CRISPR-Casシステムによる遺伝子編集の精度向上とともに、塩基編集 (base editor, BE)の精度向上の努力が続いているところ、C→T置換を実現するBE (CBE)が、イネとマウス胚において大規模なオフターゲットSNVsを誘導するとする報告がScienceから刊行された。
[crisp_bio注] 関連RESEARCH HIGHLIGHT: "Cytosine base editors go off-target" Wrighton KH. Nat Rev Genet. 2019-03-13;"Off-Targeting of Base Editors: BE3 but not ABE induces substantial off-target single nucleotide variants" Xin H, Wan T, Ping Y. Signal Transduct Target Ther. 2019-04-12.

1. BE3とHF1-BE3はイネにおいてオフターゲット変異をゲノム全域にわたり誘導する
[出典] "Cytosine, but not adenine, base editors induce genome-wide off-target mutations in rice" Jin S, Zong Y, Gao Q [..] Gao C. Science. 2019-02-28.
  • 全ゲノムシーケンシングによりイネ個体内in vivoでのオフターゲット編集を評価し、Cas9をベースにしたBE3、HF1(高精度版)Cas9をベースにしたHF1-BE3によるシトシン塩基置換、および、ABEによるアデニン塩基置換の結果を評価し、ABEを除き、BE3とHF1-BE3のいずれもがゲノム全域にわたりオフターゲット変異を誘導することを見出した。
  • オフターゲット変異の殆どはC >T SNVsであり、転写される遺伝子領域にエンリッチされており、また、現在利用されているin silicoの手法では予測できなかったオフターゲットであった。
  • sgRNAを伴わないBE3またはHF1-BE3もまたゲノムワイドでのSNVsを誘導した。
2. BE3はマウス胚において大量のオフターゲットSNVsを誘導する
[出典] "Cytosine base editor generates substantial off-target single-nucleotide variants in mouse embryos" Zuo E,  Sun Y, Wei W, Yuan T [..] Steinmetz LM, Li Y, Yang H. Science. 2019-02-28.
  • 2細胞期のマウス胚遺伝子編集において、CRISPR-Cas9またはアデニン塩基編集 (ABE)が誘導するオフターゲットSNVsの頻度は自然変異と同程度であるが、シトシン塩基編集 (BE3)が誘導するオフターゲットSNVsの頻度は20倍を超える。
  • 本研究については、bioRxiv 2019-11-27投稿版に基づく「2018-11-28 BE3とCas9がオフターゲットとオンターゲットに誘導する変異プロファイル2報 [第1項] 一塩基編集(BE3)はオフターゲットSNVsを顕著に誘発する」にて紹介済み。 
CBEとABE関連crisp_bio記事
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