1. BRCA1変異乳癌のドライバー遺伝子候補群から有力な抗癌剤標的を効率良く同定可能にする新手法
[出典] "Comparative oncogenomics identifies combinations of driver genes and drug targets in BRCA1-mutated breast cancer" Annunziato S, de Ruiter JR,  Henneman L, Brambillasca CS [..] Wessels LFA, Jonkers J. Nat Commun. 2019-01-23.
  • BRCA1変異乳癌は、多数のドライバー候補遺伝子を含む遺伝子のコピー数異常 (copy-number alterations, CNAs)によって発症する。病因候補遺伝子変異のモデルマウスを作出・利用して、抗癌剤の標的になり得る遺伝子を同定することが可能ではあるが、多数の候補遺伝子を対象として、その全てについて変異マウスモデルを作出し、さらに、それらを交配して複合変異マウスモデルを作出する手法による創薬標的遺伝子の同定は非現実的である。
  • The Netherlands Cancer Instituteをはじめとするオランダとオーストラリアの研究グループは今回、生殖細胞系統と体細胞のゲノム編集を併用し、マウスとヒトのデータを比較することで、ドライバー候補遺伝子群の中から創薬標的足り得る遺伝子をハイスループットで同定可能なことを示した(原論文のFIg.1/2/4から一部引用下図参照)。2019-01-26 14.25.10
  • BRCA1欠損トリプルネガティブ乳癌 (TNBC)マウスモデルWB1Pを樹立し、WB1P由来のES細胞および個体において Myc, Met, PtenおよびRb1を対象として、レンチウイルスによるcDNAの過剰発現そしてまたはCRISPR-Cas9による編集を加えていく手法を試行した 。
  • その結果、BRCA1欠損TNBC乳腺腫瘍において、MYCの過剰発現がCNAのランドスケープを大きく改変しMCL1が腫瘍の協働ドライバーとして機能することを見出した。また、MCL1を阻害することでPARP阻害剤 (PARPi)の抗腫瘍性が高まることを見出し、MCL1阻害とPARPiの併用療法を示唆するに至った。
2. CRISPR-Cas9の割球へのマイクロインジェクションによりゼノパス癌モデルを作出し、Rb遺伝子の機能解析
[出典] "RBL1 (p107) functions as tumor suppressor in glioblastoma and small-cell pancreatic neuroendocrine carcinoma" Naert T [..] Vleminckx K. bioRxiv. 2019-01-23.
  • 癌抑制遺伝子の一種である網膜芽細胞腫遺伝子 (Retinoblastoma/RB)とp53のシグナル伝達ネットワークにおける変異が高悪性度の特定の稀な悪性腫瘍と相関することが知られている。RBシグナル伝達ネットワークには3種類のPocketタンパク質ファミリ、RB1、Retinoblastoma-like protein 1(RBL1)/p107およびRetinoblastoma-like protein 2 (RBL2)/p130が存在するが、その間の機能の相補性が不明であった。
  • Ghent Univserityの研究チームは今回、2倍体の水生両生類でありアフリカツメガエルの近縁種Xenopus tropicalisの特定の割球にrb1rbl1を標的とするCRISPR/Cas9-gRNA RNPをマイクロインジェクションすることで、神経系や膵臓などの組織特異的in vivo機能相補性を探った 。
  • その結果、rb1の不活性化が脈絡叢乳頭腫を誘導し、rb1rbl1の双方の不活性化が小細胞膵神経内分泌腫瘍 (small-cell pancreatic neuroendocrine carcinoma, SC-PaNEC)、網膜芽細胞腫およびアストロサイトーマを発症に必要十分であることを見出し、RBL1がSC-PaNECとアストロサイトーマに対する腫瘍抑制因子であると判定した。また、リ・フラウメニ(Li-Fraumeni)症候群をミミックしたtp53変異X. tropicalisモデルを樹立し、tp53変異が共存することで悪性度が高まることを見出した。
  • CRISPR/Cas9送達が容易で短期間に高効率で癌が発生するX. tropicalisモデルは、ウイルスベクターを介したCRISPR/Cas9送達によるマウスモデルを相補する。