(創薬等PF・構造生命科学ニュースウオッチ 2016/08/05)
- [RESEARCH HIGHLIGHTS] 細胞の系図学者Cas9
- Author: Tal Nawy (Associate editor)
- 細胞系譜の追跡を可能としたMcKennaらのGESTALT(Genome Editing of Synthetic Target Arrays for Lineage Tracing)法をハイライト
- [論文] 鎌状赤血球症患者由来iPS細胞のCRISPR/Cas9による遺伝子修復の新手法
- Corresponding author(s): Tim M. Townes (University of Alabama at Birmingham)
- 高速・高効率のiPS細胞樹立:新奇ヘルパー依存型アデノウイルス/EBウイルス(helper-dependent adenovirus/Epstein-Barr virus: HDAd/EBV)・ハイブリッド・リプログラミング・ベクター(rCLAR-R6)を利用して、リプログラミング6因子をエピソームを介して 鎌状赤血球症(SCD)患者由良皮膚繊維芽細胞に送達
- SCD変異の修復:CRISPR/Cas9をアデノウイルスで送達し、修復用の70ntの長さの一本鎖オリゴDNA(ssODN)をNucleofector™で核に注入。修復効率は67.9%に達した。1,467カ所のオフターゲット候補サイトに対する編集は起こらなかった(全ゲノムシーケンシング解析による評価)。
- [論文] CRISPR/Cas9リボ核タンパク質によるDNAフリーのChlamydomonas reinhardti の二遺伝子ノックアウト
- Corresponding authors: Jin-Soo Kim (Seoul National U.); EonSeon Jin (Hanyang U.); Sangsu Bae (Hanyang U.)
- 微細藻類C. reinhardtii の光合成能、バイオマス生産およびバイオ産物生産の向上が試みられている。今回、Cas9とgRNAsをコードするプラスミドを使わずに、CRISPR/Cas9リボ核タンパク質をエレクトロポレーションすることで、Cp FTSYとZEPの2種類の遺伝子をノックアウトし、ゼアキサンチンを恒常的に産生し、光合成能が高い系統を樹立。この手法はDNAフリーの手法のため、得られる形質転換微細藻類はGMO規制の対象外になる。
- [論文] 疾患と相関が見出されたSNPが病因か否かを、変異モデルマウスを作出して判定
- Corresponding author: Hetian Lei (Harvard Medical School)
- マウスMDM2 遺伝子プロモーターのSNP G309は、癌と増殖性硝子体網膜症(proliferative vitreoretinopathy: PVR)の高リスクと相関するが、PVRの病因変異か否かは不明であった。
- Feng Zhangを含む研究チームは今回、SpCas9とgRNAsを相同組換え用テンプレートと共にアデノ随伴ウイルスベクターで送達して、ヒト網膜色素上皮初代細胞(human primary retinal pigment epithelial: hPRPE)にMDM2 T309G変異を生成。MDM2 T309G hPRPE細胞では、MDM2が増加し、p53発現が低下し、硝子体誘導性の細胞増殖が亢進し、このSNPがPVRの病因変異であることが示唆された。
- [論文] オステオカルシン欠損ラットの作出
- Corresponding authors: Jayleen M. Grams (U. Alabama at Birmingham)
- 骨芽細胞から分泌されるオステオカルシン(bone gamma-carboxyglutamate protein: bglap)は、骨形成のバイオマーカーとして利用されている。オステオカルシンを欠失したモデルマウスが作出されているが、マウスとヒトのオステオカルシンはゲノムレベルでもタンパク質レベルでも差異が大きい。今回、受精卵前核にCas9とsgRNAをマイクロインジェクションして、オステオカルシン遺伝子座を欠損したラット系統を樹立した。ラットとヒトのオステオカルシン遺伝子座はシンテニー度が高い。
- このラット系統の海綿骨はその骨量と骨道度が顕著に増加し、骨強度も増した。
- [論文] CRISPRによるアリル特異的な遺伝子座への結合とゲノム編集の分析
- Corresponding author(s): 藤井穂高(大阪大学)
- ヒト大腸癌由来HCT116細胞のp16INK4a遺伝子座をモデルとして、標的におけるCpGメチル化または1ヌクレオチドのギャップが、CRISPRのアレル特異的な遺伝子座への結合とゲノム編集に与える影響を、定量リアルタイムピーシーアール法とenChIP法で解析した。
- 特定のgRNAを使用した時に限り、アレル特異的結合または編集が可能であることを見出したが、他のgRNAでは実現せず、その分子機構は不明である。アレル特異的結合/編集にはアレルへの接近可能性が影響し、CpGメチル化は影響しない。
- グアニン1塩基を標的領域に挿入することでも、アレル特異的結合/編集が可能になったが、1塩基のミスマッチをスキップするCRISPRの特性に注意が必要である。
- [プロトコル] CRISPR/Cas9システムによるゲノム多重編集結果の検出
- Corresponding author: 川原敦雄(山梨大学)
- ゼブラフィッシュ・ゲノムの多重編集と、ヘテロ二本鎖移動度分析(Heteroduplex Mobility Assay: HMA)を利用した挿入およびまたは欠失(indel)の検出のプロコル解説
- [プロトコル] 染色体欠失ゼブラフィッシュの作出と効率評価法
- Corresponding author(s): Bo Zhang (Peking University)
- Cas9と一組のgRNAsによるゲノム編集によって染色体の大規模削除を加えたゼブラフィッシュの作出法およびF0ファウンダーと生殖細胞系伝達の効率評価法のプロトコルを詳述
- [特許] NOVEL CRISPR ENZYMES AND SYSTEMS
- 発明者:Feng Zhang; Bernd Zetsche; Ian Slaymaker; Jonathan Gootenberg; Omar O. Abudayyeh.
- 譲受人:The Broad Institute, Inc.; MIT; President and Fellows of Harvard College
- [注] Cpf1を対象とする特許出願
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