(創薬等PF・構造生命科学ニュースウオッチ 2016/06/28)
  1. [論文] Escherichia coli のI-E型CRISPR/Casシステムにおける“primed spacer acquisition”の機構
    • Corresponding author: Konstantin Severinov (Waksman Institute of Microbiology)
    • CRISPR/Casシステムの獲得免疫反応には、“adaptation”、“expression and maturation”、そして“interference”の3段階で成り立っている。これまで遅れていた“adaptation”(外来DNAの断片(プロトスペーサー)を獲得(acquisition)し、スペーサーとしてCRISPRアレイへと取込む段階)の分子機構の解明が進み始めた。 
      [注] CRISPR関連文献メモ_2016/01/18の第7項目 [プログレス] CRISPR/Casシステムにおける"adaptation"の作用機序」参照
    • “Primed spacer acquisition”:CRISPRアレイにすでに組込まれていたある外来DNA由来のスペーサーによって、同じ外来DNAから新たなスペーサーを高速かつ高効率で獲得する現象を“Primed spacer acquisition”あるいは “priming”と呼ぶ。
    • [これまでの見方]
      • E. coli の I-E型CRISPR/Casシステムにおいて“priming”は、Casエフェクタータンパク質Cascadeと、標的DNAのプロトスペーサーに部分的に一致するcrRNAスペーサーとによって、効率的に発生する。CrRNAスペーサーと完全に一致するプロトスペーサーは、新たなスペーサーを獲得することなく標的が破壊される。
    • [今回]
      • Cascade-crRNA複合体が“interference”の対象とする完全一致プロトスペーサーと相互作用した場合に“priming”が発生し、crRNAと完全一致するプロトスペーサーと部分一致するプロトスペーサーが同一DNA分子上に位置している場合、前者が後者よりもほぼ10倍の“priming”効率を示すことを見出した。
      • この差異は、完全一致の場合に標的がより速く分解されることに起因すると考えられる。
  2. [論文] CRISPR/Cas9技術とpiggybacトランスポゾンシステムを融合した子宮内エレクトロポレーションは、大脳皮質形成研究に有用
    • Corresponding authors: Ying Liu; Yan Zhou (Wuhan University)
    • CRISPR/Cas9カセットをpiggybac(PB)トランスポゾン・ベクターに組込んだCRISPR/Cas9-PBシステムまたはCRISPR/Cas9n-PBシステムを構築し、マウス胎仔に子宮内エレクトロポレーション(in utero electroporation: IUE)により送達。
    • Sox2 遺伝子を標的とするsgRNAによって、IUE後3日で、ほとんどの神経前駆細胞でSox2 が欠損。一方で、SOX1とPAX6の発現は毀損されず。
    • Cas9とCas9n (D10Aニッカーゼ)のノックアウト効率は同程度。
    • FACSで精製した形質導入大脳皮質細胞において、Sox2 遺伝子座の効率的遺伝子編集を確認。
  3. [論文] フッ化物イオンチャネルを新規選択マーカーとする分裂酵母の高速CRISPR/Cas9ゲノム編集
    • Corresponding author: Julien Berro (Yale University)
    • 分裂酵母S. pombe は相同組換えが容易であるが選択マーカが限られているために多重編集が困難であった。今回、フッ化物イオンチャネル(fluoride exporter channels: Fex1pFex2p)を同定。フッ化物を加えたリッチな培養においてFex1pを正の選択を可能にする新たなマーカーとして利用することで、栄養要求性や薬剤耐性に依存することなく、プラスミドの形質転換やゲノム編集、そして、CRISPR/Cas9ゲノム編集を高速化。
  4. [Editorial] 遺伝毒性学から見た臨床におけるCRISPRの安全性
    • Corresponding author: Mick D. Fellow (AstraZeneca)
    • DNAと直接相互作用する低分子薬剤候補の安全性評価の経験から、CRISPRによる遺伝子治療の安全をどのように評価するか、大きな課題であることを指摘。例えば、1ヶ所のオフターゲット編集は受け入れ難いリスクなのか?