[出典] "Precise gene replacement in rice by RNA transcript-templated homologous recombination" Li S [..] Zhao Y, Xia L. Nat Biotechnol. 2019-03-18.

植物における遺伝子置換の課題
  • CRISPRシステムが誘導する二本鎖DNA 切断(DSB)は、非相同末端結合 (NHEJ)そしてまたは相同組み換え (HR)過程を経て修復される。精密な遺伝子置換は、indels発生などで修復誤りの多いNEHJではなく、精密なHDRを介して実現可能である。
  • しかし、このHDR遺伝子置換を植物で実現するには、2つの問題があった。第1に、植物のDSBは主としてNHEJで修復され、HDRは稀なこと、第2に、修復用のDNAまたはRNAからなるドナーテンプレート (donor repair template, DRT)を細胞核へ送達する効率が極めて低いことである。たしかに、細胞壁を除去したプロトプラストへは効率良い形質転換を実現できるが、プロトプラストからの個体再生は極めて非効率的という課題を伴う。細胞壁を伴った植物細胞へのパーティクル・ガン法やウイルス・レプリコンによるDR送達も試みられてきたが、依然として、植物のHDR遺伝子置換は難題のままであった。
  • DRTの送達については、DRTとなるRNA転写産物をin vivoで生成することで (transcript-templated HDRTT-HDR)、細胞外から細胞核へDRTを送達する課題が解決するが、一次転写物であるmRNA前駆体がプロセッシングを受けて細胞質へと輸送されてしまう問題を回避することが必要になる。
  • 一方で、合成RNAオリゴヌクレオチドをDRTとしてHDR酵母とヒト細胞で実証され、続いて、H. Keskinらが (Nature 2014; Fig. 3モデル図参照)、S. cerevisiaeにおいて内在RNA転写産物がDRTとして機能することを報告した。また、H. Buttら(Front Plant Sci. 2017)が、CRISPR-Cas9にgRNAとDRTの双方の機能を帯びたキメラsgRNA (cgRNA)のプロトプラスト形質転換によるイネのHDR遺伝子置換を報告した (CRISPRメモ_2017/08/17 [第2項] キメラsgRNA(cgRNA)を組み入れたCRISPR/Cas9によるイネの効率的ゲノム編集)。
  • 中国科学院作物科学研究所と華中農業大学ならびにUCSD (兼任)の研究グループは、H. Buttらの結果は、RNAがDRTとして機能した結果のHDR遺伝子置換であるか定かではなかったとし、改めて、CRISPR-CasシステムとTT-HDRを組み合わせたHDR遺伝子置換法開発を進めた。
成果概要
  • Cpf1とTT-HDRを組み合わせることで、イネにおいてアセト乳酸合成酵素 (ALS)遺伝子モデルとして、HDRを介した変異型への遺伝子置換を実現し、目的とした変異が導入された変異体2種類のイネ系統を樹立した。ただし、置換がALS遺伝子の一部にとどまる事例も生じ、DSB修復時にDRTのスイッチングが起こることが示唆された。
実験手法
  •  Cpf1の選択:研究グループは、CRISPRエフェクタとして、crRNA前駆体を切断し成熟crRNAを生成する機能と、crRNAに誘導されて標的DNAを切断する機能の双方を備えているCpf1 (Cas12a)を選択した。Cpf1はまた、dsDNA切断時に5'末端が突出した粘着末端を残すことから、HDRを促進することも期待できる。具体的には、ヒトと植物細胞で活性が証明されているLachnospiraceae bacterium ND 2006由来Cpf1 (LbCpf1)を使用した。
  • その上で、モデル遺伝子としてALS遺伝子を選択し、ALS遺伝子の2ヶ所を標的とするcrRNA1とcrRNA1、加えて、2種類のALS変異遺伝子の配列と相同アームからなるDRTのRNP複合体を、パーティクル・ガン法でイネ・カルスに打ち込んだ。
  • リボザイムの利用:2つのcrRNAsはそれぞれ一対のリボザイム (ハンマーヘッド型リボザイム'HH'とデルタ型肝炎ウイルス由来リボザイム'HDV')の間に配置し、細胞核内での転写時にリボザイムの自己切断を介して成熟crRNAsとして機能する (参考:プロモータ-HH-cRNA1-HDV-HH-crRNA2-HDV-HH-DRT-HDV)。DRTについてはcrRNAsと同様に一対のリボザイムの間に配置した場合と、crRNAsとリボザイムのアレイの下流に単に接続した場合の双方について、DRT転写物が生成され、修復ドナーとして機能することを確認した。
[参考] CRISPR-Cas9ゲノム編集におけるリボザイム利用関連crisp_bio記事
  • CRISPRメモ_2018/11/30 [第2項] マラリア原虫Plasmodium yoeliumにおけるリボザイムを介した多重CRISPR遺伝子編集とCRISPRi
  • CRISPR関連文献メモ_2016/11/18 [第2項] リボザイムを介したgRNA生成を利用したCRISPR/Cas9によるゼブラフィッシュへの変異導入
  • CRISPR関連文献メモ_2016/11/08 [第3項] 自己開裂リボザイムそしてまたはtRNAを組み込んで、CRISPR技術による多重かつ組織特異的遺伝子編集を実現