2023-03-01 Bio Protocol 誌刊行プロトコル論文の書誌情報と概要を追記
[出典] "CRISPR/Cas9-based Engineering of Immunoglobulin Loci in Hybridoma Cells" Gall CLM, Fennemann FL, Van Der Schoot JMS, Scheeren FA, Verdoes M. Bio Protoc 2023-02-20. https://doi.org/10.21769/BioProtoc.4613 ; [PubMed Central] https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9947551/ [著者所属] Radboud University Medical Center (Radboudumc), Oncode Institute, Leiden University Medical Centre (LUMC), Institute for Chemical Immunologyグラフィカルアブストラクト 
 KöhlerとMilsteinによるハイブリドーマ技術の開発は、研究開発におけるモノクローナル抗体 (mAbs) の日常使用を可能にし、免疫学分野に革命をもたらし、今日の臨床での成功につながった。臨床グレードのmAbを生産するためには、GMP満たした生産技術が必要であるが、学術研究所やバイオテクノロジー企業では、高収量の抗体を安定的に安価かつ容易に生産できるオリジナルのハイブリドーマ系統に依然として依存している。しかし著者らは、ハイブリドーマ由来のmAbを使用する際に、生産される抗体のフォーマットの制御ができないという大きな課題に直面した。
 著者らは、ハイブリドーマ細胞の免疫グロブリン(Ig)遺伝子座に直接、抗体を遺伝子工学的に組み込むことで課題を解決した。CRISPR-Cas9および相同組換え修復(HDR)過程を利用して、抗体のフォーマット(mAbまたは抗原結合断片(Fab'))およびアイソタイプの変更を実現した。
 このプロトコールでは、短い作業時間で、操作された抗体を大量に分泌する安定な細胞株を得ることができる。親ハイブリドーマ細胞を培養し、Ig遺伝子座の目的の部位を標的とするガイドRNA(gRNA)と、目的の挿入物と抗生物質耐性遺伝子をノックインするHDRテンプレートでトランスフェクションする。続いて、抗生物質の選択圧をかけることで、耐性クローンを拡大し、親タンパク質の代わりに改変型mAbを産生する能力を遺伝子レベルおよびタンパク質レベルで特性評価する。
 また、このプロトコルの汎用性を以下の例で示した:
(i) 抗体のH鎖定常領域を交換し、新規アイソタイプのキメラmAbを作製
(ii) 抗体を切断し、抗原ペプチドを融合したFab'フラグメントを作製し、樹状細胞標的ワクチンを作製
(iii) H鎖定常領域(HC)のCH1ドメインと、L鎖定常領域(LC)の Cκ鎖への部位選択的な修飾タグ導入による精製タンパク質のさらなる誘導体化
[関連先行論文]
 "Dual Site-Specific Chemoenzymatic Antibody Fragment Conjugation Using CRISPR-Based Hybridoma Engineering" Le Call CM [..] Verdoes M. Bioconjug Chem. 2021 Feb 17; 32(2): 301–310. https://doi.org/10.1021/acs.bioconjchem.0c00673グラフィカルアブストラクト 
2019-09-01 Science Advances 刊行論文の書誌情報を追記
2019-02-17 bioRxiv 投稿に準拠した初稿
[出典] "Functional diversification of hybridoma produced antibodies by CRISPR/HDR genomic engineering" van der Schoot JMS [..] Verdoes M, Scheeren FA. bioRxiv. 2019-02-15.
--> Science Advances 28 Aug 2019:Vol. 5, no. 8, eaaw1822

背景
  • モノクローナル抗体の臨床効果に、抗原に結合する可変領域と共に、定常領域 (Fc)もFc受容体 (FcRs)との結合を介して影響することが近年の前臨床・臨床試験から明らかになってきた。
  • 例えば、2018年に免疫チェックポイント阻害抗体薬イピリムマブの臨床効果が、定常領域 (Fcγ)に対するFcγRの変異 (V158F: FcγRIIIa多型:)を介して高まることが示された (Frederick Arce Vargas et al, 2018)。
  • そこで、Fcを改変することで抗体依存性細胞障害性 (ADCC) の高いアイソタイプを調製することが考えられる。
CRISPR/HDRプラットフォーム
  • Fc改変は、Fcをコードする配列が固定されていることから、抗体医薬の研究開発に利用されてきたこれまでのハイブリドーマ技術では実現困難であった。
  • Radboud University Medical CenterやLeiden University Medical Centerその他のオランダの研究グループは今回、CRISPR/相同組み換え修復 (HDR)に基づき、タグまたは変異の自在な組み込みこんだFcを多様なフォーマットで分泌可能とする組み換えハイブリドーマの効率的調製を実現した (Science Advances 刊行論文Fig. 1とFig. 2から引用した下図のCRISPR/HDR編集手法概要図参照)。Hybridoma
実証
  • このCRISPR/HDRプラットフォームを利用して、研究グループは、C'末端をSortagまたはHistagで化学標識したFabを分泌するハイブリドーマを調製した。さらに、内在定常領域の上流に新奇定常領域を挿入することで、設計したアイソタイプのキメラ抗体、および、抗原特異性を損なうことのないFc変異体 (Fc-silence)を分泌するハイブリドーマを調製した。
  • 得られた抗体は安定であり、ハイブリドーマ培養上清から容易に分離可能であり、in vitroおよびin vivoで、設計した生化学的および免疫学的特性を示した。定常領域の編集を可能とするCRISPR/HDRプラットフォームは、任意の生物種またはアイソタイプに展開可能である。
CRISPR/Cs9技術による抗体工学
  • これまでにCRISPR/Cas9を利用した抗体のハイスループット・スクリーニングや抗体依存性細胞障害活性 (ADCC)の向上が試みられてきたが、Fcの編集は初の試みである。
  • CRISPRメモ_2018/09/28 [第6項] [プロトコル] CHO細胞における抗体のフコシル化をCRISPR/Cas9遺伝子編集で排除
  • CRISPRメモ_2018/09/24 [第2項] [プロトコル] 抗体を安定発現するハイブリドーマを作出するプラットフォームをCRISPR-Cas9技術で構築
  • CRISPRメモ_2018/05/03[第1項] CRISPR/Cas9 HDRを介して哺乳類細胞での抗体ハイスループット・スクリーニングを実現
  • CRISPRメモ_2018/02/04 [第5項] CRISPR/Cas9により、均質性、再現性、有効性、製造性およびコスト面で優れた抗体部位特異的修飾を実現