(創薬等PF・構造生命科学ニュースウオッチ 20160518)
  • Corresponding author: Paolo Sassone-Corsi (University of California, Irvine (UCI))
  • 概日時計は精密な分子機構を介して生物の代謝と生理を調節しているが、光や栄養といった外的要因のリズム(ツァイトゲーバー)に容易に同調する。それでは、体内のある組織に生じた病的状態が、他の組織における概日リズムに対するツァイトゲーバーになり得るのか、なり得るとすれば、その機序は。
  • UCIとMITの研究チームは、トランスクリプトーム解析とメタボローム解析によって、肺腺癌が肝臓特異的に概日リズムを変調することを、KrasG12D 変異を導入し腫瘍抑制因子p53を欠損させた肺腺癌モデルマウスにおいて見出した。
  • 肺腺癌は、概日リズムを形成・維持するコアの遺伝子/タンパク質群には影響を与えず、STAT3-Socs3のパスウエイを介した炎症亢進応答によって、肝臓の概日リズムを変調していた。その結果、AKTAMPKおよびSREBPのシグナル伝達が阻害され、インスリン、グルコースおおび脂質代謝のリズムが改変されていた。
  • Princess Margaret Cancer CentreのR. A. CairnsとT. W. MakCell Matbolism 誌のプレビューで、本論文を紹介するとともに、新たな課題を投げかけている:腫瘍由来の代謝物の関与は?;肝臓組織の中で応答している細胞の種類は?;肺における他の疾患も肺腺癌と同様な作用を示すのか?;他の組織におけるがんが肝臓に対して同様な作用を示すのか?;肝臓における概日リズムの変調をがんの診断に応用できないか?;腫瘍組織と遠位の組織の間のコミュニケーションの機構や、組織間の概日リズムの同調関係の解明へ;概日リズムを意識した抗がん剤の開発と用法の研究が進んでいるところ、薬物代謝を担う肝臓に関する今回の知見を活かしていくべき。