(創薬等PF・構造生命科学ニュースウオッチ 2016/07/02)
  • Corresponding author: Avery D. Posey, Jr.; Carl H. June (Perelman School of Medicine, UPenn.)
  • 血液腫瘍に対して画期的な治療効果を示したキメラ抗原受容体T細胞(Chimeric antigen receptor (CAR) T 細胞)療法(例 CD19特異的CARによる白血病治療)が、固形腫瘍に対する臨床結果は芳しくない。PennのSteven M. Albeldaらは、2016年4月のMolecular Therapy - Oncolytics オンライン公開レビューで、CAR-T細胞が固形腫瘍の微小環境で無力化される様々な要因を分析した(2つの参考図参照)。

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  • 今回、UPennのA. D. PoseyとC. H. Juneらを中心とする米・デンマークの共同研究チームは、マウスにおいて、固形腫瘍に対してCAR-T細胞療法が有効なことを実証した。
    • これまで、CARの標的は、必ずしも必須ではない造血組織に発現している自己抗原、または、腫瘍細胞で過剰発現している自己抗原であった。研究チームは今回、固形腫瘍に特異的な抗原を同定し、固形腫瘍に対してもCAR-T細胞療法が成り立つ可能性を示した。
    • 様々な腫瘍細胞で、ムチンMUC1グライコフォームの一種、腫瘍特異的なグリカンTn(GalNAcalpha1-O-Ser/Thr)を帯びたTn-MUC1、が発現している。一方で、ヒト正常組織の細胞表面でのTn-Muc1は検出限界以下であった。そこで、Tn-MUC1を標的とするモノクローナル抗体5E5を発現するCAR-T細胞を樹立した。
    • 5E5 CAR-T細胞は、実際に標的に特異的な細胞障害性を示した。5E5 CAR-T細胞を注入したT細胞白血病と膵臓がんの異種移植モデルマウスは100%注入後観察期間の113日まで生存していたが、5E5 CAR-T細胞を注入しなかったモデルマウスとCD19 CAR-T細胞を注入したモデルマウスの生存率はそれぞれ40%と33%であった。
    • 免疫組織化学的解析によって、腫瘍細胞に5E5 CAR-T細胞は顕著に集積していた一方でCD19 CAR-T細胞はごく僅かであった。
    今後、安全性をさらに詳細に検証することが必要であるが、異常なグリコシル化を起こした抗原は、CAR-T細胞による治療標的として有望である。