2020-11-18 iGUIDEのプロトコル解説へのリンクを追加: "Nobles C.L. (2021) iGUIDE Method for CRISPR Off-Target Detection. In: Marchisio M.A. (eds) Computational Methods in Synthetic Biology. Methods in Molecular Biology, 2020-11-13.
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2020-01-19 初稿

1. iGUIDE: CRISPRシステム・オフターゲット編集の検定法GUIDE-seqの性能向上
[出典] "iGUIDE: an improved pipeline for analyzing CRISPR cleavage specificity" Nobles CL [..] Bushman FD. Genome Biol. 2019-01-17.

GUIDE-seq
  • CRISPRシステムのオフターゲットゲノム編集 (Off-target genome editing)の検出法が多々工夫されてきている。その中で、J. Keith Joungらが2015年に発表したGUIDE-seqは、dsDNA切断 (DSB) マーカとして合成dsODNをDSBサイトにNHEJ過程を介して取り込ませ、"DSBを偏りのないネステッドPCR増幅と次世代シーケンシングによりゲノムワイド同定"する手法、"Genome-wide, Unbiased Identification of DSBs Enabled by sequencing"である。
  • GUIDE-seqは、手順がシンプルかつウイルスベクターを使用しないことからウイルスタンパク質に対する自然免疫応答を回避可能なことから、広く利用されている。
iGUIDE
  • University of Pennsylvaniaの研究チームは今回、GUIDE-seqのPCRの過程で発生する可能性があるミスプライミング (マーカのODN以外のヒトDNA配列が増幅される可能性)をフィルタリングすることで、偽陽性を排除し、GUIDE-seqをimproveし、iGUIDEと命名した。
  • 具体的には、ODNとしてGUIDE-seqの34 ntよりも長い46 ntを使用して、PCRプライマーの結合部位を、ODNとヒトゲノム由来のDNAとの結合部位から遠ざけることで、PCR最終産物に残るODN断片をレポーターとして利用する工夫を加え (原論文Fig 1- a/b引用下図左参照)、偽陽性を排除可能とした (Fig. 1-c引用下図右グラフのグレーの背景部分のデータ)。
2019-01-19 13.17.40 2019-01-19 13.18.12
  • iGUIDEで獲得した高精度なDSB分布データから、ヒト細胞に内在する自然発生DSBと、オープンなコンフォメーションをとったクロマチン領域、遺伝子が密な領域、および、染色体脆弱部位が相関することが浮かび上がってきた。
  • iGUIDE用データ解析ソフトウエア入手先:Bioinformatic pipeline for identifying dsDNA breaks induced by designer nucleases (ie. Cas9)
2. [展望] CRISPRaによりハプロ不全症を治療
[出典] PERSPECTIVE "Gene therapy for pathologic gene expression" Montefiori LE, Nobrega MA. Science. 2019-01-18.
  • ハプロ不全症は、一対の遺伝子のうち一方の遺伝子コピーがフレームシフトや小規模な染色体欠損によって機能を喪失し (ヘテロ型変異)、もう一方の遺伝子コピーの発現では本来の遺伝子機能を相補するに至らないことに由来する疾患である。展望では、ヘテロ型変異遺伝子ペアのうち正常な遺伝子コピーの発現をCRISPRaで組織特異的に亢進することで治療可能なことを示したMatharuらのScience論文*を紹介 (* crisp_bio記事:2018-12-15 CRISPRaを介したプロモーターまたはエンハンサーの活性化はハプロ不全症の治療法足り得る
  • Matharuらは、4週齢のマウスにCRISPRaを適用することで、ハプロ不全の遺伝子の発現亢進により肥満症を予防可能なことを示したが、展望の著者らは、CRISPRaにより肥満症からの回復が可能か、と問うている。現時点では、ハプロ不全の遺伝子診断が行われない限り、多くのハプロ不全症は症状が表れてから治療することになるためである。また、CRISPRaによる遺伝子発現活性化を、組織特異的にだけではなく、発生段階特異的にも制御する必要を指摘している。最後に、Matharuらの報告が、膨大なエンハンサー候補遺伝子の作用機序を明らかにすることの意義を明確にした、とまとめている。
3. BE3と体細胞核移植で、効率よくヒト疾患モデル・ブタを作出
[出典] CORRESPONDENCE "Efficient RNA-guided base editing for disease modeling in pigs" Li Z, Duan X, An X [..] Pan D, Du X, Wu S. Cell Discov. 2018-12-18.
  • 一塩基編集技術の一種であるBE3を利用して、Ablepharon-macrostomia syndrome (無眼瞼-大口症候群)とOculocutaneous albinism 1 (眼皮膚白皮症1)のそれぞれの原因となるTWIST2遺伝子とTYR遺伝子の点変異を帯びたブタを作出 (原投稿Fig.1-a引用下図左のべクター構成と標的遺伝子および原論文Table 1引用の下図右の編集効率を参照)
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  • BE3により326線維芽細胞の~13.3%でブタ内在性レトロウイルス (PERV)の6~20コピーの編集を実現
  • BE3により、ブタの16,677遺伝子に未成熟終止コドン導入