(創薬等PF・構造生命科学ニュースウオッチ 2016/06/10)
- [IN DEPTH] 細胞にバーコードを埋め込む
- Author: Kai Kupferschmidt (Science editor)
- Science 6月3日号のIN DEPTH欄は、 A. F. Schier (Harvard U.)とJ. Shendure (U. Washington)らのGESTALT(genome editing of synthetic target arrays for lineage tracing)法と、T. K. Lu (MIT)らのmSCRIBE(Mammalian Synthetic Cellular Recorder Integrating Biological Events)法を取り上げて、CRISPR/Cas9によって細胞にバーコード/メモリー素子を埋め込む技術の開発が進んでいるとした。
- [論文] 細胞バーコード:GESTALT(genome editing of synthetic target arrays for lineage tracing)法
- Corresponding authors: Alexander F. Schier (Harvard U.);Jay Shendure (U. Washington)
- [情報拠点注]本論文はニュースウオッチ2016年5月31日のCRISPR関連文献メモ (crisp_bioブログ再録へのリンクはこちら) にてもご紹介。本記事はIN DEPTHに準じた要約。
- ゼブラフィッシュ胚のゲノムへCRISPRの標的とする配列10種類からなるDNAカセットを挿入し、1細胞期胚にCas9と標的配列を認識するgRNAを導入;Cas9によってDNAカセットに発生するindelsがバーコードに相当;細胞分裂の際に、それまでに発生していたバーコードが娘細胞へと引き継がれる(原論文 Grapical Abstract参照)。
- 2細胞期に新たなバーコードが出現〜4ヶ月後に20万個の細胞から1,000種類のバーコードを同定;バイオインフォマティクスによって細胞系譜を再構築し、各器官の細胞に共有されているバーコードの種類がきわめて少数であることなど発見;GESTALTにも精度など問題が残っているが、細胞分裂を追跡する既存の手法のいずれよりも強力で使い易い。
- [論文] 細胞バーコード:mSCRIBE(Mammalian Synthetic Cellular Recorder Integrating Biological Events)法
- Corresponding author: Timothy K. Lu (MIT)
- mSCRIBE法は、self-targeting guide RNA (stgRNA)の上に成立している;stgRNAは、sgRNAのスペーサー直下の配列をSp Cas9が認識するPAM配列に改変することでsgRNAをコードするDNA(以下、stg_DNA)を標的とするように設計したsgRNAである
- 「stg_DNAから発現するstgRNAが誘導するCas9がstg_DNAにindelsを生成し、変異したstg_DNAから転写された変異stgRNAが、変異sgRNA_DNAにさらにindelsを形成する」ことが繰り返される;stgRNA_DNAに蓄積されていくindelsがバーコード(原論文では“analog memory”)に相当する;“analog memory”は次世代シーケンシングで読み出す。
- 誘導可能なCas9を利用した実験で得たstg_DNAの変異の変遷のデータに基づいてstgRNA活性の指標を設定;NF-κB誘導性Cas9発現カセットとstgRNAを組み込んだHEK293T細胞を胸腺欠損ヌードマウスに移植し、リポ多糖(LPS)の注入回数とstgRNA活性指標が相関することを確認。
- この“analog memory”は、前項のように外部刺激に対するがん細胞や神経細胞の応答の解析に応用可能;あるいは、stgRNAsをセットしたES細胞から成体に至るまでの細胞系譜を、in situ RNAシーケンシングによって追跡することも可能
- [情報拠点注] 2016年5月にbioRxiv. に投稿後、8月にScience からオンライン出版された:
Samuel D. Perli, Cheryl H. Cui & Timothy K. Lu. “Continuous genetic recording with self-targeting CRISPR-Cas in human cells.” Science. 2016 Sep 9;353(6304). Published online 2016 August 18.
- [論文] 細胞バーコード:hgRNA(homing guide RNA)
- Corresponding authors: Prashant Mali (UCSD); George Church (Harvard U.)
- gRNA遺伝子座自身を標的とするCRISPR/Cas9システムを発想し、sgRNAのスペーサーの直下の配列を’GUU’から、Sp Cas9が認識するPAM配列’GGG’へ改変しhgRNAと命名した(原論文 Supplementary Figure 1参照;情報拠点注:結果的に前項stgRNAと同一)。Cas9の発現を誘導後、hgRNA遺伝子座に蓄積されていく変異がバーコードに相当。
- 細胞系譜追跡にはin vivo でバーコード読み出し可能にすることが望ましいことから、蛍光 in situ ハイブリダイゼーション(FISSEQ)によるhgRNA遺伝子座の解析を可能にする技術を開発;hgRNA遺伝子座はシャノン情報エントロピーで言うところの5 bitsの情報を蓄積可能であり(2の5乗の32状態を記録可能であり)、マウスの脳細胞(〜7,500万個)と全身の細胞(〜120億個)を、それぞれ6つ(〜7,500万個)と7つのhgRNA遺伝子座で識別可能になる。
- [レビュー] CRISPR革命の次の到達点はエピジェネティクス制御
- Corresponding author: George Church (Wyss Inst./Harvard Medical School)
- CRISPR/Cas技術による転写制御ならびにエピジェネティク制御の最新動向とベスト・プラクティス・ガイド・ラインをレビューし、今後の応用展開を展望.
- ゲノム・エビジェネティク編集ツールボックスの拡張
- Cas9紹介;転写活性化(第1世代;第1世代強化版;第2世代);エピジェネティック・マークの活性化;転写抑制(CRISPRi;CRISPRi+KRABなど);多重な活性化と抑制;
- 懸案事項
- 目的に最適なツールを選択可能にする種々のツール間の編集効率の比較が必要
- 目的とする編集のコンテクストを意識したオフターゲット作用の予測が必要
- システムの細胞/in vivo への送達法の改良が必要
- 応用例の現状と将来
- 実施例:ゲノムワイドの機能喪失スクリーニングと機能獲得スクリーニング;細胞リプログラミング;ヒト疾患治療;in vivo 応用(Cas9マウスの作出など);
- 将来:lncRNAsのスクリーニング;転写/エピジェネティック制御による遺伝子治療;
1 IN DEPTH→Kai Kupferschmidt. “CRISPR views of embryos and cells.” Science. 2016 Jun 3;352(6290):1156-7.
3 論文→Samuel Perli, Cheryl Cui & Timothy K. Lu. “Continuous Genetic Recording with Self-Targeting CRISPR-Cas in Human Cells.” bioRxiv. Posted online 2016 May 20.;Science. 2016 Sep 9;353(6304). pii: aag0511. Online 2016-08-18.
コメント