1. セロトニン受容体5-HT2Aと第2世代統合失調症治療薬との複合体構造
[出典] "Structures of the 5-HT2A receptor in complex with the antipsychotics risperidone and zotepine" Terakado Kimura K [..] Iwata S, Shimamura T. Nat Struct Mol Biol. 2019-02-04. (crisp_bio注: 一部、PDIS後継プロジェクトAMEDのPlatform Project for Supporting Drug Discovery and Life Science Research (Platform for Drug Discovery, Informatics, and Structural Life Science)のサポートを受けた研究成果)
  • セロトニン2A受容体 (5-HT2AR)を標的とする医薬品が多数開発されている。ドーパミンD2受容体 (D2R)も標的とする第2世代統合失調症治療薬5-HT2ARを標的とし、セロトニン・ドーパミン拮抗薬 (serotonin-dopamine antagonist, SDA)に分類されている。これら5-HT2AR遮断薬は、他のアミン受容体に対しても非選択的な結合親和性を示すことに起因する副作用や、継続使用に伴う認知機能低下の副作用を伴うことが知られている。
  • 京都大学と東北大学の研究グループは今回、ヒト5-HT2ARと第2世代統合失調治療薬のリスペリドン またはゾテピン との複合体構造をX線結晶構造解析により明らかにし、5-HT2ARへの特異的な結合親和性を高める手がかりを得た。
  • リスペリドとゾテピンは、5-HT2ARの活性化を担うリガンド結合ポケットの底の残基群に直接接触しそれらの動きを阻害することで、5-HT2ARを不活性なコンフォメーションに固定する。
  • 5-HT2ARの全体構造は 5-HT2CRに類似していたが、5-HT2ARにはオルソステリック結合部位近傍にポケットから横へ細胞膜まで達する独特のキャビティーが伸びていた(side-extended cavity; 原論文 Fig. 1 c参照)。
  • 2016年にパーキンソン病治療薬として初めてFDAに承認されたピマバンセリン (pimavanserin)は5-HT2ARに対する高選択性拮抗薬である。このピマバンセリンを対象とするドッキング・シミュレーションおよび変異誘発実験から、ピマバンセリンが5-HT2AR独特のキャビティーに結合することが示唆された。
  • 今回、5-HT2ARのリガンド結合ポケットのコンフォメーションは、D2Rのリガンド結合ポケットとは、細胞外ループの1と2を明確に異にすることも明らかになった。
構造データ (2019/02/06時点で公開待ち)
  • PDB 6A93  Crystal structure of 5-HT2AR in complex with risperidone (2.70 Å分解能)
  • PDB 6A94  Crystal structure of 5-HT2AR in complex with zotepine (3.00 Å分解能)
2. [展望] 創薬に貢献する構造生物学者とPDB
[出典] "How Structural Biologists and the Protein Data Bank Contributed to Recent FDA New Drug Approvals" Westbrook JD, Burley SK. Structure. 2019-02-05.
  • PDB RutgersのWestbrookとBurleyによる展望:2010-2016年に米国FDAが承認した医薬品 (以下、NMEs/new drugs)210種類の研究開発には、構造生物学者が解きタンパク質構造データベースPDBから広く一般に公開された3次元構造データが貢献していた。
  • NMEsの94%についてその分子標的が明らかになっているが、PDBには、NMEsの88%に関連する既知の分子標的そしてまたは新薬を含む5,914種類の構造が含まれている。また、引用解析からその多くが公的資金による研究開発に多大な影響を与えることが明らかであり、また、50%以上が、承認の10年以上前から公開されていた。
3. [データベース] FDA承認ペプチド・タンパク医薬品データベースTHPdb (2017)
[出典] "THPdb: Database of FDA-approved peptide and protein therapeutics" Usmani SS, Bedi G, Samuel JS [..] Gautam A, Raghava GPS. PLoS One. 2017-07-31.
  • 研究論文 985編、特許 70件、DrugBankなどから239種類のFDA承認ペプチド・タンパク医薬品とそのバリアント380種類のデータを集積し、THPdb Webサイトから公開 (下図左右はそれぞれ原論文Fig. 1とFig. 2から引用したTHPdbの構造と概要)
2019-02-06 8.23.59 2019-02-06 8.24.09