[出典] REVIEW "The microbiome, cancer, and cancer therapy" Helmink BA, Khan MAW, Hermann A, Gopalakrishnan V, Wargo JA (MD Anderson Cancer Center). Nature Medicine. 2019-03-06.
背景
- 過去10年間で宿主のマイクロバイオームと正常な生理機能との相関データが大量に蓄積・公開されてきたが、今や、マイクロバイオームの恒常性の不全、腸内菌共生バランス失調 (dysbiosis)、と、神経疾患、代謝異常、心血管疾患、胃腸障害などにわたる病態との相関が次々に報告されるに至っている。がんについても、腸内マイクロバイオームがその免疫療法に与える影響や、腫瘍微小環境のマイクロバイオームが治療効果に与える影響など、ヒト常在マイクロバオームとがんを関連づける結果が多数報告されている。
- マイクロバイオームを標的とする治療戦略は、前臨床試験モデルや患者コホートにおいて、ある程度の成果を示してきたが、臨床へ展開するには、マイクロバイオームとヒトの健康・疾患の間の複雑な関係をまだまた解き明かしていく必要がある。
レビューの構成
- 腸内マイクロバイオームのdysbiosisによるがん発生のメカニズム
- 腸内マイクロバイオームとがん療法:免疫チェックポイント阻害;化学療法;がん療法が腸内マイクロバイオームに与える影響;腸内マイクロバイームとがん療法の毒性緩和
- 腫瘍および腫瘍微小環境におけるマイクロバイオームの作用
- マイクロバイオームを標的とするがん療法 (表1に臨床試験20例のリスト):便微生物移植 (FMT);プロバイオティクス;マイクロバイオームを成分とする次世代生物学的製剤とデザーナー・マイクロバイオーム;食物、化合物によるマイクロバイオーム組成を調節するプレバイオティクス、およびマイクロバイオームの産物を標的とするポストバイオティクス;抗生物質やバクテリオファージによる腸内マイクロバイオームの調節;腫瘍マイクロバイオームの調節
まとめ
- ヒト常在マイクロバイオームは、免疫系を介してヒトの健康全般に影響を及ぼし、マイクロバイオームの破綻が、がんを含むさまざまな疾患をもたらすことが、明らかになりつつある。
- マイクロバイオームは、腫瘍微小環境に局在することを介して、あるいは、遠位から全身への作用を介して、がん発生とがん療法に影響を及ぼすデータが蓄積されている。
- 腸内マイクロバイオームには後者のメカニズム (全身の免疫系)を介して、化学療法や免疫療法の毒性を緩和する可能性がある。
- 食物、抗原暴露、薬剤およびストレスなどの外的要因がヒトの健康に影響を与えるが、マイクロバイオームがその仲介をすると見られる。
- 今後、マイクロバイオームの作用機序の同定や抗腫瘍性を担う主要な微生物種の特定など、マイクロバイオームをめぐるエコシステムを多面的に解明することが必要であり期待。
参考文献 175編 (1998年~2019年)
図表
図表
- Box 1: 腸内マイクロバイオームのdysbiosisと疾患 (クロストリジウム・ディフィシル感染症; 炎症性腸疾患; 多発性硬化症)
- Fig. 1: 腸内マイクロバイオームによるがん発生のメカニズム (肝臓・胆管; 胃; 胸部; 大腸)
- Fig. 2: 腸内マイクロバイオームが、種々の癌療法の効果と毒性におよぼす影響
- Fig. 3: がん免疫療法 (抗PD-1と抗CTLA-4)に影響を及ぼす微生物分類群分布図
- Fig. 4: 腸内マイクロバイオーム制御法
- Table 1: 腸内マイクロバイオーム調節によるがん療法の臨床試験例
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