[出典] "Enabling large-scale genome editing by reducing DNA nicking" Smith CJ, Castanon O [..] Church GM. bioRxiv. 2019-03-15; V2 04-04. (# 2019-12-13 「塩基編集 (BE)により、一細胞内のLINE-1 26,100コピーのほぼ半数の同時不活性化を実現」から改題)

概要
  • HMS/Wyss InstituteのGeorge M. Churchをはじめとする米国、フランス、スエーデンならびにスペインの研究グループは、ゲノム編集のフロンティアを広げて「ゲノムを書く (GP-write)」 といった徹底的なゲノムの再設計を可能にすることを目的として、dCas9を利用した塩基編集 (base editor),  dBEs, の一連のバリアントを利用し、DNA二本鎖切断 (DSBs)と一本鎖切断 (SSBs)に伴う細胞死を回避しつつ一細胞内の数万の遺伝子座の同時編集を実現した。
  • 具体的には、一細胞におよそ31から124,000のコピーが存在する反復配列を標的とするgRNAsのセットを用意し、293T細胞株とヒトiPSCs (hiPSCs)において、それぞれ最大~13,200遺伝子座と~2,610遺伝子座への標的変異変異を実現した。これは先行研究の3桁増に相当する。
多コピーの転移因子 (transposable elements, TEs)編集
  • Alu, LINE-1あるいはヒト内在レトロウイルス (HERV)といったTEsは、かっては"ジャンクDNA"とされていたが、今では、トランスポジション活性がヒトのゲノム進化や、生理と疾患に関与することが知られている。例えば、ヒトゲノムの17%を占めるLINE-1はヒト神経疾患と老化に関与することが示唆されており、AluとHERVはそれぞれ老化と多発性硬化症と相関するとされている。
  • TEsの機能を検証するには、それぞれのTEsの不活性化実験が有効であるが、現在の遺伝子編集法が容易には対応できない規模の数のコピーを編集する必要があり、また同時編集が可能になったとしても、Cas9エンドヌクレアーゼによる不活性化は、細胞内在修復能力を超える多数のDSBsを伴うことから、細胞生存が脅かされることになる。
  • これまでに同時不活性化が実現したTEsの最大数は、ブタ細胞株におけるブタ内在レトロウイルス (PERVs)の62に止まっている。
  • Cas9に対して、Cas9の2つのヌクレアーゼをいずれも不活性化したdCas9または1つのヌクレアーゼを不活性化したnCas9にシチジンデアミナーゼを結合したC:G-to-T:A置換BE (CBEs: dCBEsまたはnCBEs)、ならびに、アデニンデアミナーゼを結合した A:T-to-G:C置換(ABEs: dABEsまたはnABEs)が開発され、例えば、コーディング領域に終止コドンを誘発することで遺伝子を不活性化するといった遺伝子編集を、DSBを介さずに実現可能となった。しかし、Cas9ではなくCBEsまたはABEsを利用すれば、TEsのように多コピーの標的を一細胞内で同時に編集することが可能な否かについては、検証されて来なかった。
成果
  • はじめに、HERVのサブファミリーの一つであるHERV-W、LINE-1およびAluエレメントのコピー数を、HEK293T細胞ではそれぞれ 36、26,100、161,000、PGP1 iPSCsではそれぞれ32, 19,000, 124,000とqPCRコピー数から算定した。
  • Cas9、nCBEとnABE、dCas9-CBE4 (dCBE4)、dCas9-CBE4-gam (dCBE4-gam)、およびdCas9-ABE (dABE)による多コピーのTEsへの変異誘発の結果を比較した。
  • HEK293T細胞では、Cas9による編集は細胞死を誘導し、nCBEとnABEによる編集では数百の変異誘発を伴った安定な細胞が得られたところ、LINE-1を標的としたdCBE4-gamにより6,292サイトまでの変異誘発を、dABEによって13,200サイトまでの変異誘発を、達成した。hiPSCsでは、2,600サイトまでの変異誘発を達成した。
関連crisp_bio記事