(創薬等PF・構造生命科学ニュースウオッチ 20160517)

  1. [論文] グルカゴン受容体の新奇リガンド結合部位:Fiona H. Marshall (Heptares Therapeutics Ltd)
    • グルカゴン(glucagon)は主として膵臓のランゲルハンス島のA細胞(α細胞)で生合成・分泌される29アミノ酸残基からなるペプチドホルモンであり、肝細胞に作用してグリコーゲン分解を促進してグルコース恒常性を維持する。グルカゴンに拮抗する低分子は糖尿病治療薬候補である。
    • グルカゴン受容体(G-protein coupled glucagon receptor, GCGR)は、7回膜貫通型タンパク質でクラスB GPCRの一種である。クラスB GPCRへのリガンド結合については、例えば、副腎皮質刺激ホルモン放出因子受容体1(CRF1R)では膜貫通領域深くのポケットが特定され、ヒト・グルカゴン受容体では細胞外ドメインのポケットへの結合モデルが提唱されている。
    • Heptares Therapeutics Ltdの研究チームは今回、X線結晶構造解析によって、GCGRと低分子MK-0893の複合体の構造を解き、これまでに知られていなかったアロステリック結合サイト(リガンドが膜貫通領域の外、細胞質側の細胞膜)を同定した(挿入図「グルカゴン受容体」参照)。
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  2. [論文] アデノシンA2A受容体のコンフォメーションと活性状態の対応関係:Oliver P. ErnstR. Scott Prosser(University of Toronto)
    • クラスAのGPCRに属するアデノシンA2A受容体(A2AR)は様々な生理作用を有し、重要な薬剤標的の一つである。
    • [これまでに、β2ARについて19NMR解析によって明らかにされていたこと]
      • アポ構造で不活性な状態では2種類のコンフォメーション(S1とS2)の間を高速で入れかわり、アゴニストが結合して活性な状態ではS1とS2の間をゆっくりと揺れ動くコンフォメーション(S3)をとり、さらに、Gタンパク質をミミックしたナノ粒子を加えると完全に活性な状態(S4)となる。
    • [今回、A2ARについて明らかになったこと]
      • 19NMR解析によって、A2ARの動態を観測し、β2ARの動態とは対照的に、アポ状態でも不活性状態と活性状態それぞれ2種類、計4種類のコンフォメーションが平衡状態を保っていることを見出した。
      • リガンドの結合によって、4種類のコンフォメーションの分布が変化する:インバースアゴニストを加えると不活性状態コンフォメーションの割合が増加;完全アゴニストを加えると活性化状態コンフォメーションの一つに安定化;部分アゴニストまたはアロステリック修飾因子を加えると、もう一種類の活性化状態コンフォメーションの割合が増加。
  3. [論文] 線虫ミトコンドリアのカルシウム単輸送体(mitochondrial calcium uniporter, MCU)の構造:James J. Chou (Harvard Medical School)
    • Ca2+は単輸送体によってミトコンドリア膜を通過するが、MCUはCa2+が通過するポアを形成しているサブユニットである。
    • 米国と中国の共同研究チームは今回、NMR解析法とネガティブ染色電子顕微鏡解析を組み合わせることで、NMRで解析された分子の中でも最大規模の膜タンパク質MCUの全体構造を明らかにすることに成功した((挿入図「カルシウム単輸送体」参照))。
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    • MCUのアミノ酸配列には既知のイオンチャネルのアミノ酸配列との相同性がないところ、ポアの構造(イオン選択フィルター、イオンが通過するポア、および細胞外ドメイン)も全く新奇な構造であった。
    • 今回明らかになった構造をもとに、今後、Ca2+の結合と輸送の分子機構および出口を明らかにしてくことになろう。

1 論文→Ali Jazayeri et al. “Extra-helical binding site of a glucagon receptor antagonist.” Nature. 2016 Apr 25;533:274-277. Published online 2016 Apr 25. Corrected online May 12.

1 構造→5EE7: Crystal structure of the human glucagon receptor (GCGR) in complex with the antagonist MK-0893 (分解能 2.5 Å)

2 論文→Libin Ye et al. “Activation of the A2A adenosine G-protein-coupled receptor by conformational selection.” Nature. 2016 May 4;533:265-268.

3 論文→Kirill Oxenoid et al. “Architecture of the mitochondrial calcium uniporter.” Nature. P2016 May 2;533:269-273.

3 NMRデータ→BMRB 30021

3 構造→5ID3: Solution structure of the pore-forming region of C. elegans Mitochondrial Calcium Uniporter (MCU)