(創薬等PF・構造生命科学ニュースウオッチ 20141204)
X線自由電子レーザ(X-ray Free-Electron Laser, XFEL)に拠って、“Diffraction before destruction / diffraction before reduction” を実現するフェムト秒X線結晶構造解析法(Femtosecond Crystallography, FX)の実用化・汎用化の鍵の一つが、X線レーザ照射スポットにサンプルを供給する装置である。 
 サンプル供給装置として、当初、液状にしたサンプルをX線照射スポットに向けて高速で噴出させる手法が試みられた。しかし、解析に十分な回折データを集積するには10〜100mgと比較的大量の微結晶を必要とし、また、実験中のサンプル変性やインジェクターの保守などの問題もあり、この液体ジェット法に替わる手法の開発が進められていた。その中で、2014年10月から11月にかけて、米国のXFEL施設”LCLS/SLAC”日本のXFEL施設”SACLA”に組込まれたサンプル供給装置が、それぞれ、PNAS誌Nature Method誌に発表された。 

 LCLS/SLACでは、これまで利用されて来たゴニオメーターに基づく高度に自動化されたマイクロディフラクトメーターに新たなサンプル支持器具とソフトウエアが組合わされ、FXに最適化された装置を使ったFX実験が行われた。
  • サンプル支持のグリッドやループに軸方向の移動と回転を組合わせて、放射損傷を受けていない箇所から回折データを取得することによって、RNAポリメラーゼⅡ(Pol Ⅱ)-転写因子TFⅡB-核酸分子鎖(NAS)の複合体構造、GPCRの一種β2アドレナリン受容体・アゴニスト・ナノ粒子の複合体構造、単量体で鉄を含むClostridium pasteurianum由来のヒドロゲナーゼ結晶(長さ 1〜3mm)、ミオグロビンの結晶構造を、高分解能で決定した。
  • FXに最適化したマイクロディフラクトメーターによって、放射損傷を受けていない部分に由来する100〜1,000件の回折データから、さまざまなサイズやX線による損傷を特に受けやす金属結合酵素などの結晶構造を、低温から室温の範囲で、高分解能で決定することが可能になった。今後、サンプル支持器具の作動範囲の拡大・高速化・精密化を進めて、FX実験をさらに高精度化・効率化する。また、限られたビームタイムを最大限活用することを目指して、ビーム分割とビーム切換えによるXFEL実験の多重化を進める。
 SACLAでは、タンパク質結晶を含有するグリースをインジェクターからX線レーザーの照射ポイントに低速で押し出す手法・装置による連続(serial)フェムト秒X線結晶構造解析(SFX)が行われた。
  • 膜タンパク質の場合はこれまで、脂質キュービック法で得た高粘度の脂質中の結晶をインジェクターからゆっくりと押し出しすサンプル供給装置を用いて、SFXによる回折データ収集が行われて来た。研究グループは今回、サンプルの構造、X線回折、サンプルの供給などに悪影響を与えない高粘度物質として鉱油系グリースを選び出し、このグリースと結晶を混ぜ合わせてシリンジに充填し、シリンジの針先からゆっくりと押し出すグリースマトリックス法を開発した。
  • グリースマトリックス法を組み入れたSFXによって、リゾチームを改めて分解能2Åで決定した他、グルコースイソメラーゼ、タウマチン、および脂肪酸結合タンパク質3(FABP3)の結晶(約7~30μm)を高分解能で決定した。解析に必要なタンパク質は1mg程度、液体インジェクターの場合の1/10〜1/100程度、で十分であった。
  • グリースマトリックス法は、SFXを、脂質キュービック法以外の方法で結晶化されたタンパク質へ、さらに、有機物・無機物全般へと汎用化するサンプル供給法である。
【注1】フェムト秒=10-15秒 
【注2】Diffraction before destruction/diffraction before reduction:極めて高輝度のX線を極めて短時間(パルス)連続的に繰り返し照射するSFXによって、微細結晶についても放射損傷や光還元現象が起こる前の構造を突き止めることが可能になり、また、化学反応の経過を追跡することも可能になる。