1. CRISPR-Casシステムの研究は、ゲノム編集への貢献に加えて基礎生物学にも貢献する
[出典] "CRISPR: a new principle of genome engineering linked to conceptual shifts in evolutionary biology" Koonin EV. Biol Philos. 2019-01-19. フォローップ "Lamarckian or not, CRISPR-Cas is an elaborate engine of directed evolution" Biol Philos. 2019-02-13.
  • CRISPR-Casシステムの進化・構造・機能の観点からの分類を提唱してきたNCBIのKooninが、ラマルク的適応(*)と自然選択との相関、獲得免疫応答と代替防衛システム (免疫応答に成功しなかった感染細胞の利他的細胞死または休眠誘導)の相関、および、可動遺伝因子 (MGE)とCRISPR-Casシステムの進化との相関について、考察。
  • (*) 侵入DNAの断片を獲得しCRISPRアレイに取り込み保存・継承する=外部要因により特異的で継代可能なゲノム改変が発生し (adapation)、外部要因への適応(interference)が実現する (Inheritance of Acquired adaptive Characters, IAC):ラマルク進化ダーウイン進化とCRISPR免疫応答の対照について原論文が先行論文**からFig. 1へと引用した原図を直接下図左右に再録 (** "Just how Lamarckian is CRISPR-Cas immunity: the continuum of evolvability mechanisms" Koonin EV, Wolf YI Biol Direct. 2016-02-24.
 2019-01-24 12.28.12 2019-01-24 12.28.30
  • 基礎生物学から見出されたCRISPR-Casシステムに基づくゲノム編集ツールが医学生物学とバイオテクノロジーに貢献しつつあるが、CRISPR-Casシステムの解析が進化生物学をはじめとする基礎生物学に新たな知見をもたらし、今後も貢献していく。
2. CRISPRアレイのスペーサの多様化に、PAM隣接から±1塩基ずれた断片を獲得するアダプテーションが貢献する
[出典] "Imprecise Spacer Acquisition Generates CRISPR-Cas Immune Diversity through Primed Adaptation" Jackson SA, Birkholz N, Malone LM, Fineran PC. Cell Host Microbe. 2019-01-08.
  • CRISPR-Casシステムにおいて、宿主微生物は侵入ファージや可動遺伝因子 (MGE)から断片を獲得し、CRISPRアレイにスペーサとして記憶し (adaptation)、その後の侵入ファージ/可動遺伝因子 (MGE)をスペーサと照合することで認識し破壊する (interference)。
  • ファージ/MGEはこのCRISPR-Casのinterferenceから変異することで逃れ、宿主微生物は継続的なadaptationを介してスペーサを多様化してきた。University of Otagoの研究チームは今回このスペーサ多様化の過程解明に取り組んだ。
  • タイプ I CRISPR-Casシステムは、ファージ/MGEの感染時に免疫を強化する"primed CRISPR adaptation"(priming)を介して、記憶されていたスペーサに基づく免疫応答を逃れる変異ファージ/MGEへの免疫応答も可能にすることが知られている。
  • タイプ I システムにおいてスペーサは、PAMに隣接するDNAから獲得されるとされてきたが、研究チームは先行研究で、Pectobacterium atrosepticumのタイプI-Fシステムにおいて、新たに獲得されるスペーサの多くが標準的PAM (配列GG)に隣接する配列ではなく、配列GGの1塩基上流か1塩基下流から獲得されること (slipping)を見出していた。このslippingは、タイプI-B, I-C, I-Eでも報告されていた。
  • 研究チームは今回、P. atrosepticumのタイプI-FシステムとSerratia sp.のタイプI-Eシステムにおいて、"slipped"スペーサはinterferenceに貢献しないが、標準的スペーサがinterference時に誘導するprimingよりも強くprimingを亢進することを見出した
Primed adaptation関連論文とcrisp_bio記事
  • "Primed CRISPR adaptation in Escherichia coli cells does not depend on conformational changes in the Cascade effector complex detected in Vitro"Krivoy A, Rutkauskas M, Kuznedelov K, Musharova O, Rouillon C, Severinov K, Seidel R. Nucleic Acids Res. 2018-05-04
  • CRISPRメモ_2018/04/18 - 1. 大腸菌のタイプI-E CRISPR-Casシステムが標的DNAを切断するに至る過程を初めてin vivoで解析
  • CRISPR関連文献メモ_2016/10/09 7. タイプ I-F CRISPR/Casシステムにおけるスペーサー獲得機構;原論文Figure 9引用下図スペーサ獲得モデル図参照2019-01-24 8.20.27