crisp_bio注:本投稿の引用論文はCell誌1月24日号に掲載された姉妹論文

1. 構造を安定化するナノボディ探索を経て、AT1R活性状態のX線構造解析を実現
[出典] “Distinctive Activation Mechanism for Angiotensin Receptor Revealed by a Synthetic Nanobody” Wingler LM, McMahon C, Staus DP, Lefkowitz RJ, Kruse AC. Cell. 2019 Jan 24;176(3):479-490.e12. Online 2019-01-10;構造データ PDB-6DO1 Structure of nanobody-stabilized angiotensin II type 1 receptor bound to S1I8 (2.901 Å) 
  • アンジオテンシンⅡ (AngII) タイプ 1 受容体(AT1R)は、心血管機能と腎機能の鍵と握る調節因子であり、また、GPCRを巡るシグナル伝達研究のモデルでもあり、構造解析が試みられてきた。しかし、AngIIのようなペプチド・リガンドが結合しているAT1Rの結晶化は困難であり、アゴニストが結合した活性状態のAT1Rの立体構造は解かれていなかった。
  • Duke University Medical Center (Robert J. Lefkowitz)とHarvard Medical School (Andrew C. Kruse)の研究グループは今回、Kruseグループが構築していた酵母表層ディスプレイ・ライブラリ(Nat Struct Biol, 2018)から探索したナノボディ  'Nb.AT110i1'を利用することでAT1Rのコンフォメーションの安定化を実現し、パーシャル・アゴニスト活性を示すAngIIアナログ'Sarcosine1,Isoleucine8-AngII (S1I8)'の結合によって活性化した状態のAT1RのX線結晶構造解析に至った。ナノボディ'Nb.AT110i1'*は、AT1Rの細胞質内のトランスデューサが結合するポケットに結合し、活性状態のGPCRsに発生する大規模なコンフォメーションを安定化していた (* PDBj万見から画面キャプチャした下図左下/右下参照)。
2019-02-18 9.49.09
  • AngIIアナログ'S1I8'ペプチドは、AT1Rとの一連の極性および無極性相互作用を介して伸長した状態でAT1Rに結合し、そのN末端はAT1Rの細胞外面の狭い開口部で溶媒に接触し、C末端はAT1Rのコア深くに位置していた (上図コアの中央情報部分参照)。
  • AngIIアナログ'S1I8'ペプチドのAT1Rへの結合は、他のGPCRとは異なる分子機構を介して、AT1Rのコアから細胞内領域へと伝搬するAT1Rのコンフォメーション変化を誘導することも明らかになった。
  • PDB登録構造 (PDB ID 6DO1)は、Cellの姉妹論文で報告したAT1Rの4種類のコンフォメーションのうち、Gタンパク質Gpとの共役を誘導するアゴニストが結合したコンフォメーションと整合した。
2. DEER分光法により、種々のバイアス型アゴニストに特有なAT1Rのコンフォメーションを同定
[出典] “Angiotensin analogs with divergent bias stabilize distinct receptor conformations” 
Wingler LM, Elgeti M, Hilger D, Latorraca NR, Lerch MT, Staus DP, Dror RO, Kobilka BK, Hubbell WL, Lefkowitz RJ. Cell. 2019 Jan 24;176(3):468-478.e11. Online 2019-01-10.

バイアス型アゴニストの構造基盤
  • GPCRには、Gタンパク質を介したシグナル伝達またはβ-アレスチンを介したシグナル伝達のいずれか一方を活性化するバイアス型アゴニストが存在するが、その構造基盤は詳らかにされていない。
  • Duke University Medical Center (Robert J. Lefkowitz), Stanford University School of Medicine (Brian K. Kobilka), Stanford UniversityおよびUCLAの研究グループは、電子–電子二重共鳴(double electron-electron resonance, DEER)分光法によって、リガンドがAT1Rにもたらすコンフォメーション変化を探った。
  • DEER分光法においてAT1Rの細胞内ドメインの6ヶ所を標識したニトロオキシド間の10組の15-80Åの距離から、AT1Rに、リガンドの機能クラスに対応する4種類のコンフォメーション (Aclosed; Aoccl1; Aoccl2; Aopen)を見出した。
アンジオテンシンⅡタイプ I受容体 (AT1R)のアゴニズム (agonism)
  • AT1Rは、その2種類のバイアス型アゴニストについて細胞内シグナル伝達とin vitro
  • トランスデューサーとの共役活性が詳細に解析されており、いわば、バオアス型アゴニズムのモデル受容体である。
  • 内在アゴニストのアンジオテンシンⅡ (AngII)に比較すると、‘‘Gq-biased’’ AT1Rアゴニストは、Gqを介した細胞内シグナル伝達の活性化ならびにGqとのアロステリックな共役へと、より有効に作用するが、β-アレスチンを介した細胞内シグナル伝達にも同程度の作用を及ぼす。一方で、"β-arrestin-biased"リガンドは、β-アレスチンを介した細胞内シグナル伝達を活性化するが、Gqを介した細胞内シグナル伝達を誘導しない。
  • 生理学的には、Gqを介したAT1Rシグナル伝達は血圧を上げ、β-アレスチンを介したシグナル伝達は心収縮力を強め心臓の機能を高める。したがって、降圧剤としてGqとβ-アレスチンを介した2種類のシグナル伝達をいずれも阻害する薬剤を、Gqを介したシグナル伝達を選択的に阻害する薬剤に替えることで、AT1Rの有用な機能を損なうことなく血圧を下げることが可能になる。
DEERによる解析結果
  • 三量体Gタンパク質のサブファミリーGqと共役するアゴニストは、トランスデューサーが結合可能な‘‘open’’コンフォメーションAopenを維持する。
  • Gqと共役せずβ-アレスチンを介したシグナル伝達を活性化するアゴニストはAopenを維持することなく、より閉鎖的な二種類のコンフォメーションを誘導する (Aoccl1とAoocl2)。
  • アンジオテンシン受容体阻害剤 (angiotensin receptor blockers, ARBs)は、不活性なコンフォメションAoffを誘導する。
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