[出典] NEWS AND VIEWS "Bigger is better in virtual drug screens" Gloriam DE. Nature. 2019-02-06;論文 "Ultra-large library docking for discovering new chemotypes" Lyu J, Wang S, Balius TE, Singh I [..] Shoichet BK, Roth BL, Irwin JJ. Nature. 2019-02-06

背景
  • 創薬におけるハイスループット・スクリーン (以下、HTS)が対象とする化合物ライブラリーの規模は数百万分子である。一方で、医薬品になり得る特性を備えた (drug-like)分子は1063種類存在すると推定されており、HTSが対象とする探索空間は膨大な分子空間のごく一部にとどまっている。加えて、HTSからの候補分子のうち目的とする活性を示す分子の割合は0.5%未満である。
  • Bryan Roth (UNC Chapel Hill)とJohn Irwin (UCSF)が率いる米国、中国、ラトビア、ウクライナの国際研究グループは、超大規模な化合物ライブラリーのバーチャル・スクリーンで絞り込んだ化合物を合成・アッセイすることで、ライブラリーの拡大が創薬パイプラインの効率化に貢献することを示した。
必要に応じて合成 (make-on-demand)可能な化合物を主とする超巨大なライブラリー構築
  • 研究グループは、ウクライナのEnamine社の130種類のよく知られた二成分反応に関与する70,000種類の化合物構成要素をもとにバーチャルな化合物ライブラリーの構築を開始し、追加更新を続け、論文刊行時には、3.5億の種類の創薬のリード化合物足り得る (lead-like)分子のデータベース"ZINC15" (Webサイト) を公開している。そのほとんどはカタログに記載されている既製品ではなく、Enmamine社のような企業で必要に応じて合成可能な化合物である。また、このライブラリの規模は1~2年で10億を超える見込みとしている。
検証実験
  • 研究グループは化合物ライブラリーの規模拡大の効果を、リガンドとデコイを混在させたライブラリーでのシミュレーションで検証するとともに、興奮性ドーパミン受容体の一種D4受容体と1億3,800万分子とのドッキング・シミュレーシン、ならびに、抗生物質分解酵素の一種であるAmpC β-ラクタマーゼと9,900万分子とのドッキング・シミュレーション検証した。
  • 検証実験でのバーチャル・スクリーングからの高スコアの分子のリストには、既知のリガンドとその近縁アナログが含まれていた。研究グループはこのリストの中でD4受容体リガンド549分子とAmpCリガンド44分子を合成し、その多くが薬理活性を示すことを確認した。
  • D4受容体については、バーチャル・スクリーンからの高いドッキング・スコアに基づいて選択した候補分子の中で生物活性を示した分子の割合 (ヒット率)が、スコアとともに単調に低下することを見出し、ヒット率とスコアの相関曲線から、ライブラリにはD4受容体のリガンドが453,000種類含まれていたと算定した。そのうち81種類が新奇化学種であり、30種類がサブマイクロモルの活性を示した。その中には、D4受容体に特異的に結合しD4受容体の近縁のD2受容体またはD3受容体には結合しない分子や、Giタンパク質とβアレスチンのシグナル伝達パスウエイを選択的に活性化する分子も含まれていた。
  • AmpCについては、これまでに知られていなかったフェノラート阻害分子を発見し、77 nMにまでの最適化に成功した。これは、非共有結合性AmpC阻害剤として最も強力である。また、X線結晶構造解析*で明らかにしたリガンド結合複合体構造はシミュレーション結果と整合した (* PDB ID: 6DPZ ; 6DPY ; 6DPX ; 6DPT)。
  • バーチャル・スクリーンからの高いドッキング・スコアに基づいて選択した候補化合物のヒット率は24%であり、専門家が目視で選択した候補化合物のヒット率と同等であったが、専門家が選択した化合物の方がより高い結合親和性と効果を示す傾向が見られ、専門家の知識と経験の価値が示された。
期待と課題
  • 今回、1〜2日のドッキング・シミュレーションから得られるスコアだけで候補分子の絞り込みを可能とする超大規模な化合物ライブラリーのバーチャル・スクリーンが、創薬の効率向上に貢献する可能性が示された。
  • この手法の普及には、実行環境に対する要求 (計算機資源とドッキング・シミュレーションのソフトウエアの性能およびライセンシング)、バーチャル・スクリーニングからオンデマンドで開発に至った医薬品の特許性、診断・治療の標的の分子によっては合成・アッセイするには未だ多すぎる候補分子数などの課題を解決する必要がある。