出典
  1. "China’s CRISPR twins might have had their brains inadvertently enhanced" Regalado A. MIT Technology Review. 2019-02-19.
  2. Zhou et al. "CCR5 is a suppressor for cortical plasticity and hippocampal learning and memory"  Zhou M, Greenhill S [..] Fox K, Silva AJ. eLife 2016-12-20
  3. Joy et al. "CCR5 Is a Therapeutic Target for Recovery after Stroke and Traumatic Brain Injury" Joy MT [..] Carmichael ST. Cell. 2019-02-19.
  4. YouTube 2018-12-03 International Summit on Human Genome Editing - He Jiankui presentation and Q&A. Society and Ethics Research Wellcome Genome Campus. YouTube 2018-12-03 
  5. "How do HIV elite controllers do what they do?" Saag M, Deeks SG. Clin Infect Dis. 2010-07-15.
  6. "Frequencies of gene variant CCR5-Δ32 in 87 countries based on next-generation sequencing of 1.3 million individuals sampled from 3 national DKMS donor centers" Human Immunology. 2017-10-05.
CRISPRbabies
  • 賀建奎らの「HIV感染・予防を名目とするCRISPR技術によるヒト胚でのCCR5ノックアウト」については、ヒト胚ゲノム編集の本来的な倫理の観点から始まるさまざまな批判がされてきた (2018-12-04crisp_bio記事 ”CRISPR遺伝子改変ベビー中国で誕生か(4) 論点整理 - 関連記事を順次追加”参照)。その中には、恣意的で不十分なインフォームド・コンセントに対する批判、導入された変異プロファイルに対する批判、HIV感染から胚を守る手段がすでに存在しまたヒト胚ゲノム編集そのものおよびCCR5欠損がもたらす'影響'が未知であるところでの実施に対する批判、が含まれていた。
  • '影響'については例えば、第2回ヒトゲノム編集国際サミットでの講演後の質疑応答で、座長からCCR5のノックダウンまたはノックアウトによるマウス脳機能向上の論文 (Zhou et al, 2016)について問いかけがあり、賀建奎は、「(論文を知っているが) その内容には第三者の検証が必要である」とし、また「ゲノム編集を'enhancement'に利用することには反対する」と応じた(YouTube 2018-12-03)。
  • Zhou論文は、CCR5のノックダウン、ノックアウトおよび過剰発現実験から、CCR5が皮質可塑性と海馬による学習記憶を抑制することを見出し、HIV患者に見られる認知障害の一因が、ウイルスによるCCR5の過剰発現であることを示唆した。
  • CCR5阻害剤であるマラビロクは、2007年にHIV治療薬としてFDAに承認されたが、現在、脳卒中からの機能回復を目的とする第2/3相試験がUCLAにて進行中である (ClinicalTrials.gov)。
CCRB5と脳損傷の予後
  • UCLAとHebrew University of Jerusalemなどの米国・イスラエルの研究グループは今回 (Joy et al, 2019)、CCR5と脳卒中あるいは外傷性脳損傷 (Traumatic Brain Injury, TBI)の予後との相関を解析した。
  • マウスモデル:脳卒中後、CCR5が皮質ニューロン特異的に発現するが、運動前野においてCCR5をノックダウンすると、運動制御能力の回復が早まり、この回復は、基質的変化とCREBおよびDLKシグナル伝達の上方制御を伴う。CCR5ノックダウンはTBI後の認知障害も改善する。また、HIV治療薬のCCR5阻害薬マラビロクも、脳卒中後の運動能力回復と、TBI後の認知障害からの回復を誘導した。
  • ヒトにおけるCCR5変異:臨床試験のコホートにおいて、CCR5 (CCR5-Δ32)機能喪失変異を帯びている参加者の脳卒中後の運動能力と認知能力の回復が早いこと見出した。
CCR5-Δ32の意味
  • CCR5-Δ32はHIV感染耐性を帯びた'エHIV elite controllers'の遺伝的特徴であり、賀建奎らもそれを目指したヒト胚ゲノム編集を行った。しかし、得られた変異体はCCR5-Δ32でないことが指摘されていた (Searn Ryder 2018-11-29ツイート)。
  • Joy論文とZhou論文は、賀建奎らのゲノム編集がHIV elite controllersのCCR5変異を再現できなかった一方で、ヒトの'enhancement'を達成た可能性を示唆する。
  • ヒト胚ゲノム編集を巡る議論ではこれまでに、他に治療法が存在しない致死的な疾患の治療に限り認める一方で'enhancement'には認めないとする方向が見えてきている。今後こうした議論において、'疾患とは何か'、'enhancement'とは何か、'通常・正常'とは何か、治療効果と同時にenhancement効果をもたらすヒト胚ゲノム編集の位置付け、を改めて問われることになる。
関連crisp_bio記事:2019-02-27 賀建奎らによるヒト胚でのCCR5遺伝子編集の意味を改めて考える (2)