の構造基盤を明らかにした(挿入図2参照)。36760002
      すなわち、Pf プロテアソームのβ2の阻害剤結合ポケットは、ヒトのそれよりも広くかつ開いていることを明らかにした。また、β1サブユニットへの結合はいずれにつていても構造上困難であり、β5サブユニットには結合可能なことが示唆された。
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    • WLW-vsは、ジヒドロアルテミシニン(dihydroartemisinin)との併用により、β2だけを阻害する濃度でART耐性Pf を駆除した。
    • WLL-vsはin vitroで、Pf のβ2とβ5およびβ1、また、ヒトのβ5を阻害したが、マウスに感染させたP. chabaudi をほぼ完全に駆除した。
  • クライオ電顕の進歩によって、リガンドが結合した状態で、比較的大きく結晶化が困難なタンパク質を、生理的条件下で観察可能になってきた。今回得られたクライオ電顕構造に基づいて、抗マラリア療法の研究開発が加速されるであろう。