1. FACSを介したゲノムワイドCRISPRスクリーンによりクラミジア・トラコマチス感染必須因子を同定
[出典] "A FACS-Based Genome-wide CRISPR Screen Reveals a Requirement for COPI in Chlamydia trachomatis Invasion" Park JS [..] Waldor MK. iScience. 2019-01-25.
  • Harvard Medical School, Brigham & Women's Hospital, Broad Instituteなどの研究チームは、クラミジア・トラコマチス (C. trachomatis)が宿主に侵入するに必要な宿主因子の同定を目的として、ヒトHT29細胞をプール型sgRNAsで遺伝子ノックアウトし、蛍光標識したC. trachomatis血清型L2に暴露し、FACSにより選別した非感染細胞のsgRNAsを解析し、良く知られた病原体受容体であるヘパラン硫酸と、コートマー複合体 (COPI)を同定した。
  • COPIは、これまで知られていなかった機能を介してヘパラン硫酸の細胞表面提示を促進し、ひいては、C. trachomatisの付着を亢進することを見出した。COPIの欠損だけではC. trachomatis感染耐性を説明できないところ、COPIが病原体のタイプIII分泌システム (T3SS)を活性化することも見出した。
  • FACSをもとづくCRISPR/Cas9機能喪失スクリーニングが病原体感染に必須な宿主因子の同定に有用であるが、病原体の生存に必須な因子の解析には、CRISPRiによるスクリーニングが必要である。
2. 志賀毒素細胞死を介したゲノムワイドCRISPRスクリーンにより、糖脂質の調節因子としてLAPTM4AとTM9SFタンパク質を同定
[出典] "A CRISPR Screen Identifies LAPTM4A and TM9SF Proteins as Glycolipid-regulating Factors" Yamaji T, Sekizuka T, Tachida Y, Sakuma C, Morimoto K, Kuroda M, Hanada K. iScience. 2019-12-25.
  • スフィンゴ糖脂質 (Glycosphingolipids, GSLs)は、様々なGLS合成酵素で生合成されるが、これらの酵素の翻訳後調節の機構は完全には解明されていない。国立感染症研究所の研究チームは今回、志賀毒素 (Shiga toxin, Sex)の受容体でスフィンゴ糖脂質の一種であるグロボトリアオシルセラミド (globotriaosylceramide, Gb3)の生合成に注目して、STx1細胞毒性を介したHeLa細胞でのゲノムワイドCRISPR/Cas9ノックアウト・スクリーンにより、スフィンゴ脂質生合成調節因子の同定を試みた。
  • このスクリーンで、スフィンゴ脂質関連遺伝子と膜輸送遺伝子を含む多様な遺伝子に加えて、LAPTM4AとTM9SF2を同定し、その生理機能を解析した。
  • LAPTM4AとTM9SF2のいずれかをノックアウトするとGb3生合成が低減し、その前駆体であるラクトシルセラミド (lactosylceramide)が細胞に蓄積した。
  • LAPTM4A欠損は、転写後調節を介して内在Gb3の生合成活性を低減する。一方で、TM9SF2はGb3シンターゼ活性には影響を与えないが、Gb3シンターゼの局在化を阻害し、TM9SF2のGb3調節活性はTM9SFファミリーで保存されていた。
3. ヒト多能性幹細胞 (hPSCs)の成長と生存に関連する遺伝子をCRISPR技術に拠らずにゲノムワイドスクリーン
[出典] "Genome-wide Screen for Culture Adaptation and Tumorigenicity-Related Genes in Human Pluripotent Stem Cells" Weissbein U, Peretz M, Plotnik O, Yanuka O, Sagi I, Golan-Lev T, Benvenisty N. iScience. 2019-12-25.
  • Hebrew Universityの研究チームは、PiggyBac (PB)トランスポゾンシステムにより、遺伝子発現レベルをゲノムワイドで改変したhESCsライブラリーを構築し、in vitroまたはin vivoでhESCsの成長に有利な遺伝子とパスウエイの同定を試みた。
  • その結果、RASパスウエイの過剰活性化が特異的な薬剤PluriSIn (pluripotent cell-specific inhibitors)-1に対する耐性をhPSCsにもたらすこと、RHO-ROCKパスウエイの不活性化が培養時の成長に有利なこと、さらに、PI3K-AKTとHIPPOのパスウエイがマウスin vivoでの奇形腫形成過程に重要なことを見出した。
  • PBトランスポゾンによるゲノムワイドスクリーンは、CRISPR-Casゲノムスクリーンと異り、標的を予め選択する必要がないが、それなりの限界も伴う。