出典
背景
  • バクテリアのCRISPR免疫応答システムを阻害するバクテリオファージのAcrタンパク質は、バクテリアとファージの共進化への関心に加えて、Casエフェクターの活性を制御する'オフ・スイッチ'としても注目を集めてきた。
  • これまでに、タイプIIシステムのCas9を阻害する一連のAcrIIに続いて、タイプVシステムのCas12a*を阻害する一連のAcrVAなどが同定されてきた。また、AcrIIについては、Cas9に結合することで、Cas9の標的dsDNAの認識・結合ひいては切断を阻害する構造基盤が明らかにされてきた**。
 (*) Acrsの同定関連crip_bio記事
 (**) 一連のAcrIIがCas9を阻害する構造基盤関連crisp_bio記事
  • crisp_bio 2019-03-13  CRISPRメモ_2019/03/13 [第2項] 一連の抗-CRISPRタンパク質(Acrs)タイプIICのCRISPR-Cas9阻害分子機構は多様である
  • crisp_bio 2019-01-01 CRISPRメモ_2018/01/01 [第1項] 抗CRISPRタンパク質はCRISPR-Cas9とdsDNAの結合を競合阻害する (2報)
  • crisp_bio 2018-09-08 抗CRISPR (Acr)タンパク質:3種類のCas12a阻害タンパク質を発見
概要
  • J. A. DoudnaUC Berkeleyの研究チームとZ. HuangらHarbin Institute of Technology (以下、HIT)などの中国研究グループは今回、AcrIIがCas9エフェクタを物理的に阻害するのに対してAcrVAの一部が、crRNAの切断またはCas12aの修飾を触媒する酵素活性によって、Cas12a-crRNAシステムを無力化することを示した。
  • AcrIIのようにCas9に結合することで抗CRISPR活性を発揮するAcrの場合は、Acr1個がCRISPRエフェクタ1個を阻害することになるが、一部のAcrVAのようにその酵素活性によってCRISPRエフェクタを阻害するAcrの場合は、Acrタンパク質1個が多数のCasエフェクタを不活性化する (マルチ・ターンオーバー)ことで効果的なanti-CRISPR活性を発揮することになる 。
UC Berkeley研究チームの報告
  • AcrVA1、AcrVA4およびAcrVA5の3種類のAcrVAについて、Moraxella bovoculi (Mb) Cas12a、Lachnospiraceae bacterium (Lb) Cas12aおよび Acidaminococcus sp. (As) Cas12aの3種類のCas12aエフェクタに共通なRuvCヌクレアーゼに対する阻害の反応速度解析、および、cis-DNAの切断活性の判定実験から、AcrVAそれぞれに独特な機構でanti-CRISPR活性を示すことを同定した (原論文Fig. 6のモデル図参照)。
  • AcrVA1はMbCas12a、LbCas12aおよびAsCas12aの全てのcrRNA複合体に対して阻害活性を示し、AcrVA4とAcrVA5はAsCas12a-crRNA複合体に対しては阻害活性示さなかった。
  • AcrVA1は、Cas12a-crRNA複合体内で標的DNA認識に必要なcrRNAの3'末端を切断することで、複合体のdsDNAへの結合を阻害した。一方で、AcrVA1は単独ではRNA切断活性を示さないが、準化学量論的な濃度であっても、Cas12a-crRNA複合体内のcrRNA切断活性を示した。こうして、AcrVA1がマルチ・ターンオーバ酵素として機能することが示された。
  • AcrVA4は、AcrIIC3がNmeCas9を無力化する (crisp_bio 2019-03-13) 機構と同様に、Cas12a-crRNAを二量体化することでCas12a-crRNAの標的dsDNAへの結合を阻害した。AcrVA4はまた、dsDNAに結合したdLbCas12a-crRNA複合体をdsDNAから遊離させる作用を示した (LbCas12a-crRNA複合体に対してこの作用は示さなかった)。
  • AcrVA5は、PIDをめぐってAcrVA1と競合しつつdsDNAへの結合を阻害することから、PIDを介した阻害機構の存在が示唆された。
HIT研究グループの報告
  • AcrVA5の構造解析と生化学的解析から、AcrVA5がアセチル-CoAを補因子とするアセチル転移酵素として、MbCas12aの中でPAM認識に必須なLys635をアセチル化することで、立体障害性を介して、MbCas12a-crRNA複合体のPAM認識を阻害し、ひいてはdsDNAへの結合とdsDNA切断を阻害することを同定した。また、MbCas12aへのLys635Argの変異導入によって、AcrVA5のanti-CRISPR活性が失われることも確認し、AcrVA5のanti-CRISPR活性が、AcrVA5とacetyl-CoAの濃度とともに亢進することも見出した。
  • AcrVA5は、HS-CoAの新たなアセチル-CoAへの置換を介して、マルチ・ターンオーバー酵素として効果的なanti-CRISPR活性を示すことになる(News & ViewsのFig.1内の右図参照)。
  • 構造情報:EMD-9742PDB-6IUF AcrVA5; PDB-6IV6 acetylated MbCas12a (2019-04-03時点で公開待ち)